二章 物語の幕開け(夢)
またまた、更新が遅れて申し訳ないです。
その日、湊は午後の授業に参加することなく学校を早退。
気分転換に街をぶらつこうかとも思った湊だったが、この様な状態で行っても何も変わらないだろうと、やはりそのまま家に帰ることにした。
(今日は何なんだ。ここまで掻き乱されるなんて普段じゃ有り得ないのに)
湊は今日という日を改めて思い返していた。
まるで今までの日常が狂いだす始まりかのような感覚に、湊はどうしようもないほど戸惑っていた。
特に思い出されるのは、冬川の瞳と小西の言葉。
(考えが纏まらない。何をやっているんだ僕は)
どのくらい思考を巡らしていたのだろうか。
何時の間にか湊は家を通り過ぎようとしていた。
「と、気付かなかった。……ただいま」
何とか行き過ぎることなく家の玄関を開けた湊は、躊躇いながらもリビングにいるだろう母親に声を掛ける。
「あら、早いわね。学校は午前だったの?」
「いや、調子悪いから早退したんだ。んじゃ」
リビングから出てきた春子に、湊は目を合わせることなく自室に戻ろうとする。
「待ちなさい。何かあったの?」
当然そんなことをされれば春子も気付くもので、湊を静止する。
「別に何も。本当に調子悪いだけ。一眠りすれば大丈夫だよ」
「そう、ならいいわ。着替えてから寝なさいね」
仕方なく湊が春子を見やり口を開けば、春子も一応の納得を示す。
「それと、嘘つくなら今度はもう少し表情くらい隠しなさい」
しかし、納得はしても気付かない振りはしない春子。
追及をしなかったのは、今聞いたところで湊は話さないと理解していたからだ。
「っ、もう寝るから」
居た堪れないといったように、湊は自室に歩いていった。
「僕は、どうしようもないな」
自室に着いた湊は扉を閉めると、そのままズルズルとしゃがみ込んでしまう。
前世ならこんな事、と湊はふと思ってしまった。
そして、すぐに今の考えを恥じる。
「もう、そろそろ限界だな」
今の彼は湊でしかない。
前世など、無いのだ。
「……今更か」
そう湊は呟き、今日の事を思い出す。
今日だけで幾つ同じ過ちをしたか、湊は嘲笑してしまう。
「馬鹿らしいな、全く」
自然に涙ぐんできてしまったが、湊はそれを良しとはしなかった。
そして、のろのろと立ち上がり、ベットに倒れ込む。
(……矛盾だらけだな、僕は。結局、小西の言うとおりなのかもしれない。僕は…………)
爆音や怒号、砂のようになり消えていっている人型の何かが大半を占めているとある場所。
戦場である。
そんな場所のある一画。
「おい! ――大丈夫か!?」
「問題ない! それより、みんなは無事か!?」
名前を呼ばれ、――は現在隠れている場所、岩場から声を張り上げる。
「軽く負傷した奴もいるが全員無事だ!! だが、数に差が有り過ぎる!! このままじゃ」
――とは違う場所に隠れている人物が、現状を叫ぶようにして伝えていた。
と、その時、その人物の隠れている場所が閃光によって吹き飛ぶ。
「くそっ! 神兵共、手当たり次第に攻撃し始めたか!?」
爆風による砂埃に視界が遮られ、その人物がどうなったのか把握できない。
――が隠れながらも辺りを見渡していると、人が岩場に飛び込んできた。
先程の人物だ。
「ちっ、悠長に話してる暇もないってか」
「みたいだな、しかし手の打ちようが……」
――はその人物に相槌を打ち、現状と選択肢を照らし合わせる。
「撤退、か」
その人物は何かを察したのか、爆音の鳴り響く中ぽつりと呟く。
「いや、まだ可能な選択肢はある」
聞こえないだろうと呟いたそれは――に届き、否定される。
「馬鹿なこと考えてんじゃねぇだろうな」
――の言葉に、彼は眼を鋭くさせる。
「ここで撤退をすれば、もう勝ち目はない! なら、同じことの繰り返しだろうが何だろうが、行くしかないだろう!?」
仕方のないこと、選択肢はない、そう言いたいようだった。
「ふざけるな! そんな事をしても何も変わらないのは、お前が一番よく知ってるだろうが!!」
今にも掴み掛かりそうな勢いで彼は、――に怒声を浴びせる。
しかし、
「頼む……。これしか、思い付かないんだ。それに変わらないとは限らないさ。今の俺は独りじゃない、仲間がいるんだ」
――は頭を下げ、そのまま静止する。
彼が頷くまでこのままのつもりなのだろう。
数十秒後。
「……分かった。お前の思うとおりにしろ。だが、今は退くぞ。お前を行かせるにしても態勢を調える必要がある。これが行かせる条件だ」
