二章 物語の幕開け(交差する想い)
難産でしたが、漸く更新できました。
あれから、湊は答えも見つからないまま数日を無駄に過ごしていた。
どんなに自身を取り繕ったところで、見えてくるのは自身の無知と愚かさだけ。
今の自分という存在がどれだけ不安定で曖昧なものか、湊はここにきて漸く理解したのだった。
現在、そんな湊は教室でぼんやりしているのだが、そこに近寄ってくる人物がいた。
「よっす、湊どうした?」
「……古川。別に、どうもしないよ」
古川が正面に回り込み机に寄りかかってきたが、あまり相手をする気になれない湊は素っ気なく返事をする。
「どうもしないって、自分の顔鏡で見てみなさいよ」
そこに、古川にすっぽり隠れていた鳳が手鏡を渡しながら現れた。
「うん、何時にも増して美形だな。…………ごめん、そこまで引かないでくれ」
気を紛らわすのに良いか、とノリでやってみた湊は別の意味で更に沈むこととなった。
「やっぱり何かあったわね?」
「湊、話せないか?」
二人が再度尋ねてきたが、湊は話す気は無かった。
と言うよりも、話せるわけがないと思うのだった。
「……ちょっと冬川先生からどう逃げようかなって悩んでたんだ」
そこで湊は少しの本当を混ぜ、嘘を吐くことにした。
「またか」
「何を悩んでるかと思えば」
また何時もの事か、と二人は呆れかえってしまう。
「まぁ、そう言うことだから。トイレ行ってくる」
湊は二人のそれを横目に席を立ち、怠そうに歩いていく。
「……ありゃ、違うな」
「やっぱり、そう思う?」
古川がぽつりと漏らした一言に鳳も同意する。
どうやら、湊が吐いた嘘を見抜いていたようだ。
「あの湊見てりゃ分かるよ」
「私達には話せないのかな」
頷く古川に、鳳は寂しそうな口調で話す。
「まっ、しゃーないかもな。湊は一人で抱え込むタイプだし」
そんな鳳に、古川は頭を掻きながら溜め息を吐く。
「でも、友達なんだよ? 頼ってほしいって思うのはいけないこと?」
鳳は隣にいる古川に寄りかかりながら、そのまま古川を上目遣いで見やる。
「いけなくはないさ。でも、幾ら友達でも土足で踏み込むのは違うだろ? それが分かってるから、追及しなかったんじゃないのか?」
古川も鳳の頭に手を乗せ、撫でながら諭していく。
「そりゃ、そうだけど」
「湊が話してくれるまで気長に待って、それでも話してくれないなら、今度は容赦なく踏み込めばいいさ」
鳳が拗ねたように顔を逸らすと、古川は笑って続きを話した。
「……うん、そうだね。その時は徹底的に追い詰めるよ」
その言葉に元気が出たのか、鳳もにやっと笑い湊が出て行った扉を見据える。
「おいおい、追い詰めてどうするよ。追い詰めて」
まさかの発言に思わず苦笑してしまった古川は間違っていない。
そんな二人の会話など露ほども知らない湊は、宣言通りに男子トイレに向かっていた。
(あの二人、勘鋭いからなぁ。誤魔化せたかどうか微妙だ。まぁ、何も聞いてこなかったってことはそう言う事なんだと思うんだけど)
湊も誤魔化しきれたとは到底思ってはいなかったが、大丈夫だという確信もあった。
何だかんだで、あの二人が土足で踏み込んでくるような人物ではないと知っていたからだ。
「まぁ、いいか」
そして、湊はこの事をあまり気にしないことにした。
何時かは話す時が来るだろうが、それも先の話と。
そんな風に考えを打ち切り改めて前を向いてみると、
「…………冬川先生」
目の前から冬川が歩いてきていた。
まさかの事態だったが、踵を返すわけにも行かず、仕方無く廊下の端を通って擦れ違おうとする。
しかし、
「待ってくれ」
冬川に腕を掴まれてしまう。
