二章 物語の幕開け(湊と少女)
また更新出来ていませんでしたが、何とかこの話を載せることが出来ました。
「先輩! 山城先輩!」
小柄で小動物を思わせるような雰囲気を持つ、地毛なのだろう自然な明るい茶髪に、大きな薄い茶色の瞳が特徴の人物が走ってくる。
小西 明日香だ。
小西は二十分もの間、湊を探し続け、漸く見つけることができた。
中央に噴水が存在する中庭の一角。
そこに湊は居た。
「……小西。何か用か」
下が芝生とあって、木陰で横になって空を眺めていた湊は、小西の呼び掛けに声でだけ反応した。
「っ、あ、いや、その」
「……用が無いなら今は一人にしてくれ」
あまりに感情の籠もらない声色に、小西が怖がっているのは湊にも分かっている。
それも、今の湊にとってはちょうどよかった。
荒れに荒れた心が静まるまでは一人になりたかったからだ。
「す、好きなら好きって言えば良いじゃないですか!!」
しかし、小西は勇気を振り絞る。
助けてくれた湊にお節介だと思われようが何だろうが、視ていられなかったのだ。
「僕は傍には居られない? なんです、それ! 格好付けてるつもりなんですか? そうだとしたら山城先輩、勝手すぎますよ! 山城先輩から言ったことじゃないですか!! 冬川先生は、貴方の救うって言葉を、貴方という人物を支えに生きてきたのに!!」
「何でそれを」
湊は唖然とした。
湊と冬川しか知らないはずの内容を、小西は知っていたのだ。
小西の言葉にはそれを裏付けるだけの力があった。
「私には、人の心と記憶を読む力があるんです。と言っても、制御できない上に心の方は単純な感情を表面的に、記憶に至っては断片的で視えないことの方が多いくらいなんですけどね」
そんな湊に、ハッと、冷静さを取り戻した小西は自身を嘲笑する。
「でも、山城先輩の心と記憶は断片的ではありましたけど不思議と制御が出来たし、しっかり視ることも出来たんです。それで、山城先輩が悩んでいるのも知りました」
小西に怯えの色は既に無くなっていた。
ただ、これで後戻りは出来ないと、小西は緊張もしていた。
「異能力者か」
「……はい」
湊の何も感じさせない口調に、小西は失敗だったかと密かに不安に陥る。
『異能力者』これまで小西が幾度となく言われてきた言葉。
魔法とは似て非なる相容れない力。
未だ、発現条件なども解明されていない未知なるモノ。
「もしかして、イジメの原因も」
湊は小西の表情が少し曇ったのを察し、口調を柔らかいものに変えた。
人は、解らないものに恐れを抱くことがある。
湊は小西の返事が無くとも、その強張った顔で答えは分かった。
「そうです。気味が悪いって。勝手に人のモノを視るなって。自分でもそう思います。だから、仕方ないのかなって、最近は諦めてるんです」
小西はイジメのことを話すつもりはなかったのに、と思いながらも何故か自然と口から出てしまっていた。
「って、今は私のことなんかどうでもいいんです! 今の問題は山城先輩ですよ!」
小西は沈んでいた気持ちを持ち直し、再度湊の姿を視界に入れる。
「小西……、僕のことは気にしないでくれ。これは僕と冬川先生の問題」
「だから! 山城先輩はどうして、そう意固地なんですか!」
湊の関わらないでくれという思いを、小西はばっさりと切り捨てた。
「良いじゃないですか。先輩が山城 湊じゃなくても。――――って人物でも。結局、先輩は先輩なんですよ」
怒鳴っていた小西だったが、今度は打って変わって落ち着いた口調で湊に語り掛ける。
「何で先輩が先輩になったのかは、視る事が出来たので分かりました。でも、それって間違ってると思います。その人の代わりはその人にしか出来ないんです」
そして湊の行いを肯定せず、否定し始める。
「決して、他の人じゃ代わりにはなれないんです。先輩はその偽りを償いだと言いますけど、今でも本当にそう思いますか? 思っているのだとしたら、それは傲慢で、」
「黙れ」
今の湊には余裕がなかった。
小西の考えは正しいのかもしれないが、それは却って湊を追い詰めてしまう。
心の片隅では、小西の考えと同様のことを今まで何度も思ったことがあった。
だからこそ、小西の言葉は湊を抉ってしまった。
「もういい、言いたいことは伝わったよ。僕はこれで失礼させてもらう」
湊は表情こそ優しげなものだが、雰囲気はやはり苛立たしげでその場を立ち去っていく。
「……山城先輩」
やってしまったとばかりに落ち込む小西は、その場で湊の名を呼ぶことしかできなかった。
更新が亀並みですみません。
しかし、途中で放棄はしないつもりなのでどうかよろしくお願いします。