表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

2.いってらっしゃい 気をつけて

自宅を出る前にワイドショーで今朝方のニュースを確認してみる。


「財閥の令嬢がショッピングモールで行方不明。警察は誘拐も視野に入れて捜査」


「アスパラーハラスメントが全国で横行。店員が過度なクレーム行為を働いた客の腰から上をアスパラガスに変身させる迷惑行為が深刻化」


「『おむすびころりん』は史実だった!?転がされたおむすびの子孫が当時について語る」


やはり世界は絶えず変化し続けていると実感しながら身支度を済ませ、学校へ向かう。


テレビについつい見入ってしまい、朝食を取る時間がなかったので家族が用意してくれたパン…ではなくパン粥を器ごと抱えながら通学路を急ぐ。


パン粥を啜りながら走っていると目の前に現れるは曲がり角!!これは気をつけなければ!!


学生を主軸とした恋愛創作物において、パンを口に含んだまま曲がり角を全力疾走し、後の恋人とごっつんこする少年少女というのはお決まりのテーマである。が、現実においてそれは極めて危険な行為でもある。

力士やラガーマンなどの特殊な訓練を受けた方々でない限り、突進に耐え得る人間というのはいない。双方後を引く傷を負ってしまう。


おまけに今ぼくはパン粥を啜っている。これはパンを咥えているのと同じと言っていい。固形状か液状かの違いこそあれ、これはぼくが魅力的に思う異性(今の時代は同性も?)と曲がり角でぶつかる確率が何も啜ってない時と比べて0.01%くらいは上がった気がする。


ということで曲がり角の手前でスピードを落とし、ゆっくりと、だが着実に、パンの耳を噛み締めながら進んで行く。すると泣き声を上げながら飛び出す何者か!警戒していてよかった!さっと壁際に身を寄せると、目の前をジーンズ履いたアスパラが泣きながら走り去っていく。これ朝のニュースで言ってたやつだ!!危ないところだった。用心していなかったらアスパラクレーマーが運命の人となるところだった。


後続の人あるいはアスパラが来ても対応できるよう用心しながら進む。

体の八割が出たところで確信する。



魅力的な相手とは出逢えず仕舞いだったが(アスパラはホワイトソースと絡めるなら魅力的だが)、誰も傷つけず曲がり角をパン粥食べながら超えることが出来た!! 


だがこれは通学路の道のり、そのはじまりに過ぎない。時間内に学校へ到着しなければ表彰はおろかいらんお小言もらってしまう。先を急ごう


一方その頃別の場所


出前配達のバイトに勤しむ大学生が一人。だが彼はただの出前配達員ではなかった!


「手作り料理の真心こもった温かみ・そんな料理を届けたい」という理念を持つ彼はしかし、自炊を全く行わない自堕落大学生であった。


ではどうするか。何と彼は他所の家庭に押し入り、その家の料理を奪って配達先へ届ける邪悪配達員だったのである!


しかもそれだけに留まらず、押し入った先に料理がない時は家主にプレッシャーを与え、無理矢理料理を作らせて強奪する邪悪な思い切りの良さも持っていたのである!盗人猛々しいとはこのことか!


当然警察の捜査対象となっているが、彼は強奪の際に特殊な薄力粉を現場にぶちまけて事に及んでいたため、被害に遭った家の人々は抵抗しようにも力が入らなくなり、後々警察に被害を訴えようにも彼の容貌や格好に関する記憶力が薄まってしまい極悪配達青年まで捜査の手が届かずじまいとなっていたである。


