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三人の職人と、結晶の防霜術

53歳の農業試験官が、転生、15歳の男爵3男坊になり、

貧しい男爵領を救い、仲間になる転生者たちと出会い、

第1次産業革命を飛ばし、自然エネルギーを中心として起こす

産業革命と、緩やかな民主化を推し進めて国の発展をめざす!

一、春の訪れと、しのび寄る「死の冷気」

長い冬が終わり、ベルグフェルド領にも柔らかな春の光が差し込み始めていた。

裏山の斜面に広がる野リンゴの林では、ユージーンが手際よく剪定した枝々に、ふっくらとした青い蕾(つぼみ)がたくさん膨らんでいる。


「ユージーン様! 見てください、今年の花芽(はなめ)の数は例年の倍以上ですぞ!」

老農夫のゴードンが、我が子の成長を喜ぶ父親のような顔で蕾を撫でていた。だが、その表情はふと晴れ間から影が差したように陰った。

「……だが、油断はできませぬ。この山あいは、四月に入って暖かくなった頃に……あの『死の冷気』が降りてくるのです」

「『死の冷気』……春の遅霜(おそじも)かい?」

ユージーンが問いかけると、ゴードンは深々と頷いた。


「左様でございます。雲ひとつない穏やかな夜ほど危ない。山から降りてくる冷気が畑に溜まり、せっかく膨らんだ芽を一晩で黒く凍らせて殺してしまう……。あれが来たら、どんなに手入れをした木も全滅です。我ら農民には、ただ祈る以外に術がございません……」

「祈る必要はないよ、ゴードン」

ユージーンは蕾を優しく指で触れ、頼もしく微笑んだ。

「冷気が来ると分かっているなら、科学と技術で迎え撃てばいい。芽は絶対に凍らせさせないよ」

二、三人の職人と、山からの揚水水車

遅霜を防ぐためには、ある『膨大な資源』が必要だった。それは??大量の水である。

「日当たりの良い斜面まで、どうやって渓流の水を引き揚げるんだ?」

疑問を呈したのは、ベルグフェルド領の大工棟梁、五十代の頑固親父ガルツだった。館の作業場には、ユージーンの呼びかけによって三人の異色の職人たちが集まっていた。

一人目は、現場を仕切る大工棟梁のガルツ。二人目は、都市のギルドで流体力学を学びながらも「若造の夢物語」と追放された二十代の精鋭技師、ルーカス。三人目は、山奥で一人酒を飲みながら超絶技法の金属加工を行う、偏屈なドワーフの鍛冶屋バルド。


「フン、高台に水を揚げるなんて、並の水車じゃ不可能だ」と吐き捨てるガルツに対し、気弱そうな青年ルーカスが、緊張した手つきで羊皮紙の図面を広げた。

「あの……僕とユージーン様で計算したんです。この水車の外周に『傾斜のついた竹筒バケツ』を複数配置し、川の流力で回転させながら、最高点でちょうど樋(とい)へ水が流れ落ちる角度にすれば……手で汲み上げなくても、自動で高台へ水が揚がります!」


図面を見たガルツの目が、カッと見開かれた。

「な……! この羽根の角度と重心の移動……! 若造、お前、本気でこんな計算を……!?」

「さらにだ、ガルツ」

ドワーフのバルドが、重々しい音を立てて木箱をテーブルに置いた。中には、ヌラリと光る青銅製の精密なパーツが入っている。


「ワシが打った青銅の軸受け(ベアリング)と特殊鋳鉄の歯車だ。これを使えば、水車の摩耗を抑え、何年回しても軸がブレねえ。……おいガキ(ユージーン)、言われた通りの精度で仕上げてやったぞ」

「素晴らしいよ、バルドさん! ガルツさんの大工仕事、ルーカスくんの精密な設計、そしてバルドさんの金属加工……三人揃えば世界一の水車ができる!」


ユージーンの言葉に、ガルツは「ヘッ、言ってくれるじゃねえか!」と太い腕を捲り上げ、ルーカスは嬉しそうに目を輝かせ、バルドは不敵に笑って酒を煽った。


数十日後??。渓流の豪快な水しぶきを浴びて回る巨大な『揚水水車』と、山肌を這うように張り巡らされた石張りの水路(アクアダクト)が完成した。高台の果樹園へ、清らかな水がとうとうと流れ込んでいく光景に、集まった村人たちから割れんばかりの歓声が巻き起こった。

三、決戦の夜??凍てつく沈黙の中で

水路の完成から数日後の夜。空は恐ろしいほどに晴れ渡り、満天の星が冷たく輝いていた。風が止み、放射冷却によって気温がみるみる低下していく。

「ユージーン様! 気温が下がりました! 葉に白い粉(霜)が吹き始めております!」

ゴードンが青ざめた顔で駆け込んできた。村人たちは「今年のリンゴもダメだ……」と頭を抱えて震えている。

「みんな、落ち着いて! 僕の指示通りに動いてくれ!」

ユージーンは外套をはおり、前線へと飛び出した。


「作戦第一段階、燻煙(くんえん)開始!」

農民たちが、畑の随所に配置された「もみ殻と湿った木灰」に火をつける。モクモクと温かい煙が畑全体を覆い、地表の熱が空へ逃げるのを防ぐ。

「作戦第二段階……散水開始!」

ユージーンの合図で、水路の栓が一斉に開かれた。水車によって高台へ汲み上げられた豊富な水が、細い竹筒スプリンクラーを通って、果樹園全体へ霧状に噴射される。

「ひええぇぇ!? ユージーン様、芽に水をかけたら余計に凍ってしまう!」

悲鳴を上げるゴードンに、ユージーンは叫んだ。

「大丈夫だ! これは『散水氷結法(さんすいひょうけつほう)』という防霜技術なんだ! 水が氷に変わるとき、『凝固熱(ぎょうこねつ)』という熱を出す! 芽の周りに薄い氷の膜を作ることで、中の温度はピッタリ『0度』に保たれるんだよ!」

