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 京都駅の正面入り口近くで、俺はレンタサイクルを借りた。

 最近は電動式の自転車やスクーターがあるが、ごく普通の自転車チャリをレンタルした。


 蝋燭みたいな京都タワーが突き刺すように真っ青な空の下、ガラガラと大きな荷物を引きながら、ダラダラと歩く観光客を横目に、俺は観光案内の大きな地図を見上げた。


 行先はもう決まっている。


 目的地を再確認した俺は自転車をペダルに足を掛けたいが、観光客と通勤通学でごった返している京都駅前では無理だった。

 

 出鼻をくじかれた俺は自転車を引きずり、バスを待つ長蛇の列の横を通り、人混みの多い横断歩道を渡った辺りで、スタートした。


 気を取り直し自転車を走らせてすぐに現れたのが、大きな寺だった。

 西本願寺にしほんがんじって大きく書いて垂れ幕が目についた。街中にいきなり、広大な場所に寺が現れると結構驚く。 


(やっぱ、京都なんだな、ここ……)


 目的地はこの場所から、まっすぐ北へと自車を走らせればいい。よほどのことがなければ道に迷うことはないだろう。

 スマホで地図を確認しながら行きたいのだが、いつも入れているズボンの左ポケットが空だった。

 飲んでいる時、同級生と連絡交換をしたのは憶えているが、店を出てから触った覚えがない。

 多分【焼き鳥屋・小鳥】に置いてきてしまったのだろう。


 二つ大きな交差点を通過した所で、信号に捕まった。

 出発前、コンビニで買った二リットルペットボトルの水を一口飲み、辺りを見渡すと四条通りと書いてある標識が見えた。

 京都は碁盤の目の町だと聞いたことがある。今俺は北へ向かっているので、右側は東になる。

 その東側の遠くに何かが見えた。


「――まあ、どうでもいいか」 


 信号が青になり、俺は自転車を走らせた。ひたすら北上していくと、真っ白なお堀が見えた。これもまたでかい。俺は思わず自転車を止めた。


(寺か? いや、お堀だから城か……?)


 石碑には【史跡 舊二條離宮】


「しせき…… に、しのりきゅう? なんて読むんだ? 難しいな……」


 デカくて立派な門は閉ざされていた。その立派な門の前で外国人観光客が記念写真を撮っている。


(この門、昔、じっちゃんがよく観ていた時代劇の門に似てるな)


 再び自転車を北上へ走らせると、六車線の道路でた。その道路の脇に橋が架かっているのが見えた。

 近づいて橋の下を覗いてみると整備された細い川が流れている。川ってより水路だ。水量は少ないが綺麗な水が流れている。


 両脇に遊歩道があり、おっさんが犬を連れて散歩していた。

 おっさんが連れている黒いラブラドールは、ハアハアと大きな舌だらりと垂らし、隙があらば、今にも水路に飛び込みそうだ。

 様子を窺うように、チラチラとおっさんの顔を見上げている。

 

 今の俺なら犬の気持ちがよくわかる。

 本当マジでクソ暑い! 出発してから気温が上がりかたがハンパない。二リットルの水が底をつきかけている。

 俺は少しでも日を避けるように、街路樹があるこの小さな水路沿いに自転車を走らせた。


 道を走っているだけで、やっぱりここは京都なんだなと思わせる。本当に幾つもの神社や寺とすれ違う。

 大勢の参拝客で賑わっている神社もあれば、門を閉じて観光客など寄せ付けない寺もある。誰一人参拝客の姿が見えず、ひっそりと佇んでいる神社も見えた。

 

 俺は今、京都の道を自転車で走っている。

      


♢♢♢



「佐々木とさー、井上さんが結婚したんだのさ。先月……」


 ベロベロに酔っぱらった、高嶋が俺の肩に持たれつつ言った。


「だからさー、二組の井上紗南いのうえさなちゃんと佐々木だよぉ! おのれ佐々木凜太郎ささきりんたろうめ。あいついつのまに井上さんと、そんな関係になってたんだって話だよ!」


「へぇー。井上と佐々木がくっ付いたんだ。なんが意外だな」

 

 ワイングラス片手に品川が隣に座った。

 

 ワイワイと盛り上がっている中、仕事しているのが嫌になったのだろう、【焼き鳥・小鳥】の店主、品川は早々に店の表に〈本日貸切〉の札を掲げ自分も飲み始めた。


「オレ、ぶっちゃけるけど、井上紗南こと好きだった!」


 高嶋が大声で宣言すると、呆れた顔した品川が


「今更、宣言しなくても、みんな知っているから……」


 品川にあしらわれた高嶋は俺に抱き着き、悔し泣きながら


「山尾! おまえ何ぼーっとしてるんだよ! もしかして! おまえもか? おまえも井上さんのこと好きだったのか! ほんと、かわいかったよな。紗南ちゃん」



――紗南は俺の憧れだった。


 テニス部の彼女はの好く焼けた小麦色の肌。

 すらりと伸びた長い手足に少し膨らんだ胸。汗をかいても俺の様なニオいはしなかった。

 サラサラの長い髪を、形の好い耳かけるのがクセで、顔はけして可愛いわけではないが、話すときは必ずまっすぐに目を見て話した。

 

 俺はあの、まっすぐな瞳が好きだった。


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