そうして彼が配達した料理を注文した人々は彼の悪行を知らないため

「素朴な家庭の味を感じる」

「定食屋では出せない温かみがある」

「ふるさとを思い出した」

「前世を思い出した。私はアノマノカリスだった」

などと好評の声が相次ぎ、彼はバイト先で極めて良いポストを得ることに成功した。


そんな極悪配達青年の彼は本日もバイトに精を出していた。朝早くから料理の配達に勤しむことで顧客と職場に精力的な自己アピールをするという狙いもあった。


そのために彼は早朝4時から一般家庭に押し入り、子供のお弁当用に卵焼きを焼いていた主婦や一晩寝かせたカレーを楽しみにしていた論文発表から目を背けるため最近スパイス料理に凝り出した大学院生などから料理を購入し(一方的お友達価格、100%オフ)、熱心にバイトを続けていた。


あらかた本日のバイトを終え、本日のノルマも残すところあと一人となった。




「ベビーが産まれましたが、妻が風邪をひいてベビーの食事を用意できません。私はここ3年首から下がニシキヘビに締め付けられていて食事の準備ができません。助けてください」


だとしたらどうやってこの注文を行ったの?

まあ考えても詮なきこと。ただ粛々と注文の品を準備するのみ。要は離乳食を用立てればよいのだ。


彼はどんな料理を用意するか(あるいは作らせるか)思考を走らせた。

離乳食は硬いもの、刺激が強いものは御法度である。すり潰した果物や柔らかく煮込んだ野菜のスープ、あと有名なものといえば………パン粥などであろうか。


その時極悪配達青年の目の前を、器を持った学生が何やら頬張りながら横切っていった。


ーまたしても目線が変わりー


(さあ、どうしようか)彼は焦っていた。高校までの道のりは途中までは順調であった。しかし通学路のど真ん中、駅前の大通りにて突如として『寝食を忘れてポロに勤しむ会』のメンバーが乗馬したまま大挙して交差点内に進入し、そのままゲリラ的にポロの試合を始めてしまったのだ!


当然交通状況に混乱が生じ、警察が駆り出されることとなった。しかし厄介なことに彼らは看板に偽りなく寝食を可能な限り削ってポロに打ち込んでいたため、警察が取り押さえようとする前に彼らは体力の限界に達し人馬一体となってその場にバタバタ倒れ込んでしまった。


グロッキーな人々並びに馬たちを交差点から移動させるために多くの救急車が動員され、交通麻痺の度合いはさらにひどいものとなった。


幸いといっていいのかどうか、彼は交通機関を利用していなかったのでルート変更は迅速に行うことが可能であった。


彼は交差点をUターン後、粉チーズの多い部分をスプーンで掬って口に投げ込み自然公園沿いの道へ足を進めた。自然公園内にある花園ウォーキングコースの3番出口が、高校の自転車置き場と程近い場所にある。


自転車通学者以外は正門を使うべきだが、遅刻よりはマシだ。多めに見てもらえることを祈る。


そう思いながら花壇の脇を走っていると、一面の菜の花が広がるエリアに出た。その真ん中に、背中から蝶の羽を生やした中年のビジネスマンが佇んでいた。


ビジネスマンは厳しい表情で手に持った紙皿に何やら緑色のものを載せていっている。足元には同じような紙皿がいくつか置かれている。目を凝らすとそれらが動いているのがわかる。


そして正体に思い至った。アブラムシだねこれ。男はアブラムシを乗せた皿を量産していたのである。何故でしょう?


