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番外編 出会い(湊side)

難産でした。


納得のいくものがなかなか出来ず、何回もやり直して今回のが何とか及第点といったところです。


強引なところもあり、どうするか迷いましたが、番外編として投稿することにしました。


お粗末なお話ではありますが、どうかこれからもよろしくお願いします。

あれは、僕がちょうど十歳の時だった。


季節は冬。


雪が町に化粧をし始めた頃。


時間は深夜。


何時だったかは覚えていない。


場所は名も知れない公園。


何故そんな時間にそんな場所に行ったのかは分からない。


ただ、行かなければならなかった。


行かなくてはいけない、そんな思いが僕を覆い尽くした。


そしてそれは正しかった。


公園の中央に女性がいた。


女性と言っても十代後半といったところだ。


僕はその女性に恋をした。


一目惚れ、そう言われればそうなのかもしれない。


その女性の、死を望む憂いに帯びた瞳に、儚げに待ち望んだ瞬間がきたとでも言うかのような表情に、僕は見惚れたのだから。


しかし、女性は僕が居ることに気付いていない。


それがどうしてか気にくわなかった。


だからだろう、思わず声をかけてしまったのは。


「あの! お姉さん!!」


「っ、!?」


女性はやはり驚いていた。


でも、これでやっと気付いてもらえたと思うと、僕は嬉しくて堪らなかった。


「お姉さん、何で死のうとしてるの?」


「っ、……何を」


僕が歩み寄りながら口にした言葉は当たっていたようだ。


女性は動揺を隠し切れていない。


「隠さなくてもいいよ。それにそんなの持ってそんな顔してたら、僕じゃなくても気付くと思うけどな」


近寄ってみて、僕は漸く女性が左手に何か握っているのを確認できた。


この公園は街灯も無いため、月明かりしか頼れるものがない。


大型のナイフを見つけたのは女性の直ぐ側まで辿り着いた時だ。


「僕はあなたに死んでほしくない。だから、僕があなたを救います」


無言を貫く女性に、僕は自らの本心を伝えた。


「子供が何を言っている。君に何が分かると言うんだ! 救うだと? 何も知らないくせに!!」


女性は泣いていた。


とてつもない怒りとともに。


「確かに分かりません。だから、貴女のことを教えてください。僕が必ず救ってみせます」


しかし、僕はそれでも救うと口にする。


女性が話してくれるまで何度でも女性に歩み寄る。


「戯言を!! 私をこれ以上怒らせるな!」


女性は拒絶を繰り返す。


「お願いします。話してください」


僕は女性の右手を掴み、女性を見上げた。


「っ、触るな!! いいさ、そこまで聞きたいなら話してやる。私はな、化け物なんだよ!!」


女性は右手を振り払うと後退りして僕から離れた。


そして、ダムが決壊したかのような勢いで全てを話し始めた。


そこからの女性は支離滅裂になりながらも、心の内に溜まったものを次々に僕にぶつけてきた。


「友達だと思っていた連中には裏切られ、信頼していた教師にまで裏切られ、家族にさえもだ!! 私が化け物だからと!! 私が異質だからと! 私がおぞましいからと! 一体私が何をしたと言うんだ!!」


