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神様って願い叶えてくれますよね?

戦後の跡地は、

静かだった。


音がない、というより、

音が終わった後の場所だった。


地面には、

折れた武器。

割れた盾。

形を保てなくなった身体。


血は、もう乾きかけていて、

土と混ざり、色を失っている。


そこら中に、

敵だったものが横たわっていた。


生きている気配は、ない。


ヴィーダルは、

その光景を見下ろすように、

一本の大木の枝に腰を下ろしていた。


世界樹の、

まだ若い枝だ。


「……まだ残ってるか」


低く呟き、

片手を軽く振る。


魔法は、簡単だった。


指先から溢れた光が、

地面をなぞるように広がり、

横たわるものたちを包み込む。


骨は、崩れ、

肉は、霧のようにほどけ、

血の跡だけを残して、消えていく。


片付け、という言葉が

一番近い。


埋葬でも、弔いでもない。

ただの後処理だ。


ヴィーダルは、

立ち上がる気にもならず、

枝に座ったまま、

だらだらと魔法を続けていた。


「面倒だな……」


戦争は終わった。

だが、世界は、

勝手に綺麗にはならない。


一息つこうと、

魔法の手を止めた、そのとき。


——違和感。


風でも、魔力でもない。


人の気配。


この世界には、

今、存在しないはずのもの。


ヴィーダルは、

ぴたりと動きを止めた。


魔法が、消える。

地面の片付けも、途中で止まる。


視線を上げる。


闇の向こう、

まだ片付いていない戦場の端に、

ひとり、立っている影があった。


血の匂いに、

慣れていない呼吸。


魔力を持たない身体。


——人間だ。


次の瞬間、

その影と、

ヴィーダルの視線が、ぶつかった。


驚いたのは、

相手の方だけだった。


ヴィーダルは、

枝に座ったまま、

ただ、瑠々を見下ろす。


瑠々は、

一瞬だけ、息を止めた。


木の上。

血の跡が残る戦場。

その中心にいる、

場違いなくらい落ち着いた男。


怖い、とは少し違う。

危険、というより——

規格が違う。


「……あなた」


声が震えないように、

瑠々は意識して、言葉を選ぶ。


「異世界人、ですか?」


自分でも、

随分あっさりした質問だと思った。


男は、

少しだけ首を傾けた。


考える、というより、

分類する仕草だった。


「異世界人、ではないな」


枝に座ったまま、

視線を逸らすこともなく、

淡々と言う。


「神だ」


それだけ。


名乗りも、

説明も、

補足もない。


瑠々は、

一拍、間を置いた。


「……あ、そうですか」


納得したわけではない。

信じたわけでもない。


「……神、なんですね」


瑠々は、

木の上の男を見上げたまま、

そう呟いた。


一拍。


次の瞬間、

彼女は深く考えることもなく、

その場で、手を合わせた。


戦場の真ん中で。

血の跡が残る地面の上で。


「お願いします」


声に出して、

はっきりと。


「次の企画が、通りますように」


空気が、止まった。


風も、

魔法の残滓も、

一瞬だけ、沈黙する。


ヴィーダルは、

枝に座ったまま、

まばたきを一度した。



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