時間も限られ、他に選択肢も残されていない状況での決断だった。
「……退くのは何処まで?」
彼の妥協案に、――は徐に口を開く。
「拠点までは退けないから、後方組がいる所までだ。此処がギリギリの地点になる。これ以上前での撤退だと退く意味が無くなるからな」
渋い表情を浮かべながら彼は思案した結果を伝える。
後方組がいるのはギリギリ前線になる場所。
それ以上は前も後ろも、二人の意見を考えると無理だったのだ。
「分かった。なら、みんなに連絡を」
――も、そこは理解して素直に頷いた。
「ああ、今するからお前は見張りながら休んでろ」
彼は疲れた表情を見え隠れさせるが、すぐさま連絡に取り掛かる。
(やはり、こうなるのか。だが、今回は必ず)
「ああ、よろしく頼む。……終わったぞ。全員撤退準備を始めた。俺らもすぐに撤退だ」
言われたとおり――が見張りをしながら腰を下ろして休んでいると、隣に彼がドカッと座り込む。
「殿はどうする? 俺達じゃないのか」
「いや、お前を消耗させるわけにもいかないからな。殿は居ない。その代わり、お前抜きで一斉に最大魔法を放ってとんずらする」
定石とも言える方法を取らず、無理が生じるだろう選択を彼は取ることにした。
「今は一人として犠牲を出すわけにはいかないからな。博打に近いが仕方ない。駄目だったら俺が殿を務めるさ」
苦肉の策といったような言い方で、彼は――に実情を語る。
「すまない」
「謝んな。実際、お前の案しか道は無いんだからよ」
――も察した様子で謝るが、彼は首を振り苦笑いを浮かべた。
「合図は盛大な一発の特大花火だ」
暗くなった雰囲気を明るくしようと、彼は合図について唐突に伝える。
――は、そのまさかの不意打ちに思わず噴き出しそうになってしまった。
「相変わらずの派手好きだな」
そして、皮肉ではなく呆れから笑いが零れてしまう。
「馬鹿、今回は違うっての。神兵共の注意を逸らしてだな」
心外だとばかりに、手振り身振りを交えて説明するが全く信用されず、
「はいはい、俺が間違っていましたよ」
軽く流された挙げ句、同情のようなもので見つめられてしまったのだった。
「おま、信じてねぇだろ」
「信じてる、信じてる」
「ぜってぇ信じてねぇ!」
何時の間にか、二人の雰囲気は和やかになり明るさを取り戻していた。
「ぷっ、俺ら緊張感無さ過ぎだろ」
「言えてる。戦場の最前線にいるってのにな」
それがどうしてか笑えてきて、お互いの肩を叩きながら笑いあった。
「神兵共は未だにバカの一つ覚えかって位、撃ちまくってるし」
「戦況は個々の力以外全てにおいて劣ってるし」
「退けば負け。退かなくても負け。勝てる可能性なんざ、一割切ってんじゃないかってくらいだし」
「かと言って、戦わないわけにもいかないし」
和やかな雰囲気のまま、お互いにこの戦いの愚痴を言い合い、時折笑いと溜め息を漏らす。
敵が近くまで迫っていることを思わせないやり取りに、他の誰かが居れば呆れてしまったかもしれない。
「全く難儀な人生だよな俺らって」
「だから出会った頃に言っただろ? 後悔するって」
不意に出たその一言に、――は見えない空を見上げ口を開く。
「へっ、後悔なんてしてねぇよ。俺だけじゃない、みんながだ。後悔なんてしてねぇ」
しかし、その口から出た言葉は軽々と否定される。
「そっか」
――は、その嬉しさを誤魔化すように顔を逸らして、一言だけ呟いた。
それからは、時間になるまで昔を思い返し、他の仲間からの連絡を待った。
そして、
「兄さん、兄さん! 起きてください!」
不意に、身体が揺すぶられる。
そこで湊は漸く目を覚ます。
どうやら、寝てしまっていたようだ。
「……楓。大和は?」
湊は先程まで一緒に居たはずの人物の名前を、思わず口にしてしまう。
「誰です。大和って」
しかし、当たり前ながら楓がその名前を知っているはずもなく、怪訝な表情を浮かべられてしまった。
「っ、いや、寝ぼけてたみたいだ。それより、どうしたんだ?」
湊は漸く状況を理解し、慌てて話を逸らす。
「……。まぁ、いいですが、夕飯の時間です。さっさと起きて下に来て下さい」
その湊の態度に楓は更に怪訝そうにしたが、問い詰める事もせず、用件を伝えると出て行ってしまう。
そんな楓に、湊は頷くことしか出来なかった。
楓が出て行った後、暫くして湊は溜め息を吐きながらも制服を着替え、下に降りていく。
心中は夕飯より、あの夢のことで一杯であった。
やっちまった感がいっぱいですが、お願いします。
見捨てないでこれからも宜しくお願いしますです。