男もこちらに気づいたのか、剣呑な目でこちらを見ている。あ、羽は段ボールで出来てました。


お互い無言で見つめ合う。おおよそ20秒後、男が口を開いた。「子供がここで何してる」

こっちが聞きたい。


だが聞かれたので答えないわけにはいかない。通学の最中であることを男に伝える。

「ならばさっさと学校に行け」

言っていることは正しいがみょうちきりんな装いの人物が言うと空恐ろしいものを感じる。


だが人間好奇心には勝てない。あまり男を刺激しないよう丁寧な言葉遣いを心がけ、男に何をしているのか問う。


「見ての通り、菜の花畑にアブラムシをぶち撒けるのだ」


質問の仕方が悪かった。何故そんなことをしているのか聞きたい。

重ねて問うと厳しい顔を一段と歪めた後、ぽつりぽつりと語り出した。


曰く、結婚20年を目前として離婚したこと。

         ↓

結婚する前から妻には不倫相手がいたこと。

         ↓

目に入れても痛くなかった今年高校2年の娘はその不倫相手と妻との間の子であったこと。

         ↓

それでも愛すと誓った矢先、親権を持っていかれたこと

         ↓

全てに嫌気がさして蝶に生まれ変わると決意したこと

         ↓

童謡にならって菜の花に飛び乗ろうとしたら潰れてしまい、菜の花にすら拒絶されたこと

         ↓

そして今に至るとのこと


人間追い詰められると何をしてしまうかわからないものである。彼が蝶になってしまったのも絶望からの逃避行動なのであろう。この状態に至るまで彼がどれだけ苦しみ、悩み、涙したか。それは自分のような若輩者には想像すら出来ない領域であろう。


だが今の彼が不健全な状態であることはわかる。


パン粥をいくらか掬い取ると、紙皿によそって男に渡す。ちょっとでも温かいもの食べて元気出して。


「そんなものはいらない!!俺にはやるべきことがある!!」

絶対に他にあるよ。


その時、後ろからふりかけられる白い粉!!咄嗟に男が庇ってくれた!!


そのまま倒れ伏す男!!蝶の羽が全部塞いでくれたのでこっちには全然かからなかった。

現れたのは大学生ふうの胡乱な輩。男の背中を踏みつけて挑発的に言い放つ。


「パン粥をよこせ。こいつがどうなってもいいのか。」

正直そこまで深い付き合いではないが…でも今この状態で男が何かされたらあまりにも可哀想すぎる。


器にしっかりフタをして胡乱な輩に手渡した。

ひったくるようにして器を取られる。

「これで俺の評価アッ〜プ」

歌うように言いながら輩は

どこかへ去っていく。


去っていくのを確認した後、羽を持って男を助け起こす。

男はすっかり無気力になってしまっていた。

「父親も夫も出来なかった男が蝶なんてできるわけねぇなぁ」


涙目で吐露する男に先ほど紙皿に移したパン粥をどうにか食べさせる。男が少し咀嚼する


「あ、温かい」


実は男に分けた分でパン粥の残りは無くなってしまったのだ。


では胡乱な輩に渡した器には…



視点が変わって極悪配達青年。彼は難題かと思われたパン粥を獲得してホクホクであった。今はバイクを快調に走らせ依頼先に向かっている。

(これで俺の評判も給料もさらにアップ!全く美味しい商売よ)


そこで目の前赤信号。バイクの一時停止中、ふと依頼のパン粥をちゃんと確認していないことに気づく。

(今のうちに中改めておくか)

そして先ほどぶんどった器を片手でぱかっとご開帳。

中から飛び出す緑の大群!!!

「ヴァああああああああ!?!??!!??!!?」

悲鳴と共にアクセルふかし、信号無視して全速力。


だがその時目の前に、ポロの後片付けに追われる警察の皆様!!無理矢理突っ切ろうと前傾姿勢でアクセル踏み込む!!


そんな折、来ていたジャケットの内ポケットからポロっとこぼれる薄力粉。バイクのタイヤに降りかかり、回転力が急ストップ。


だが人間は急に止まれない!!極悪配達青年は、前傾姿勢そのままにミサイルのようにバイクから射出!!

パトカーのフロントガラスに頭から突っ込む!!


こうして悪事を重ねていた極悪配達青年のアルバイトは強制終了となり、彼は別のお勤めを果たすこととなった。


そして時を同じくして花園ウォーキングコース。蝶男はたまたま近くを通ってた救急車に運ばれ病院に行くこととなった。彼は消耗していたが軽傷であり、一緒に乗っても大丈夫との判断の元、馬と隣り合って運ばれていった。


学生は彼の無事を祈りながら、身寄りがなさそうなのでアブラムシとともに学校へと急ぐのであった。





































評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