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二章 物語の幕開け(家族)

この話は長くなりそうだったので、二話に分けさせてもらいました。


現在、午後六時過ぎと夕暮れ時を通り越した時間。


「いやぁ、良かったですね。謹慎十日で済むなんて奇跡じゃないですか」


湊は真冬と供に、ほくほく顔で教師のいない会議室から出て来るところだった。


既に集まっていた教師は各々の仕事に戻り、帰り支度を始めているものもいた。


ちなみに、処罰が軽くすんだのは湊の力添えに加え、今学校側は真冬をどうしても手放せない時期だったと言うのも関係している。


「だが、言い方を変えれば十日間もの長い間、湊に会えないということか」


「いや、そんな大袈裟な」


真冬の悩ましげな声色に、湊は笑って返した。


「大袈裟とはなんだ! 仮にも恋人に言う台詞か!」


しかし、それが真冬の琴線に軽く触れた。


「いや、恋人違いますし。何さり気なく、抱きつこうとしてるんですか」


「湊、私を好きなんだろう? 私も湊が好きだ。なら、恋人くらい」


湊のツッコミも何のその、真冬は諦めない。


ここまでくるとただ強情なだけなのではと、密かに思う湊だった。


「だから昼休みに言ったこと、もう忘れたんですか?」


「あんなもの詭弁だ。何故好きなもの同士付き合うことが出来ない。おかしいだろう」


真冬は納得いかんとばかりに、不機嫌丸出しで腕を組む。


「真冬さんが正論を言うとは」


湊はというと、真冬の意見に素直に驚いていた。


「湊お前、私を何だと思っているんだ」


この反応には真冬も顔を引くつかせ、目を据わらせてしまう。


「ちょっとヤンデレ気味でストーカー体質の暴君教師ってくらいにしか思って、おわっ!」


歩きながら前を向いているため、それに気付かない湊は冗談半分の言葉で地雷を踏んでしまった。


「あぶっ、危な! 真冬さん、いきなりその蹴りは危ないですって!」


間一髪で殺気を感じた湊は前に飛び込んだ。


そしてすぐさま後ろを振り向き、真冬に抗議する。


「やかましい、お前のその性根を叩き直してやろうか? 暴君教師らしくな」


青筋を立てる真冬に、一瞬で状況を把握した湊がとった行動は、


「そ、そうだ。謹慎解けたらデートでもしましょう! そうしましょう! ね?」


真冬に対してのご機嫌取りだった。


「……駄目だ。許さん」


これには真冬も気持ちが揺らぐが、まだいけると不機嫌オーラを漂わす。


「んなっ、くっ、なら謹慎中も、いえこれから毎日お電話させていただきます! 勿論メールもです!」


湊も足元を見られたとは理解しているが、どうも真冬相手には強気に出ることが難しく、仕方なく真冬の思惑に乗ることにした。


対して真冬はここら辺で引くべきだろうと不機嫌から一転、満面の笑みを浮かべる。


「ふむ、仕方ないな。それで許してやろう」


そこで真冬は早速携帯を取り出し、今か今かと湊を見やる。


「……はい、どうぞ」


赤外線の準備を終えた湊は真冬に携帯を向ける。


しかし、当の真冬はというと。


「湊、どうやるんだ。それ」


赤外線のやり方を全く理解していなかった。


真冬は少し顔を朱に染めながら、何やらあちこち携帯を操作している。


「え? ああ、なるほど。真冬さん、機械音痴でしたっけ。貸してください、登録しますから」


最初、湊は首を傾げていたが得心がいくと真冬から携帯を預かる。


「それにしても、魔法関係の機械は大丈夫なのに不思議ですね」


携帯を操作しながら湊は不意に気付いた事を口にした。


「うっ、仕方ないだろう。私にも分からないんだから」


「あ、いや、責めたわけじゃないんです。そう言う少し欠点のある人って可愛いなって思っただけで」


湊は拗ねる真冬にフォローのつもりで言ったのだが、まさかそれで悶えさせるとは湊も思ってもみなかった。


「お前は、たまに羞恥心を無くすな。言われた方が恥ずかしかったぞ」


「いや、そんなこと言われても。あ、終わりました。どうぞ」


ぶつぶつ言ってくる真冬に、携帯を返しながら湊は苦笑する。


おずおずと携帯を受け取った真冬はそれを大事そうに仕舞った。


それから二人は再び昇降口に向かって歩く。


「まぁ、真冬さんのおかげであまり気負わないで家族に話せそうです」


「……そうか。それはよかったが何故私のおかげなんだ? 私は今日、迷惑しかかけていないのに」


不意に湊が口にしたその言葉、真冬は何のことかすぐに分かった。


しかし、同時に怪訝な顔をしてしまう。


「いえ、僕の事を再認識させてくれましたし、真冬さんとの模擬戦でいい具合に肩の力も抜けましたから。それ以外にも、だから真冬さんのおかげなんです」


湊は本当に感謝しているらしく、邪気のない笑みを真冬に向けた。


「そ、そうか。そう言ってくれるのは有り難いな」


この笑みに真冬は言葉を詰まらせてしまった。


「と、私は職員室に行って書類など書かなければならないから、失礼する。後で電話するから出るんだぞ」


