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二章 物語の幕開け(模擬戦)

現在、実習授業が始まろうとしていた。


「よーし、全員揃っているな! 今回から、魔具を使っての模擬戦闘をする! 気を抜いて怪我などないように十分気を引き締めて行えよ! 特に今回の模擬は、代表選考にも加味されるので、代表に入りたいものはしっかりアピールする事だ!」


冬川の張り上げた声に生徒は背筋を伸ばし、無駄話をする者は居なかった。


その後、冬川の注意事項を聞き終えると、生徒は用意されている魔具と言われる物に群がっていく。


魔具とは、魔法を使用するにあたっての補助にもなり、護身用程度だが武器にもなる物を指すことが多い。


形は様々で、刀剣類を模倣した丸みを帯びた形のような物から、銃口のない銃のような物まである。


他にも、特注で槍の形を模倣した物や、バトルアックスやガントレット、レガースといった現代には不釣り合いではと思われるような物まである。


一般に広く使われているのは、警棒型のような安定した物だ。


今回の実習授業の場合は、主に刀剣類型の魔具が多く用意されている。


「危な、ぎりぎり間に合ったか」


そこに、こそこそと隠れて入ってきた人物がいた。


湊だ。


「おう、湊。何処行ってたんだ?」


湊が並んだ列の隣に居た古川が声をかける。


「ちょっと、お礼したかった人がいてさ」


「へぇ、湊がお礼ねぇ」


湊が無難な言葉で誤魔化すが、それがどうやら勘違いされたようだった。


ニヤニヤと笑う古川に、湊はそれ以上何も言わなかった。


からかわれるだけだと、短い付き合いでも把握しているからだ。


「あと、そこの遅れてきた馬鹿はさっさと私の所に来い」


と、そこに冬川から呆れた声で呼ばれる。


「お前だ。湊」


だが、当の本人が白を切ろうとしていたため、仕方なく名指しで呼び出す。


「あははは、バレてたんですか」


まさか、こんな大勢の前で呼び出されるとは思ってもみなかった湊は、笑って誤魔化そうとする。


「いい度胸だな、湊。お前だけ特別に、模擬戦は私が相手をしてやろう。嬉しいだろう?」


しかし、冬川のこの言葉にその笑いも引きつったものに変わってしまった。


「い、いやだなぁ、僕はそんな度胸ありませんって。それに、僕じゃ先生の相手なんて」


「残念だったな。今回、生徒の数が奇数なんだ。言いたいことは分かるな?」


湊がどうにか面倒事を回避するため、繕う言葉を並び立てようとするが、冬川の一言に止められてしまう。


そして、その事実であろう言葉に敗北を喫した。


「ふふ、それと、もし私との模擬戦で手を抜いて負けでもしたら」


そんな湊に追い討ちを掛けるように、冬川は小声で囁きかけた。


それも、恐怖を煽ろうと最後の部分は言わずに。


湊はうなだれるしかなかった。


「ほら、泣くな。冬川先生に怒られたのは仕方ないことだろ?」


意気消沈して帰ってきた湊に、古川は肩をたたいて慰める。


現在二人は、魔法による障壁に守られた観客席にいた。


模擬戦を行う場合、壁際に寄っていても魔法の流れ弾などで危険なためだ。


そのための観客席といってもいい。


「……違う、あれは何かを企んでた。そんな顔してた」


古川の慰めに、湊はどんよりした雰囲気をまき散らすだけ。


「全く、何時まで落ち込んでるのよ。あ、次私みたいだから行くね。彰しっかり見ててよね」


そこに、古川に会いに来た鳳が情け無いと言わんばかりの呆れた顔をする。


しかし冬川に名前を呼ばれ、古川にウインクをするとさっさと行ってしまった。


「はいはい、圧勝して来いよ!」


「圧勝ね。違う意味で、圧勝しそうだよな」


それに古川が手を振って応援していると、漸く少しは立ち直った湊が、ボソッと零した。


そして、まさにそれは的中するのだった。


「……鳳、失格」


「えっ!? な、何で」


冬川の溜め息とともに発せられた言葉に、鳳は当然のごとく驚いていた。


「当たり前だろう! 何、個人情報で精神攻撃をしているんだ!」


冬川は眉間にしわを寄せ頭が痛くなるのを我慢し、理由を語ってやる。


