表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/10

7. リナ・アルデール(1)

 戦慄。後悔。喪失――


 ふと周囲を見渡せば、煌びやかな舞踏会の場が、凍りついたように静まり返っていた。

 ルークをはじめ、学園の誰もが息を呑み、私とビクトリアを注視している。


 けれど――誰一人、言葉を挟もうとはしない。


 あれほど私に肩入れしてくれていたルークでさえ、今はただ、黙してこの成り行きを見守っている。


 それも、無理はない。

 ビクトリアの告発は、これまでの“ちょっかい”や“いじめ”といった学園内の揉め事とは、まったく次元の違うものだった。

 それは――筆頭公爵家の令嬢が、王国の秩序を守るために行った、揺るぎない“正義の糾弾”だったのだ。


 しかも、彼女は他の婚約者たちの令嬢とも手を組み、彼女たちの父親――すなわち、ジェラール公爵を筆頭とする有力貴族たちへの根回しも、すでに済ませているという――

 完璧に組み上げられた断罪の構図。


 その中で私は、何一つまともな反論もできず、ただ狼狽し、言葉を失い、愚かにも沈黙した。


 ――その結果、(リナ)の好感度は地に落ち、すべてが失われた。


 “チヤホヤされるヒロイン”の立場も、

 “いじめられていた可哀想な令嬢”のポジションも、

 “勇気を出して婚約破棄の撤回を申し出た健気な少女”のイメージも。

 ぜんぶ、跡形もなく吹き飛んだ。


 さらに言えば――

 異世界転生モノお約束の“ゲーム知識で無双”など、望むべくもない。

 なぜなら、すでにこの世界はゲームの最終盤。

 分岐の選択肢など、もう残っていない。

 それどころか、もともとこの逆ハーレムルートには――“ギロチンエンド”という、逃れられない結末しか存在していなかったのだから。


 今や私は、完全なる“王国の敵”。

 貴族社会の秩序を揺るがした、背信者。


 誰も、私を庇わない。

 同情も、赦しも、もはやどこにもない。



 ――ならば。


 私は、腹をくくった。


 この物語の新たな“悪役令嬢”として、最後まで舞台に立ち続けてやる。


 卑劣でも、狡猾でも、構わない。

 どうせ堕ちるのなら――最も劇的に、美しく、悪役として咲き誇ってやる。


(そう……私は、このゲームにすべてをかけてきた)


 何千周もの周回プレイ。

 膨大な時間と、労力と、情熱と、課金と……すべてを注ぎ込んできた。

 存在すら疑われていた“逆ハーレムルート”に到達し――ゲームの世界に転生まで果たしたのだ。


 そんな私が――戦わずして、終わる?


 ありえない。



 私は、ゆっくりと顔を上げた。


 瞳の奥に宿るのは、もはや迷いでも諦めでもない。

 氷のように冷たく、澄みきった――静かな闘志。


 唇の端に、笑みを刻む。

 冷笑。仮面。演技――すべてを駆使して、私は“新たな役”を演じる。


 その視線を、まっすぐにビクトリアへと向けた。


 その瞬間。

 勝者の余裕をまとっていた彼女の表情が、かすかに動いた。

 微笑がわずかに揺れ、目が細められる。

 それは――警戒。そして、戸惑い。


「――あら。ビクトリアさまは、大きな勘違いをしていらっしゃるようですわ」


 私は会場中に響く声でそう言い放ち、堂々と歩を進める。

 その笑みは、かつてのか弱い令嬢のものではない。

 今や私は、この舞台に立つ“真の悪役令嬢”。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