急にその場に居辛くなってしまった真冬は、元々職員室に用もあったため、このまま職員室に向かうことにした。


「はい、分かりました。それじゃ」


湊は気にした風もなく、素直に真冬の言葉を信じた。


「ああ、それとその敬語もどき何とかならないのか? 距離を感じて仕方ないんだが」


と、居辛い空間から抜け出せると、余裕が多少なりとも生まれた真冬は、前々から言いたかったことを率直に告げる。


「あはは、擬きですか。まぁ目上の、それも教員にタメ口って言うのは」


「私がいいと言っているんだから問題ないさ」


不意に聞かれ湊は困ってしまうが、真冬は腰に手を当て湊の意見を撥ね除ける。


「いや、そうは言われても。まぁ、おいおい直していくって事で今回は許してもらえませんか?」


真冬の強引な押しに苦笑しながらも、一理あるかと考える湊は妥協案を提示した。


「ぬぅ、今日は迷惑も掛けたし、わかった。だが、これからしっかり直すように頼むぞ」


そんな湊に流石に我が儘を言い過ぎかと、納得がいかないものの真冬は頷いた。


「じゃあ、これで」


「ああ、またな」


その後、二人は挨拶を交わすと各々立ち去っていった。






現在、湊は自宅の玄関先で彷徨いていた。


「ふぅ、大丈夫、大丈夫」


真冬にはああ言ったものの、湊は少し緊張をしていたのだ。


「よしっ、ただい」


「そんな所で何をしているんですか。邪魔です」


湊が意気込んで玄関に立つと、後ろからある人物が声を遮って話し掛けてきた。


「か、楓」


そう、湊が出来れば今は会いたくなかった楓だった。


「……家に入りたいのですが」


ジッと感情の読めない瞳で見据えてくる楓に、湊は思わず玄関の脇に移動してしまう。


そうすると、楓は何を言うでもなく湊の横を通って家にサッサと入っていってしまった。


湊は声を掛けることも出来ず、仕方なく開いた扉から家に入ろうとする。


しかし、


「兄さん、いえ、この人殺しが、よくのうのうと入って来れますね」


それは出来なかった。


いきなりの楓のその辛辣な言葉に、湊の足は止められてしまった。


「それ以前に、よくもまぁ、今まで兄さんに成りすまして、私達を騙して、家族として過ごしてこれましたね。良心は、罪悪感は無いんですか? この人殺しがっ!」


この時、楓の瞳に今まで分からなかった感情があった。


憎悪だ。


それだけじゃない、ありとあらゆる負の感情が窺い知れた。


「楓……」


胸を抉られるような思いに駆られた湊は、哀しげに楓の名を呼ぶ。


「人殺しが私の名前を気安く呼ぶな!!」


しかし、楓はそれを許さなかった。


「っ!…………ごめん」


湊は謝ることしか出来なかった。


「二人ともどうしたの!?」


と、そこに騒ぎを聞きつけた春子が慌てて現れた。


「お母さん」


「母さん」


二人はやってきた春子に視線を向ける。


「っ、貴方は!!」


「……ごめん、つい」


また楓に憎しみの込められた瞳で睨まれ、湊は顔を背ける。


「落ち着きなさい! 取り敢えず玄関で騒ぐと近所にも迷惑だから家に入りなさい」


ただならぬ場の雰囲気に、何かあったのは察した春子は、二人を家に入れようとした。


「でも」


「でもじゃない! ほら、湊も入りなさい」


それに楓は渋るが、春子は有無を言わさずに二人を入れようとする。


「お母さん! そいつは入れちゃ駄目!!」


「楓! 湊に何てこと言うの! 謝りなさい!」


本当に何があったのだろうか、と春子は叱りながらも思う。


「っ!」


楓は怒る春子の横を通り抜け、部屋に駆け込んでいった。


「楓! ……湊、早く上がりなさい。それからリビングに来なさい」


春子は楓を追い掛けようか迷ったが、湊が未だに立ち尽くしたままだったため、仕方なく諦めた。


「……分かったよ」


覚悟していたはずの湊もやはり気落ちしているらしく、春子の言葉に小さく答えると無言でリビングに向かっていく。


「それで、一体何があったのか説明してくれるんでしょうね」


リビングの二人掛けソファーに座った湊に、春子は向かいの同様のソファーに座りながら尋ねる。


「それは」


湊は言葉に詰まってしまう。


「父さんと姉さんが帰ってきてから話すよ。多分、その方がいいと思うんだ」


そして、出した答えが当初考えていた予定通りにすることだった。


「そう、分かった。二人とも今日は早いはずだからちょうどいいわ」


思い詰めた表情を浮かべる湊に、春子は溜め息を吐く。


それから暫くリビングには沈黙が流れ、気まずい雰囲気が漂っていた。


時刻は八時に差し掛かる頃だった。



正直グダグダですよね。


これによって楓の心境、描写が薄くなってしまったのは申し訳ありません。


また、番外編で楓編やろうと思っているので、その時に補足しようかと思ってます。



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