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導かれるような、そんな感覚

重たい鉄の扉を、

瑠々はゆっくりと押し開けた。


きしむ音は、しなかった。


代わりに、

空気が沈んでいる。


暗い。

街灯も、非常灯もない。

足元は見えるけれど、

どこまで続いているのかは分からない。


道は一本。

まっすぐで、静かで、

やけに「整って」いた。


——あ、これ。


瑠々は、一歩、足を踏み出しかけて止まる。


反射的に、

もう一度、後ろを振り返った。


さっき開けたはずの扉は、

そこに、ある。


瑠々は、

その扉をもう一度、開けた。


次の瞬間、

聞き慣れた音が戻ってきた。


換気扇の低い唸り。

遠くのエレベーターの作動音。

非常階段特有の、コンクリートの匂い。


会社だ。


同じ階。

同じ場所。

時間も、ズレていない。


瑠々は扉を閉め、

もう一度、前を向く。


暗い道は、

変わらず、そこにあった。


「……なるほど」


小さく、息を吐く。


怖くないわけじゃない。

でも、混乱もしない。


一度、帰れることを確認したからだ。


瑠々は、

もう一度、異世界側の扉に手をかけた。


「あ、異世界転移だけど」


扉を開けながら、

どこか事務的に、そう思う。


「これ、行き来できるやつだ」


そう理解した瞬間、

瑠々の中で

“非常事態”は、

“選択肢”に変わった。


暗い道は、

歩き出してみると、思ったよりも冷たかった。


空気が、冷たい。

肌を刺すほどではないのに、

確実に体温を奪っていく感じがした。



風はない。

なのに、

どこかから冷えが流れてくる。


道の両脇には、

何もない。


木も、建物も、

目印になるものがないのに、

不思議と迷う気はしなかった。


——進め、と言われているわけでもない。

——戻るな、と言われているわけでもない。



ただ、

「歩ける」という事実だけが、そこにある。


瑠々は、

コートの前を軽く押さえながら歩く。


心臓は、

少しだけ早い。


でも、

足は止まらない。


冷たい。

静か。

生き物の気配がない。



誰かに見られている、

という感覚だけが、

ずっと背中に張り付いている。


「……監視カメラ、ないよね」


小さく呟いてみるが、

返事はない。


代わりに、

遠くで、

何かが軋むような音がした。


木が、きしむ音だ。


瑠々は、

視線を上げる。


闇の向こうに、

巨大な影が、

ゆっくりと輪郭を持ちはじめていた。


——ここから先は、

もう、会社の非常階段じゃない。


そう理解したとき、

足元の冷たさが、

少しだけ現実味を増した。


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