異様なまでの迫力を醸し出しながら女性はぶちまける。


「何年も、何年も!! 虐げられてきたんだ!! 信じようとだってしたさ! でも、結局最後はみんな口にするんだ、化け物と!!」


憎い。


悲しい。


辛い。


様々な感情がその場に溢れかえっていた。


「私は、私は、ただ」


そして、とうとう女性は泣き崩れ言葉を詰まらす。


まだまだ思っていることはあるのだろうが、それが口から出て来ることはなかった。


「お姉さんは、孤独なんだね」


僕は再び女性に近付いた。


「ああ、そうだ。私は結局独りぼっちなんだよ」


「うん、でもそれは過去の話しだよ。今は違う」


掠れた声で紡がれる女性の言葉に、僕は不謹慎ながらも少し笑ってしまった。


「過去? 今は? はっ、一緒だ。私は独り。変わらない」


「違う。今は違う。僕が傍にいるじゃないか」


女性の否定の言葉に何を言っているのだとばかりに、僕は女性を抱き締めた。


「子供がませたことを。君は知らないからだ。私が化け物と呼ばれる所以を」


口ではこう言っているが、どうやら女性も落ち着きを取り戻したようだ。


先程までの凄みは消えていた。


「なら見せてみて? その化け物を」


「……後悔しないことだ。トラウマになっても知らないからな」


僕の軽口に多少呆れた物言いをした女性は、抱き締めていた僕を離し立ち上がる。


更に一歩二歩と下がっていき、二メートル程離れた所で立ち止まった。


「初対面の相手にこれを見せるのは君が初めてだな」


そう言って女性は両手を前に突き出し、自身に眠る魔力の核を揺り起こす。


そして、


「……宝器ほうき。まさか、ここまで完成に近いものをその年で創れるなんて」


僕は素直に驚いてしまった。


「これが何なのか知っているのか!?」


女性は歪な、しかし、凄まじいほどの力を放つ大剣と思わしき物を握り締めながら、僕の言葉に驚いたようだ。


それも仕方ないかもしれない。


僕の知識と経験を照らし合わせても、宝器と言うのは、担い手が極端に少なすぎて認知度など無いと言っても過言ではないのだから。


「お姉さんは知らないんだ。うん、これは宝器。簡単に言えば魔器を超越したものだよ。と言ってもその大剣は存在が不安定で歪なモノに成り下がっているようだけど」


僕は知らないのも無理はないと、大雑把に説明した。


そのために、まず、魔器の説明をしよう。

魔器とは、己に宿す魔力の核と言うものを揺り起こし、己の魔力の核を知り、そして己の魔力の核に認められる事で初めて生成と精製が可能になる。


形などは人それぞれ、千差万別なのだが、一つだけ共通点がある。


それは、凄まじいほどの力を得るというもの。


身体能力の強化然り、治癒魔法の向上然り、こちらも何の力を得るかは千差万別ではあるが、大いなる力を得ることには変わりない。


ただ、実際に魔器を得た者は世界規模で見てもそう多くはないだろう。


それほど、魔器と言うのは会得困難なものなのだ。


それが、魔器。


そして、宝器。


本来、宝器と言うのはその魔器を昇華させ、更に別次元のものへと転生させ、漸く宝器となる。


それを十代で創り上げたと言うなら驚異的だ。


「これが化け物の所以と言うなら納得かも」


「やはり、君も」


僕がつい呟いてしまった一言に、女性は悲痛な面持ちをしてしまった。


「あ、誤解しないでね!? 僕は平気だから。ただ、耐性のない人には辛いものがあるってだけ」


僕は慌てながらも誤解を解こうと躍起になっていた。


「何て言うかなぁ、この宝器は未完成なんだ。だから本来有り得ない、おぞましいとか恐ろしいとかって言う印象を相手に与えてしまっているんだと思う。その証拠に存在が歪でしょ。その大剣」


やっと粗方の説明を終え、一息吐いた僕は改めて女性を見た。


すると、何か思案しているのか下を向いて眉をひそめている女性の姿が映る。


「君は、何故」


女性は何か言おうとしたようだが、口をつぐんでしまう。


「いや、何でもない。君はこれが未完成だと言ったな? ならばどうすれば完成に持っていける? まさか、知らないとは言わせないぞ」


女性は首を振ると、僕が何かを知っているはずだと確信しているような瞳で見てくる。


「知らないわけじゃないけど、魔器と一緒で人それぞれなんだよね。そう言うのって」


「それではどうしろと?」


しかし、教えてあげようにも難しい問題で、頭を悩ませていると、女性は拗ねたような表情を浮かべる。


「うーん、あんまり使いたくはないんだけど、仕方ないか」


その可愛らしい仕草に負けたというわけではないが、僕は一つの方法を取ることにした。


それは、女性の天性の才能に賭けた方法と言ってもいいかもしれない。


「お姉さんの才能が僕の予想を上回っているのを期待するよ」


僕が何をするか分かっていない女性に微笑む。


そして、両手を前に突き出し、己が魔力の核を揺り起こす。


「それは……」


女性は言葉を失ったようだ。


「宝刀 夜桜、紅桜」


そう、僕は宝器を創り出した。


二振りの鍔のない刀。


一振りは夜を押し込めたような色合い。


一振りは鮮やかなまでに紅い色合い。


その存在は至高の域にまで達しているようであった。


完成したものを女性に見せることによって、宝器の真の姿を知ってもらおうとしたのだ。


「お姉さんは化け物じゃない。お姉さんが化け物なら、僕は一体何なんだって話しになっちゃうしね」


惚けている女性に、僕は口角を上げ茶目っ気たっぷりに笑った。


「宝器、はは、そうか。全て君の言うとおりだな」


死のうと思い悩んでいた自身が心底可笑しいと、女性は腹を抱える。


僕はそれを少し違うことを考えながら見続けた。


(俺は、どれだけ愚かなのだろうか。既に俺という存在は無くなり、湊という存在でしかないというのに。俺は湊ではなく、俺として彼女を好きになった。俺として彼女に接してしまった。何て情けない。誓ったはずなのに。幾ら湊になろうとしても、偽りは偽りでしかないのだろうか)


僕が寂しげな表情でもしていたのだろう、女性は笑うのを止め、歪な宝器を消して近寄ってきた。


「大丈夫か。深刻そうな表情をしていたが」


「大丈夫だよ。少し眠くなってきただけ。それじゃあ、僕は帰るね。何時かまた」


誤魔化すように言った言葉であったが、最後に気持ちが漏れてしまった。


「帰るって、待ってくれ!! せめて名前だけでも教えてくれないか!?」


だが、女性の方はそれを気にしている場合ではなかったようだ。


いや、気付かなかっただけかもしれない。


「名前? ――――だよ。貴女の名前は?」


どうしてこの時、この名前を名乗ったのかは分からない。


何時の間にか口から出ていて止めようもなかったのだ。


「そうか、私の名前は冬川 真冬。よろしく」


これが真冬さんとの出会い。





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