「これも私の武器です!」


しかし、鳳はそれでも納得がいかず、自分の主張を貫く。


「この模擬戦は純粋な実力を測るためのものだ、馬鹿たれ」


あれを見ろと、冬川は鳳の対戦相手を横目に見る。


「そんな、情報は私の努力の」


「あー、はいはい、涼風すずかもう観客席に戻ろうな」


それでも尚、自分の正当性を訴えようとする鳳に、古川が漸く動いた。


古川は鳳を担ぎ上げると、さっさと観客席に戻っていく。


「ちょっ、彰、離しなさい。まだ私の話は」


終わっていないと言おうとする鳳だったが、古川が歩くのを止め全力疾走したため、口を開くこともできなかった。


残ったのは、ショックでうなだれている筒井という対戦相手と、頭痛が止まない審判役を務めている冬川だけだった。


「はぁ、次、平塚と福山だ。準備をして、模擬戦の正しい意味を理解して戦えよ」


そこから少しの間が空き、冬川が気を取り直して模擬戦を進めていく。


「それと、筒井はさっさと観客席に戻れ」


今、自分は疲れ切った表情をしているのだろうな、と思う冬川だった。




それからは模擬戦も順調に進んでいき、残すは湊のものだけになっていた。


「彰、棄権していいかなぁ」


「駄目だろうな」


とうとう来てしまったと、湊は腹痛を覚える。


「自分は棄権したくせに、僕は駄目なのか」


湊は恨めしそうに古川を見据える。


「俺の場合は仕方ないだろ。涼風が拗ねちゃったんだから。それに、あれ見てみろって。やる気満々じゃん」


これに古川は、隣でふて寝をしてしまっている鳳を横目に、冬川を指差す。


「僕はストレス発散用のサンドバックか何かか?」


そこで湊が見たものは、冬川が念入りに魔具の点検を行い、二年の生徒会役員に審判役を任せようとしている姿だった。


「まぁ、大丈夫なんじゃないか? 湊だって学生にしたら上位の実力はあるだろうし。冬川先生も、まさか生徒に本気は出さないだろ」


「本気ね。宝器なんて使われた日には、僕は学校にいないだろうさ」


古川の慰めにも皮肉を返してしまうほど、湊は追い詰められていた。


実際、湊が冬川と同じ条件で真面目にやれば、負けることはない。


魔具だろうが、魔器だろうが、同じ条件内であれば、才能云々や実力云々に限らず、経験の差で勝てるだろう。


だが、それをすれば必ず何かと面倒が起きるのは分かりきっていることでもある。


そのため、どうにか負けたいが、冬川に言われたあの言葉でそれも出来ない。


引き分けに持ち込んでもいいが、世界最強と名高い冬川に引き分けてしまうのも、お互いの立場上まずい。


この事から勝つなど論外だ。


負けても駄目、引き分けても駄目、勿論勝っても駄目。


僕にどうしろと? と、湊は心中思うのだった。


「では、始めようか。湊」


そして何時の間にか、湊は試合場と化したそこに居た。


呆然としていた意識が覚醒した頃には、もう模擬戦が始まる寸前であった。


「試合放棄は」


「勿論、無しだ」


開口一番に言った逃げの言葉は、冬川の間髪入れない言葉によって閉ざされた。


もう何もないな、と冬川が審判役に始めろと合図する。


「では、試合開始」


審判は湊へ少しの同情を込め、言い放った。


審判は事前に言われたように、避難するため下がっていき、湊は実質冬川と二人になった。


「あの、っ!」


ダメ元で中止でも懇願しようと口を開こうとした湊は、何故か手に持っていた丸みを帯びた剣型の魔具を前方に構えた。


その瞬間、鈍い音とともに衝撃が湊を襲う。


そして、後方に数メートル吹き飛ばされた。


「試合は始まっているんだぞ? 何を悠長に話している」


先ほどまで湊が居た、その場所に冬川は大剣型の魔具を担ぎながら立っていた。


これはもう何を言っても無駄だと諦めた湊は、半ば自暴自棄になりながら体勢を整え魔具を構える。


「面倒事は嫌いなんですけどね!」


次に、湊は下位魔法の『炎弾』を無詠唱で複数冬川の足下に着弾させ、煙幕と足止めを行う。


そこから、ある程度コントロールが可能な中位魔法の『雷鳥』を再び無詠唱で左右に散らしながら放ち、自らは後方に下がり更に中位魔法の『炎槍』を待機状態で百単位の数を作り上げる。


