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Mother Complex

作者: こをり
掲載日:2011/08/11

題名通り、マザーコンプレックスな男の話です。

俺の母はまるで聖母マリアのような人だ。

いや、もしかすればマリア様よりも美しく、優しく、慈愛に満ちた人なのかもしれない。


長く美しい、絹糸のような漆黒の髪。

きめ細かい、雪のような色白の肌。

微笑めば悪魔さえ魅了してしまう瞳。

花を揺らす風の様に、耳にそっと入る声。

潤っている桜色の唇は、見ているだけで吸い付きたくなるような。


100人中100人が我が物にしようと意気込み、ことごとく散っていった。

話しを聞けば聞くほど、母はかぐや姫なのではないだろうかと心配になった。

この美しい母は、いつか月へと帰ってしまうのではないか。

その事を不安に思い、母の膝へと泣きつけば、まるで歌っているかのような声色で、杞憂だと言い頭を撫でてくれた。


さすがにこの歳で縋りつく様なことは出来ないが、かわりに抱きしめられるようになった。


守るために、慈しむために、愛するために。

牛乳を毎日飲んだ。筋トレだって欠かさなかった。

勉強は苦手だったが、いい点数をとれば褒めてくれると知り、一生懸命机に噛りついた。

それとなく母の好みを聞き、髪形も服も性格もそれ相応にした。

母は読書が好きだった。だから俺もたくさん本を読んで、会話の幅を広げた。


全ては母に振り向いて欲しくて。

あの澄んだ深海のような瞳に、俺だけを映して欲しくて。


学校の女子は、皆同じに見えた。

ヘタな化粧をし、はしたない容姿で頬を赤らめ告白しに来たが、鏡を見て出直して来いとさえ思ったほどだ。けれどもバカな女子たちは、迷惑を省みず俺の周りをうろつき、その瞬間を母に見られ勘違いをされたのだ。

あの時は、誤解だと母を説得するのにどれだけ時間と労力を使ったか。

だから女子の少ない高校を選んだ。

本当は男子校に行きたかったが、家からの距離が遠すぎる。何を好き好んで、母から離れなければいけないのだ。それはどんな拷問よりも酷く、断腸の思いとなるかは想像したくもない。


母の事を第一に考え、行動し、極力女子から距離を置いていた今日。

母の誕生日を向かえたのだ。


あぁ、ご先祖様。俺はあなた方を母の次に尊敬し、敬愛する事を誓います。

なぜなら、女神のような天使のような王女のような女帝のような、母を作り出してくれたのだから。

感謝してもし足りない。


さっさと学校が終わるようずっと時計と先生を睨みつけ、暇なのかと言いたいくらい毎回休み時間にくる女子たちを無視し、掃除をふざける男子たちを片っ端から地に沈めていった。

もちろん合間合間に母とメールをし、ささくれる心を癒してもらった。


チャイムが鳴ったその瞬間。俺は全速力で走り、前から予約していた、でかいクマのぬいぐるみとバラの花100本を取りにいく。

数日前ソファに座り、母を膝に乗せテレビを見ていると、たまたま『男性から貰って嬉しいプレゼント』という番組企画をしていたのだ。その中に入っていたのがこの2つ。母が反応したのもこの2つ。

鈴を転がすような声で、素敵だね。と言ったのを俺は聞き逃さなかった。


包装紙が崩れないように上手く走り、母の好きな薄いピンク色の家へたどり着く。

玄関前で息を整え、ネクタイをきゅっと締める。

インターホンを押してしばらく待つと、パタパタと可愛らしい足音が近づいてくる。

このドアが開いた瞬間、母の視界はこのバラの花束で埋め尽くされ、俺の腕へとすっぽり収まるのだろう。

驚いて小鳥のさえずりのような悲鳴を上げ、犯人が俺だと分かった時、とろけそうな笑顔で「お帰り」を言ってくれるのだ。

想像しただけで、頭と鼻と心臓と下半身が大爆発してしまいそうだ。


カチャリ、と開くドア。

覗く小さな手を優しく、けれど強く引っ張れば鼻腔一杯に広がる、バラと母の香り。


「ただいま、母さん。それと、Happy Birthday!」


大きな瞳を数回瞬きした後、聖母が嫉妬するほど母の笑顔は美しかった。

あぁ、あぁ、愛しい母を俺の腕の中で閉じ込めれるなんて、なんて幸せ者なんだろう!



父?

そんなもの聞いたことも見たことも存在しているなんて事も、知らないよ。

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