息子のアメリカンドリーム
さて、カジノよりもアザとーがドはまりしたもの……それが子供向けのゲームコーナーなのでした。
サーカスサーカスはファミリー向けのホテルであることがウリ、親がカジノで遊んでいる間に子供たちが遊ぶためのアミューズメントが併設されている。何しろホテルの名前の由来がショーとしてサーカスを開いているからで、それ自体はゲームコーナーの真ん中に作られた小さなステージでジャグリングや早着替えショー、天井からつるした綱を使っての演技などが楽しめた。
それのみならず紫色の大きなドームがホテルの隣にどーんとあり、この中にいくつかのライドといくつかのジェットコースターがごちゃっと詰め込まれているのだ。その雰囲気はどこか花やしきを思わせる。
だからここは子供をつれた家族が多く、アザとー的にはパラダイスだった。
何しろこどもなんて、どこの国の子供だってさほど変わるわけじゃない。いや、むしろ自由の国でのびのびと育った子供なのだから実に腕白な、アザとー好みの子供が多いのだ。
ブラウンの瞳をきらきらと煌かせた少年が25セント玉でポケットをパンパンに膨らませて俺の隣を駆け抜けてゆく。そしてお目当てのゲームの前で立ち止まり、やわらかい高音で「ダッド!」と自分の親を呼ぶのだ。
「やっべぇえええええ! かわええっ!」
その視覚的効果たるや、娘と二人で身悶えるほどである。
カジノ二階には大きなゲームコーナーがあり、ここにはぬいぐるみを景品とした的あてや缶倒しなどの縁日ゲームが並んでいる。その間を埋めるのは日本ではかなり旧型となったシンプルなコイン落としゲームや子供向けのスロット系、その他雑多なゲーム機だ。
そのすべてがゲームの勝敗によって小さなチケットを払い出す仕組みになっている。このチケットを集めて景品交換所に持っていくと、枚数に応じて子供たちが喜ぶような景品と交換してもらえるのだ。
娘のお目当ては某アメリカアニメのキャラクターぬいぐるみ、そして息子は……
「ブルートゥースヘッドホン……三千五百枚か……」
冷やかし半分、期待半分で25セント玉8枚を手渡す。
「ほしい物は自分の才覚で稼いでこい」
「了解!」
元気に走っていった息子が向かったのは某スマホゲームにアーケード版、進んだ距離に応じてチケットが払い出されるらしい。
「だってこれさ、日本じゃ見ないゲームじゃん?」
ところがこの台がエラーを起こしてプレイできず、最低枚数のチケットしか獲得できないという不完全燃焼感……
「わかった、これで稼ぐよ」
息子が選んだのはボールをポスンと打ち出し、それが入った穴に書かれた枚数が払いだされるという、ボールスロットだ。これは中央にスーパージャックポット穴がテーブル上に設置されており、ボールの弾み方によっては大当たりも夢ではない。
ちなみにアザとーもこのゲームにはまってかなりの25セント玉を貢いだが、ついにスーパージャックポットには届かず、見た目よりも簡単じゃない運任せのゲームなのだ。
これが一台目、息子はいきなりジャックポットにボールを叩き込むという強運を見せた。テーブル状になったスーパージャックポットほどではないが、他の穴よりも一段高い作りになった中難易度の穴である。
払い出しは200枚程度だが、これに気をよくした息子はとんでもないことを言い出した。
「ジャックポットは目押しで狙える!」
それを証明するべく挑戦した二台目、奇跡は起きた。
「あ~あ、はずれじゃん。やっぱり目押しなんてできないんだよ」
あっさりとあきらめて背中を向けた息子。しかし、跳ね回るボールの弾道を見守っていた妹が叫ぶ。
「お兄ちゃん!」
振り向いた息子も見たはずだ、テーブルの上で軽くホップしたボールが吸い込まれるようにスーパージャックポット穴を通るその瞬間を。
「はあ?」
異国の地で親子三人、日本でいちばん間抜けな驚きの声を上げた。
「何枚? ねえ、何枚払い出されるの!」
「えっと……さ……三千枚だ!」
チケット払い出し口から、床の上に、小山になるほどのチケットが吐き出される。
通りかかった親子連れが驚いて声をかけてくるほどなのだ。
「ハウメニー?」
息子ドヤ顔、ただし言葉はつっかえながら答える。
「あ~……三千……さうざんど、すりーさうざんど!」
「おう!」
こうして俺が少しチケットを足してやり、息子は無事に念願のブルートゥースヘッドホンを手に入れたのである。




