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旅立ち

 それはまだ肌寒い三月初めのことだった。

「ねえ、3月26日からって休める?」

「は?」

「旅行に行くから」

 アザとー家の旅行が旦那の独断なのはいつものこと。このくらいで驚いていては十を超える年月など共に暮らしていけはしないわけで……

「どこに?」

「アメリカ♡」

「はあああああああ?」

 えっと、それはさすがに? 箱根に行こうというのとはちょっと違いますよ?

 だいたいがアザとー一家、アザとー自身も息子も英語の点数はどん底。娘だって、そう言い出した旦那ですら、英語とは縁遠い生活である。

「やだ。えーご嫌い」

「俺が行くって言ったら……」

 いつものごとく暴れようとした旦那が、このときばかりは賢かった。

 悪魔の誘惑をアザとーの耳に吹き込む。

「ファーストクラスに乗せてやるよ」

「いいいいいいいいい! 行くっ!」

 こうしてアザとー家の渡米が決まったのである。


 アザとー家のメンバーを例えるなら、旦那は猪八戒。外見といい、ぶーぶー言うわりに動くわけでもなく、決してトップを取れない。

 次いで息子。イケメン、エロ河童という立ち位置が似合う男ではあるが、冷静なわりにいざというところでビビりなため、こいつもトップに相応しくは無いだろう。

 メインキャラであるはずの孫悟空こと娘は、アクティブで攻撃力は高いのだが、いかんせん引っ込み思案であるがゆえに非日常に弱い。

 ここはやっぱ、俺でしょ? 

 開き直りという名のクソ度胸。加えて極度の人見知りゆえに転じた万国共通の愛想の良さ。おまけに無敵の野生児っぷり! 俺がやらねば誰がやるってことですよ。

 ただしアザとー、立ち位置的には三蔵というより、牛魔王ですけどね?

 こうしてアザとーは自らのパーティーを取りまとめるべく、大変な思いをするハメになったのです。


 まずはブタちゃん。この人、座右の銘は『朝令暮改』なんじゃないかというほど、思いつきで物を言うのですから、周りはぶんぶん振り回される。

「行き先はハワイにするから」と言った舌の根も乾かないうちに「ロスだ、ロス! 行ったこと無いだろ?」と予定は変更されるのです。

 おまけに無計画な人なのですから行き先がサンフランシスコだと聞いたのは旅行の一週間前。何時のどの便に乗るのかを知らされたのは前日になってからと言う、実にフレキシブルな対応を要求されてちょっとぐったり気味ではあるのですが……今回、ファーストクラスに乗れるのは、空港関係の仕事をしている旦那の福利厚生なので文句など言うわけにはいきません。

 そもそもアザとーは無類の乗り物好きであります。それも型番を覚えたり、何かを考証したりと言うタイプではなく、ただ『乗る』事が好きな、小学生男子レベルの乗り物好きなので性質が悪いのです。

 そんな俺に『ファーストクラス』ですと? 頑張るに決まっているじゃないですか!

 まずは子供たちの説得。

 度胸の座っている娘は簡単なのですが、息子は少々厄介です。神経質で高所恐怖症(飛行機嫌い)の彼をようように口説き落としました。

 パート先に平身低頭、バッタの構えで大連休もとりました。

 こうしてようやく、出発に至ったアザとー家は、成田空港に向かいましたとさ、なのです……


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