「…………何ですか」
「あ、いや、何でもない」
気まずさに目を逸らしながら言う湊に、冬川も思わず目を逸らして腕を放してしまった。
沈黙が続き、雰囲気は気まずさだけしかない。
「……用がないなら、これで」
湊は躊躇った後、平静を装って足早に去ろうとする。
「待ってくれ、少しでいい。話しをしないか?」
しかし、意を決した冬川にまたもや腕を掴まれてしまい、湊は足を止めてしまう。
そして、再び沈黙が場を覆い尽くす。
「屋上と中庭、どちらにしますか」
沈黙を破ったのは湊だった。
「え? あ、屋上で」
最初、冬川は湊の言葉の理解ができず呆けてしまうが、思わずといったように即答していた。
そして、現在二人は屋上にいる。
だが、どちらとも口を開こうとはしない。
「……冬川先生、それで話しって何なんですか」
やはり最初に口を開いたのは湊だった。
湊にしてみれば、授業をサボっているわけなのだから、何かしら話してもらわねば困るのだ。
「……ふぅ、単刀直入に言わせてもらうし、聞かせてもらう」
覚悟が決まったのか、冬川は深く息を吐き出すと正面に向かい合っている湊を見据えた。
「私はお前が好きだ。心の底から愛している。お前が何者だろうが関係ない。湊だろうが、――だろうが関係ない。お前という存在を私は愛しているんだ。今を生き、私を救ってくれた目の前にいるお前を」
冬川は敢えて湊の名を呼ばず、思いの丈をぶつける。
「お前はどうなんだ? 私は本心を聞きたいんだ。あの時のような偽りではなく、本心を」
湊は冬川のその言葉にどうしてか、嘘を吐いてはいけないような衝動に駆られてしまっていた。
後一度だけの過ち。
湊の脳裏に過ぎったのは、そんな悪魔の囁きのような甘い言葉だった。
「っ、冬川先生。いや、真冬さん。確かに僕は、俺は貴女が好きです。愛しているといってもいい。だけど、貴女の想いには答えられないのも分かってほしいんです」
それでも、湊は本心は語るがぎりぎりのところで自制する。
「理由を聞いても?」
冬川はある程度予想していたらしく、そこまでの動揺は見られなかった。
「……くだらない自己満足ですよ。俺はね、真冬さん。真冬さんが思っているような良い人間じゃあない」
冬川のその切り返しに湊の方が驚いてしまう。
だが、すぐに嘲笑混じりで自身を卑下するようなことを語る。
「卑怯で卑劣で、臆病な小心者の癖に格好付けて一匹狼演じてみたり、自分の責任を認めようともしない、どうしようもないほど愚かな奴なんですよ」
ここまで口からすぐに出てくる言葉の数々に、湊は自身が情けなく思えてきていた。
「そんな奴が真冬さんと、釣り合うわけないでしょう?」
「……それだけか? なら、問題ない。私も似たようなものだからな。同じなら釣り合いはとれているだろう?」
再び無理だと言う湊に対して、冬川は不適に笑い湊に歩み寄っていく。
「っ、真冬さんとは違います」
「一緒さ」
湊が俯きながらぽつりと漏らすが、冬川は気にせず湊の肩に手を置く。
「違う! 俺なんかと一緒にしちゃいけない! こんな人殺しなんかと……」
しかし、それを湊は払いのけ、数歩下がりながら声を荒げる。
「人殺し?」
流石の冬川も湊の言葉に動揺を見せてしまう。
そして、湊もこれ以上はもう堪えられないとばかりに、言葉を紡いだ。
「俺は湊を殺した張本人なんです」
後書きと言う名の言い訳。
読者の皆さん、何も言わないで下さい。
筆者もわかっています。
最後のあれはないだろうってことは。
でも、もう、どうしようもなかったんです。
かなり強引で手抜きに見えるかと思いますが、あれが筆者の全力投球です。
暴投だろうが全力投球なのです。