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時計

作者: 尚文産商堂
掲載日:2011/05/31

1秒1秒を刻んでいく時計。

私はそれに惚れ、その道の職人になることを決意した。


とある有名な時計職人に弟子入りをし、部品の切り出しから制作、販売に至るまでをたたきこまれて10年。

師匠からようやく半人前と言われた矢先、師匠は倒れた。

脳梗塞で、左下肢が不随となったが、両手指はしっかりと動く。

そのことで、支障はニコッと笑いながらも、作業を続けていた。

時に優しく、時に厳しくしながらも、その作業の全てを私に教えていった師匠は、脳梗塞が発症してから10年後、この世から去った。


私は親族のいなかった師匠の喪主となり、その一切を受け継いだ。

時計工房として、一人でつつましくしていると、ふとした時に師匠の顔がよみがえる。

それは、私が師匠を超えて見せるという意気の表れか、それとも未だに師匠を頼りたいという半人前の心の現れかは分からない。

でも、今でも修行のつもりで、師匠がこの工房をしていた時代からの顧客を大事にしている。

彼らの注文には、遺漏が無いようにこなしているつもりだ。

それでもなお、何かしらの注文とのずれが生じてしまう。

それを体験するたびに、師匠のすごさを、改めて思う。

そして、そんな師匠を超えて見せると、私はあらためて思うのである。

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