雷鳥が煙幕に突撃していったタイミングに合わせ、炎槍も正面から放つ。


と、その時、煙幕が吹き飛ばされた。


どうやら冬川が何かしたようだ。


「甘いな」


冬川は迫り来る魔法の数々に、ぽつりと零し魔具を構えた。


次の瞬間、左右の雷鳥を大剣の一振りで蹴散らし、更に正面から迫り来る大量の炎槍を、魔具に魔力を乗せ勢い良く一振り。


その一振りから生み出された凄まじい衝撃波で、炎槍を消し去った。



「冗談でしょ。雷鳥なんて、感電してもおかしくないレベルなんですけど」


唖然とはこの事を言うのだろうか、と湊は思いながら、これくらい真冬さんなら当然か、と感心してもいた。


「つまらんな。私は本気で来いと言ったと思ったんだが?」


「学生では有り得ないくらいの技は見せたつもりなんですが」


大剣を地面に突き刺し、鋭い目つきで睨んでくる冬川に、湊は冷や汗が止まらなかった。


「学生では、だろう? 私が見たいのは、湊、お前の今出せる限りの力だ」


湊は、冬川は一体何がしたいんだと困惑する。


「それに、私は魔法中心の戦いはどうも好かない。言っている意味は分かるな?」


「僕、ひ弱なんです」


再び大剣を担ぎ直した冬川は、湊の苦し紛れのその一言を合図に湊目掛け疾走した。


その速さは凄まじく、距離は充分取っていたはずの湊が瞬きをした時には、すぐ目の前まで接近を許していたほどだ。


「速い、っ」


打ち合いになるのは確実と判断した湊は、真っ正面から打ち合わず、出来るだけ受け流すことにした。


貸し出し用の魔具が、冬川の特注である大剣にどこまで保つか分からなかったからだ。


だが、冬川の振りは一撃一撃が重く鋭い。


更に、大剣とは思えない振りの速さに、湊は見る見る追い詰められていった。


と、冬川が攻撃の手を止めた。


「くっそ、安心安全謳ってる魔具の割に、切り傷出来まくってるし」


この機会に湊は距離を置き、体勢を立て直し、身体の状態を確認する。


そんな湊を余所に、動きを止めた冬川がぽつりぽつりと語り始めていた。


「なぁ、湊。お前が本気を出さないのは、今の私が本気を出さなくとも何とかなってしまうからだろう?」


その言葉に湊は背筋が凍る思いだった。


まさか、有り得ない、そんな気持ちが湊の心に過ぎる。


「だから、私は考えた。なら、魔具などと言う玩具で戦うのを止め」


言うな、云うな、謂うな、冬川が何を言わんとしているか確信した湊は、踵を返して逃げ出したい気分に駆られた。


「魔器や宝器で戦えば良いのだと」


その言葉とともに冬川は魔具を放り投げ、微笑んだ。


次の瞬間、冬川は魔器である装飾を施された大剣を手に握り締めていた。


この(模擬戦)、実は載せる気なかったんですよね。


と言うか、話自体執筆してもいなかったんです。


でも、未だに戦闘場面一度もないのはまずいかなぁと思って急遽作りました。


行き当たりばったりな作者ではありますが、完結に向けて頑張らして頂きます。






ちなみに、毎回同じようなことを前書きや後書きに書くのは、作者自身に対する戒めみたいなものです。


こんな言い訳してるんだ、必ず完結させるぞ的な、くだらないものなんですけどね。


そんなわけで今後ともよろしくお願いします。



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