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  俺は北へ北へと、真っ直ぐに続く道をただひたすらに自転車を走らせた。

 御池おいけ通に丸太町まるたまち通、堀川今出川ほりかわいまでがわ通と次々に色んな通りがある。どんだけ通りがあるんだよ?


「アチぃー!」


 自転車を走らせている時は、風が体にあたり気過熱のおかげで暑さがやわらぐが、自転車は止まると暑い!

 日はグングンと昇り、気温がガンガン上がっていく。 

 暑い、暑い、蒸し暑い……。なんだこの暑さは! 体がじりじりと焼けているのがわかる。汗が噴き出し、Tシャツの上で乾いて塩になっている。


「何なんだこの暑さ! 京都ヤベぇ!」


 北大路きたおおじ通を通過すると、片道二車線になり車道が狭くなるが、その変わり背の高い街路樹が多くなった。歩道と中央分離帯の青々とした街路樹が、強い日差しを遮ってくれるので、幾分助かった。

 

 さすがにここまで、この暑さの中、休憩なしに走りっぱなしだと、体に堪える。前かごに置いたペットボトルの水も空になった。


 そんな時、香ばしい旨そうな匂いが漂ってきた。その匂いつられるように自転車を走らせると、えんじ色の店と人が見えた。俺は店の前で自転車を停めた。


 人気店なのだろう露店式の店の前には、数人の客が並んでいた。店の中を覗いてみると店員は暑い中、せっせとたこ焼きを焼いてる。


 たこ焼きもうまそうだが、俺の目が釘つけになったのは、店の並びにあったアイスのケース。

 この真夏の炎天下の中、古い冷凍ショーケースが輝いて見えた。中を覗き込むと赤、青、黄色に白、緑とカラフルな色が見えた。


「かき氷だ」


 それも市販のかき氷ではなく、たこ焼き屋があらかじめ作っておいた手作りのかき氷だ。

 俺は迷わず【アイスクリーム】と書かれた冷凍ショーケースのガラス戸を、ガラッとスライドさせた。

 選ぶ味は昔から決まっている。真緑色のメロン味。それを二つ手に取り、たこ焼き屋に金を払った。


 汗ダラダラらのクソ暑い中、俺はメロン氷を口の中にほおりこむ。


「はぁー、うめーぇ……」


 今の俺には、それ以外の言葉は見当たらない。流行りのフワフワではない固いメロン味の氷を木の匙でザクザク削り、ガツガツ食べてお決まりの「頭いてぇー」をやって、また食べる。

 まじでサイコー。


 かき氷を食べてクールダウンし、復活した俺は自転車を走らせた。


         

♢♢♢



「結婚式、京都で挙げたんだとさ。古都きょーとだってよ!」


 何故か半泣きの高嶋に

「なんで、京都なんだよ」と、俺が訊くと

 高嶋は氷が溶けた薄いレモンサワーを一気に飲み干し


「井上さんの両親って元々京都の人で、親戚が京都にいるから、そこで挙げたんだとさ。――ほれ、見てみな」


 高嶋が差し出したスマホに、俺と品川が覗きこんだ。

 そこには白無垢と紋付袴を着た二人が、立派な朱色の鳥居前で幸せそうに微笑んでいた。


「佐々木の奴から送られてきたんだよ……。何神社だったかな? えーっと……」


上賀茂かみがも神社でしょ」


 白ワインの入ったグラスを片手に品川がさらりと言った。


「何で知ってるんだよ。しなちゃん!」

 

 詰め寄る高嶋を品川はさらりとかわして


「だってオレ、先週、彼女と京都旅行に行ったばっかりだから」

 

 そう言って、品川は上品に白ワインを飲み干した。



 そんで俺は、今馬鹿みたいに、真夏の炎天下の中,自転車を走らせ、その上賀茂かみがも神社に向かっている。



 佐々ささき凜太郎りんたろうとの出会いは中学の入学式の時だ。

校舎から体育館へと続く渡り廊下で、俺は緊張していたのか、渡り廊下に敷いていたすのこに躓いた。

 コケそうなった俺の腕をつかんだのが凜太郎だった。


『大丈夫?』


 凜太郎りんたろうにとって前を歩いていた、同級生オレがコケそうになったのを助けただけ、ごくごく普通の出来事だったと思う。

 だが、それは俺にとって、()()()()()だった。

 それはドラマのワンシーンのように、景色がぱっときらめいんだ。

 本当にキラキラと……。


 ――初恋だった。




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