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アザとー一家 道中記  作者: アザとー
再々道中記
19/31

ゴルファーの姫あらわる

 ホノルル空港についた瞬間に思ったのは、今回の旅は今まで出いちばん難易度が低いかもしれないということであった。

 何しろ飛行機の中からして日本人だらけ、飛行機を降りて最初に耳にしたのは「あ~、飛行機しんどかった~」というつぶやき、入国管理の人も日本語で対応してくれるのだから、油断して当然だろう。

 現地時間ではまだ早朝ということもあり、とりあえずホテルに向かう。ここが一番初めの難関だった。

「アロハ!」

 陽気なイケメンポーターの人懐っこい挨拶に固まるアザとー。

「あっ、あろはっ!」

 やや挙動不審気味に返したものの、笑顔はやや引きつっている。

 これに対し娘は、ダンナの隣にしっかり張り付いてチェックインの手続きをしている。もちろんちゃんとしたテック印には早すぎる時間だが、荷物を預かってもらう手筈を整えて、三時になったらフロントまで戻ればいい旨、全て娘が交渉にあたった。

 もちろん子供であり、つたない英語ではあるが、さすがは日本人観光客の多い土地柄、フロント係もゆっくりとていねいな英語で対応してくれる。だから全ての会話をきょとんとした顔で聞いているだんなよりも娘の方が信頼されたのだろう。カードキーを渡されたのも娘のほうに、だった。

 これが彼女にいくぶんの自信を与えたらしい。

「なんかさあ、私も今回の旅行は難易度低いような気がしてきたよ」

 そんなことを言い出したりする。その流れでレストルームを借りて、チェックインまでの間散策でもしようということになったのだが、このときのダンナの服装に娘が眉をひそめる。

「なにその格好、ゴルフでもするの?」

 何のことはない、いつもよりもあらたまったチェックのシャツに、下はスラックスという格好だったのだが、なるほど、つぃかにゴルフでもしそうな雰囲気だ。

 そんなダンナに娘がつけたあだ名が『ゴルファーの姫』。オタサーの姫のもじりである。

 さて、このダンナ、中身ももちろん姫なのだ。

 散策に出てすぐに見つけたのは『Eggs 'n Things』というホットケーキ屋で、これはハワイのあちこちにある有名な店なのだという。そして、酒飲みゆえに甘いものなど興味ない私と違って、女の子気質のダンナと娘はこれをハワイの目的のひとつにしていたのだという。

「そんな有名な店なの?」

「日本にもあるんだよ、原宿とかにあって、二時間待ちするお店なんだって」

 だから、まずは朝食代わりにこれを食べようということになったのだが、ゴルファーの姫はもちろんうきうきだった。

 可愛らしく指を組み合わせた上に顎を乗せて。

「うふふふふ、並ばないでお店に入れちゃった♡」

 これには娘もやや引き気味である。

「お、おぅ」

「なんにしようかな~、なんにしようかな~。ん、父ちゃんはイチゴのパンケーキ☆」

 もちろん息子もやや引き気味である。

「ああ、そう」

「ね、母ちゃんは、母ちゃんはなんにするの~?」

 私にいたってはどん引きで。

「……女子かよ」

 しかしこのパンケーキ、運ばれてきたときのインパクトがすごかった。掌よりも少し大きいくらいにしっかりと焼かれたパンケーキが五枚。その上に山のように絞られたホイップクリームがもってりと飾られていて、ボリューム満点なのだ。

 そしてこれがめちゃめちゃおいしい。あまり甘くなく作られているので、テーブルに置かれたシロップをかけて食べると好みの甘さが楽しめる。

ただし、見た目どおりに食べ応えも十分。

 ウチは娘がやや小食なので、まずはこれが音を上げる。

「おいしいんだけど、おなかがもう無理だって言ってる……」

 私だって、人よりはしっかり食べるほうではあってもしょせん女の腹だ。三枚目を食べたところでギブアップ。

「お持ち帰りの容器もらって、ホテルで食べようか」

 しかし、これに抗して頑張ったのはダンナと息子だった。

「お持ち帰り容器、有料じゃん、いいから、食っちゃえよ」

 とはダンナの言葉。

「いや、俺はこのくらい余裕で食えるよ」

 とは見栄を張りたいお年頃の息子の言葉だ。

 二人は黙々とパンケーキを口に運ぶが、やはりダンナは残り二枚を残して限界。

「……まだ食べられるよ、食べられるけどさあ……飽きた」

 これに娘は大激怒である。

「見栄張るのもたいがいにしなさいよ、食べ物に『飽きた』ってどういうことなのよ、これだからゴルファーの姫は!」

 そんなお説教を横に聞きながら最後まで頑張ったのは息子だ。あと本当に二口ほど、パンケーキ半枚まで追い詰めることに成功した。

 しかしこれがバナナパンケーキだったのが敗因か、そこで息子は急に席を立った。

「ごめん、ちとトイレ」

 その間に私たちは残したパンケーキをテイクアウト容器につめ、二口ほど残った息子のパンケーキは下げられてしまった。

 つまり、一家全員パンケーキ完食ならず。それでもこのパンケーキはおいしかったのだから、日本に帰ったら娘と二人で再チャレンジに行こうかと思っていたりする。

 そしてゴルファーの姫は、この後、パンケーキを持ったまま完全に暴走を始めたのである。


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