「氷で包んで……0度に保つ……!?」

農民たちが呆然とする中、ユージーンはさらに両手を広げ、全魔力を集中させた。

??『気流循環(風魔法)』!!

上空三メートルに、優しく穏やかな大気の渦(防霜ファンの再現)を作り出す。上空に溜まったほんのり温かい空気を地表へ送り届け、冷気の停滞を完全に防ぐ。

水、火(煙)、風??三つのアグリテックが融合した、完璧な防霜陣。氷の膜に包まれたリンゴの蕾たちは、猛烈な冷気の中でも、命の温もりを保ったまま静かに朝を待った。

四、氷の解ける朝、満開の奇跡

やがて、東の山並みから黄金の朝日が差し込んできた。気温が上昇し、果樹園を覆っていた薄い氷の膜が、シャリシャリと音を立てて透明な水滴となって解けていく。


「あ……」

ゴードンが息を呑んだ。村人たち、そして心配して駆けつけた父・男爵、母マリオネット、兄たち、妹のマリアンヌが見守る前で??。

氷の鎧から解き放たれた蕾たちが、朝日に照らされて一斉に花開いた。

ポン、ポン、ポポポンッ!

一面に広がる、可憐で芳醇な薄桃色のリンゴの花々。甘い花の香りが山風に乗って広がり、緑の斜面があっという間に「桃色の雲の海」へと姿を変えた。

「さ、咲いた……! 花が、芽が無傷で咲いたぞぉぉぉぉッ!!」

ゴードンが膝から崩れ落ち、ボロボロと大粒の涙を流した。

「奇跡だ……! 例年なら全滅していた遅霜の中で、うちの果樹園だけが……満開だぁぁぁッ!」

「すごーいっ! お花がいっぱい! お兄ちゃん、きれいーっ!」

マリアンヌが飛び跳ねて歓声を上げ、母マリオネットは胸の前で手を組み、感謝の祈りを捧げた。

「まあ……なんて美しいのでしょう……。ベルグフェルドの山が、こんなに華やかになるなんて……」

「……ははっ、見事だな」


長男クラウスは眼鏡を拭いながら、呆れたように、そして誇らしげに呟いた。

「周辺の他領は、昨夜の遅霜で麦も果樹も全滅に近い被害が出ているだろう、……だというのに、我が領の果樹園だけが無傷で満開とはな。ユージーン、お前の勝ちだ」

次男ラインハルトは、ユージーンをひょいと担ぎ上げ、大歓声を上げた。

「ワハハハ! やっつけやがった! あの恐ろしい『死の冷気』を、水と魔法で叩き潰しやがったぞ! ユージーン、お前は我が領の誇りだ!」

「わわっ、ラインハルト兄さん、揺らさないでー!」

大工のガルツも、技師のルーカスも、ドワーフのバルドも、誇らしげに酒樽を叩いて笑い合っていた。

五、絶望の地から、世界一の果樹園へ

満開の花に包まれた果樹園を見渡し、ユージーンは深く爽やかな息を吐き出した。

(散水氷結法も、気流循環も大成功だ。これで秋には、最高の糖度を誇る最高級リンゴが大量に実る……!)

さらに、バルドが開発を進める「板バネ(サスペンション)付き馬車」が完成すれば、収穫したリンゴ、そしてシードルやジャガイモを、傷一つつけずに王都へ大量輸出できる。


1次産業(高品質生産)× 2次産業(シードル・ジャム・加工品)× 3次産業(サスペンション馬車による安全・高速物流&販売)。ユージーンの描く『6次産業化』の全貌が、今や現実のものとして完全に繋がり始めていた。

「ユージーン」

父・ベルグフェルド男爵が歩み寄ると、十六歳の少年の肩を力強く抱きしめた。

「お前の知恵と熱意が、貧しかったこの領地にどれほどの希望を与えてくれたか知れん。……心の底から感謝するぞ」

「いいえ、父上。僕一人じゃ出来ませんでした。家族みんなと、職人さんたち、農民のみんなが力を貸してくれたからです」


ユージーンは少年の爽やかな笑顔で答え、桃色の花びらが舞い散る美しい空を見上げた。

かつて寒冷で貧しく、誰からも「お荷物」と蔑まれていたベルグフェルド領。その地は今、一人の「おじさん研究員」の情熱と科学の力によって、世界で最も豊かで幸福な『実りの聖地』へと生まれ変わりつつあるのだった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

初めての執筆ですが、本人は楽しんで作っています。

もし、面白かったら☆マークとブックマークよろしくお願いします


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