【落書き】星
華やいだ夏祭りを背にして歩き出した。僕らの後ろでは、まだ提灯が光り、太鼓が鳴り、子どもや男の人の声がとめどなく響いている。
しばらく歩くと辺りは道に沿って並んだ街灯だけになって、僕らの歩く音だけが月の昇った青白い曇り空へ消えていった。周りを囲んだ山が、月明かりに染められた空の下で浮き彫りになる。僕は、君がどこまで行くつもりなのか知りたくなった。でも、遠ざかっていく祭りの賑わいが恋しくなったら、聞こうとしても聞けなかった。
「いま、どんな顔してる?」
君は相変わらず僕の隣を歩きながら、浴衣の袖で軽く額の汗を拭ったら、そのままそっと僕の右手を握ってこう言った。手のひらから何かが流れてきたみたいに体がうっと震えて、息が詰まった。運動靴の底がコンクリの道路と擦れて、グジジっと鳴った。僕は答えられないで、次の街灯の下まで行って顔を見られるのが恥ずかしくなった。
「もう少しで分かるね」
君はそう続けると、ほんの少し歩くのが速くなった。草履も今までより速くザリザリと音を立てる。僕はいてもたってもいられなくなって、つないだ手を強く握って立ち止まった。
「…どこまで歩くの?」
僕は苦し紛れにそう言った。言ったあとで、手を緩めた。手を緩めても、2人の手のひらはお互いの汗でくっついていて、少しして離れた。その隙間に夏の空気が入り込んで、少し冷たかった。
「私が疲れるまで」
君はそう言うと、一度緩んだ手をまた握って、歩き出した。