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二章 物語の幕開け(遅刻)

「ふぅ、間に合った。……ん? あれは」


遅刻まで二分切ったと言うところで、なんとか校門に到着した湊は、校門に見知った人物を見つけた。


湊よりも少し小柄な身長。


自慢の黒く艶のある長髪と、可愛らしいが気が強そうな顔立ち。


色白だが慎ましい程に慎ましい、凹凸の無い体型。


「おーい、楓。校門で何してるんだ?」


一つ下の妹であるかえでだった。


「……兄さん。見て分かりませんか。遅刻指導強化週間なので、生徒会で遅刻者指導を行っているんです。最近は遅刻者が増加の傾向にありますから」


楓は呼び掛けられたのが湊であると気付くと、一息置いてからつらつらと説明する。


「あー、そういや今日からだっけ、強化週間」


楓の説明に、湊は先週辺りに言われていた事を思い出した。


「はい、なので兄さんでも容赦はしません。ちょうど、時間にもなりましたから指導しますね」


楓は相槌を打ちながらも、さらりと湊に宣告する。


「えっ、いや、校門入ってるんだしセーフでしょ!?」


「いえ、兄さん。片足が校門から出ていますから駄目です。それに教室に入っていなくては、どちらにしろ遅刻に代わりありませんよ?」


あまりの事に湊は慌ててしまうが、楓はそれを気にも止めずに淡々と逃げ道を潰していった。


その時の無表情っぷりは、湊も顔を引きつらしてしまう程だった。


「指導は嫌だ。頼む見逃してくれ!」


「申し訳ないですが、無理ですね。それに、兄さんに会いたがっている人もいますから、遅刻してくれて良かったです」


それでも湊は微かな希望に賭け、楓を説得するも、楓は意志を変えない。


逆に、今度は追撃とばかりに偽りの微笑みを浮かべ、湊が嫌がる内容で追い詰めていく。


「会いたがってるって、あの人だろ!? 余計に逃げ出したくなった! 僕があの人から逃げてるの知ってて」


事実、湊は嫌がった。


何故、朝からこんなに追い詰められなければならないのかと、真剣に考えてしまうほどに。


だがしかし、噂をすれば何とやら、湊の話しは遮られてしまう。


「ほほう、そんなに私に会いたくなかったのか。通りで最近、湊に会えないと思ってたんだ」


今、まさに話題にしていた張本人によって。


「……オハヨウゴザイマス。イイお天気デスネ、冬川センセイ」


錆びた音が聞こえてきそうな程、湊はぎこちなく首を声が聞こえてきた背後に向ける。


垂れていた長い黒髪をかき上げている妖艶な大人の女性。


冬川ふゆかわ 真冬まふゆがいた。


スーツからでも分かるほどのメリハリのある体型と、傾国の美女と言われても頷いてしまうほどの顔立ち、かなりの美人なのは間違いないのだが、


「ああ、とてもいい天気だな。雨は降らないだろうが、いい曇り空だ。なぁ、湊」

その美しい唇からの返答は、威圧的な微笑みを交えた皮肉であった。


ヒールを履いていることで湊とそう変わらない身長になり、余計に威圧感を増しているようだ。


「はは、あははははは」


「では、冬川先生、後はよろしくお願いします」


気まずさで笑い続ける湊を横目に、楓は時間を確認し、授業に出るため冬川への引き継ぎをさっさと済ます。


「ああ、分かった。授業には遅れないようにな」


それをどう解釈したのか、冬川はにんまりと楓に笑みを浮かべ、満足そうに何度も頷く。


「はい。では、これで私は失礼します」


だが楓はそれさえも流し一礼した後、一足先に踵を返して校舎に入っていった。


「さて……待て待て逃げるな。話を聞け話を」


湊も楓について行こうとしたが、やはり止められてしまう。


「いや、あの、冬川先生を嫌ってる訳じゃないんですよ? ただ、何時もあんな事されると主に精神的な要素で、僕も学校に居づらくなるというか、実際男子の視線が痛いですし。だから仕方なく、仕方なく冬川先生を避けていたんです」


仕方なくその場に留まった湊は、冬川と目を合わせないよう視線を逸らしながら必死に言い訳をする。


「いや、今日はその事で来たわけじゃない。ちょっと湊に頼みたいことがあってな。妹さんに頼んで湊を足止めしてもらったんだ」


冬川は湊の言い訳に多少目を鋭くさせたがそこまでに留めた。

今回は別件だったからだ。


「頼みたいこと? それなら楓じゃなく僕に直接言うか、放送でもかけてもらえれば」


「誰のせいだと思っているんだ?」


だが、湊の言い分に冬川はつい我慢できず、目が据わって黒い笑みを浮かべる。


「あまり生意気を言うと、これ、市役所に出してくるぞ?」


そして、どこから出したのかある書類を湊に見せ付けた。


所謂いわゆる、婚姻届だ。


数ヶ月前に、湊が冬川の書類整理を手伝わされていた時、巧妙に細工されたそれに名前を書かされ、挙げ句、なぜか冬川が持っていた山城の印鑑まで押させられてしまっていた。


不思議とその時の記憶は曖昧で何故そうしてしまったのか、湊本人にも未だによく分かっていない。


「……調べたら、そんなの無効に出来ますよ。それに年齢のこともありますし」


「出来るわけないだろう。私を誰だと思ってるんだ? 多方面に圧力を掛けてでも承認させるさ。勿論、年齢のこともな」


微力ながら抵抗の姿勢をみせた湊であったが、冬川には通用しなかった。


冬川は天才的な魔法の才能と最強と名高い実力で、世界的にもかなり高い地位と権力、コネを有していた。


それは絶対的なものに近く、彼女をそこから引きずり降ろすには、殺すしかないとまで言われているほどだ。

無論、程度にもよるが特例をごり押しする事も可能だった。


「話が逸れたな。本題に入ろう」


湊が白旗を揚げたのを確認した冬川は満足げだ。


「まぁ、ここじゃ何だから取り敢えず職員室まで着いてきてくれ」


湊は何ともいえぬ敗北感と、自分は何故、冬川にここまで好意を持たれてしまったのだろうと考えながら、職員室までの道のりを足取り重く着いていった。


異常とも言える湊に対する冬川の執着心と依存心は、好意という言葉では片付けられないほどのものがあった。


これには歴としたわけがあるのだが、それは彼女がまた別の機会に話すことになるだろう。

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