旅の始まり
はわ~い!
今回の旅行先は生意気にもハワイなのである!
とはいってもアザとー、ひどい方向音痴で地名を覚えるつもりなどないのだから、今回の行き先は『ホノルル』ときいたときも、「ほう、ホノルルとハワイに行くのだな」と一人合点していた。
そんなアザとーなのだから、準備段階からしてトンチンカン極まりない。
「へ? 水着いるの? 泳ぐにはまだ寒くない?」
なんてことを言ってはダンナに怒られる始末。
我が家でこういうときに頼りになるのは娘で、ガイドブック片手にいろいろな調べものをこなしてくれた。もっとも今回の旅行の目的は、第一志望の高校に合格した娘へのごほうびなのだから、彼女も張り切るのは当然である。
過去のとんでもない海外旅行経験がよかったのか、それとも少々腐れている方向がアメリカアニメ寄りだからなのか、娘は英語が好きだ。
学校の成績はいつも満点……ならよかったのだが、さすがにそれには及ばず、それでも中学一年生のときの英語の点数がどん底だったことを考えれば相当に努力をした結果なのである。
努力というよりは楽しみの延長線上だろうか。娘は暇さえあれば外国のアニメの動画を漁っている。もちろん日本語字幕のついていないこともあり、これを必死で訳しているのだから、私なんかよりも英語的にはよっぽどか頼りになる。 きっと今回の旅のメインとして活躍してくれるだろう……と思いきや、実は成田の空港内でちょっとチキったりして……。
搭乗手続きを終えてラウンジに入れば、そこはすでに異国の始まりである。外国へ『帰る』人も多いがゆえに、ネイティブな英語がちらほら耳に入るわけである。
そんな異国の入り口で、娘が痛む胃袋を押さえながら私に囁いた。
「なんか、自分で英語できると思っていたのは思い上がりだったっぽい。なに言ってるのか、一言も理解できないよ」
実はこれも対面で、自分に話しかけられた言葉を聞き取るならまた違うのだろう。それに、映画俳優や声優のように聞きやすい声で明瞭に話すのではなく、なんだかなまった感じでぽそぽそと囁きあう言葉まで理解できるのはそうとうな上級者だと思うのだが……たまに鼻っ柱を折られるのはいいことだ。わたしはこの見解を飲み込んだ。
今回は座席が離れての搭乗となったので、娘は言葉についてひどく不安がった。
とはいえ、ホノルル行きの飛行機は日本人観光客も多く、日本語のできるスタッフもちゃんと乗っている。何かを不安がるほどのこともなかろう。
それでも普段強気な彼女が弱気なのはちょっと可愛くて。
「だいじょうぶ、なんかあったら母ちゃんのところにおいで。座席はここだからね」
「いや、母さんこそ何かあったら聞きにおいでね。少なくとも母さんよりは英語できるから」
はい。そうでしょうね。
ともかく機内では何かトラブルが起こるようなこともなく、時差ぼけ対策のためにそのほとんどを寝てすごしながら、私たちは無事にホノルル空港へとついたのである。




