アメリカ飯が食いたいならスーパーに行け!
最初についたのはサンフランシスコ。ここで飛行機の乗り継ぎもかねてゆったりとした休日を二日間楽しむ。
『アメリカ飯が食いたいならスーパーに行け』は前回の旅行中に学んだいちばんの基本であり、最優先事項だ。まずはスーパーマーケットを探しにホテル周辺を散策。
今回はサンフランシスコのユニオンシティという町に泊まった。なんとホテルの真隣が大きなショッピングモールという、とてもうれしい立地条件だ。
「なんだよ、ショッピングモールとかしょぼ!」と思われた方、アメリカのショッピングモールをなめちゃいかんですよ。人間も建物も大柄なお国のこと、一店舗ごとが大きくて品数が半端ない! そのショッピングモールを見て歩くだけで二日間を楽しく過ごすことができました。
さて、お目当てのスーパーマーケットは、もちろんショッピングモールの中にありました。大型のカートを押して突入です。
「ごっはん~♪」
入り口のすぐ横が野菜売り場なのは日本と同じです。もっとも並んでいる野菜の種類はかなり違うのですが。
「母ちゃん、この茎が赤い菜っ葉ってなあに?」
「えっと、チェア……ド?」
たどたどしくアルファベットをなぞる私と娘の背後から、息子がぬっと割り込んできた。
「チャード、だと思うよ?」
「あ~、はいはい、昔、庭に撒いたことあるわ~。フダンソウね」
ろくに肥やしなどくれずに育てても味噌汁の具に困らない程度の収穫はある優秀作物なのだが……それにしてもでかすぎないか?
「あれだ、日本で言えば小松菜感覚なんだろうな」
とはいっても調理施設のない旅先でのこと、葉物野菜など買うわけにはいかない。
「買うとしたらカットサラダ、もしくはカットフルーツだな」
大きいパックでも6ドル程度、内容量を考えれば安すぎるくらいの値段だ。あとは旅先ということを考えてドレッシングのいらない野菜スティックにするか……と悩みながら吟味している最中に娘の声が店内に響いた。
「母ちゃん、母ちゃん! お肉が安い!」
調理用具がないのだから肉など買っても仕方ない……
「ぐあ、なにこのでっかいステーキ!」
大人の顔ほどの大きさがあるステーキが2枚入って立ったの3ドル程度とは、価格破壊である。
「母ちゃん、こっちのフリーって何かなあ、お肉ただで持って行っていいのかなあ?」
「ツー、バイ……つまり二つ買うと一つタダってことだろうな」
「すごい、太っ腹!」
なんだかアメリカ人が大きく育つ理由がわかったような気がした。
「……って、そうではないぞ、娘よ! テレビ飯を探すのだ!」
「なに、テレビ飯って?」
「テレビを見ながらレンジでご飯できるように、一人分のディナーをパッケージして冷凍したものだ! アメリカではそういうご飯が主流らしい」
「ああ、理解。冷凍食品コーナーだね」
実は私はこの知識をホラー小説で知ったのだが、腐女子である娘のほうがこういった創作物から得た情報を豊富に持っており、それは折に触れて私たちを助けてくれた。
「あ、それサ○スパークで聞いた! とりあえずイエスかノーか、答えておけばいいんだよ!」
もちろん、学校教育もまったく役に立たないわけではない。
「授業でやったよ、なんだったっけな……あ、『ここをまっすぐ進んでください』だ!」
スーパーなどで店員から『お手伝いしましょうか』の声をかけられれば娘が答える。
「ノーサンクス」
ホテルのチェックインのときも娘が先頭に立って大活躍だ。
「アドレス。ここに住所を書いてください、だって!」
前回の旅行とは大違い、実に生き生きとアメリカを楽しんでいる。
え? 俺ですか? めっちゃ脳内補完&日本語混じりでごり押しというスーパーテクニックで乗り切っておりますが?
――ポテトフライもつけますか?
「あ、イエスです」
――わかったわ。ドリンクは?
「コークでお願いします」
これでも何とかなるのだから、実は言葉の壁というのは、日常レベルでは存在しないのかもしれない。
ともかく、手に入れたテレビディナーを部屋に備え付けのレンジで温め、ガロン買いしたミネラルウォーターで乾杯する。
味は驚くほど普通であり、これがアメリカの通常の味なのだろうと納得する。それに、肉の入った何らかのメニューからミートソースのパスタ、チャーハンにいたるまで、毎日を暮らすに困らないだけのメニューがそろっており、一人分ずつだということで各々このみのメニューを選ぶことができた。
そのおかげで今回はアメリカの味にすんなりとなじむことができたのだ。
サンフランシスコが田舎であり、特にホテル周辺が治安よい上品な地域だったということもあったのだろうが、こうして二日間、ただ何をするでもなくアメリカで『暮らす』ということを体験できたのは、娘の、そして息子の語学力を十分に上達させたのである。
ちなみにこっそりカミングアウト。娘の英語のテストの点数……30点でした☆




