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第9話

 それから俺たちは木々の中を息を切らしながら早足で歩いていた。時に、木の根に足を取られてつまずく。それだけでえげつなく体力は奪われている。

 平地をウォーキングしたり、ランニングしたりする人々の都会の風景を思い出す。

 息急ききって、軽く汗を流している姿。気持ちいいことだろう。


 しかし俺たちはどうだ。死に物狂いで疾走しても、僅か数十メートルが五キロランニングと同じように疲れる。山の中とはそれだけ体力が消耗するのだ。

 それに加えて、俺たちは常に見張られている。殺人者の目と、死の恐怖に。


 俺は先行して走っていたが、ユージが限界を迎えそうなので、休もうと切り出した。

 何しろユージは、親友のアキラを肩に抱えながらだ。体力の消耗は半端ないだろう。


「はぁはぁ、ユージ、アキラ、少し休もう」


 ユージは、ぐったりしたように声なく頷く。そして、気力だけでアキラを木の下に連れていき、倒れるように木の葉の上に座り込んだ。

 俺は水の入ったペットボトルを出して二人に突き出した。二人とも先が長いからと遠慮したが、荷物を軽くしたいと言うと、嬉しそうに譲り合いながらそれを飲んだ。

 俺は来た道を振り返る。先ほどまでいたところは随分と離れた。だがまだ見える距離なのだ。

 そして忌々しいドローンのヤツは疲れなんかない。悠然と俺たちを撮影している。


 だがここは山の中だ。いくらドローンが空を飛ぼうとも、細い枝が絡み合う藪の中や、蔦に被われた茂みの中までは入ってこれない。

 俺はそういう場所を探した。しかし小さい茂みはあるが、大きなそれはなかなかない。

 だが見つけた。かなり向こうだが、葛の葉に被われた藪だ。あそこにならドローンは入り込めまい。そこで、やりすごそう。


「おい、二人とも。あそこの藪を目指すぞ。あそこならドローンは入り込めない」


 二人ともそれに頷く。休んだのと水を飲んだことで、体力を持ち直したようだ。

 ユージはアキラの肩を担ぐ。そこに俺ももう片方の肩を担いだ。


「お、おい。キラ。荷物は……?」

「大丈夫だ。リュックは背中に背負ってるし、お前らのは肩に掛けられる。藪まで全力疾走だ。そしたら、あの中で少し休もう」


「オー、ケー!」


 二人とも声を揃えた。俺は合図する。それと同時にユージと俺は駆け出した。アキラも無事な足で地面を蹴って進む。これはいい。今までにない三人四脚。いや、五脚か。しかし、すごいスピードだ。


 俺たちは葛の葉の茂る中に飛び込んだ。すると、驚いたのは中にいたタヌキだ。慌てて飛び出していった。

 その様子に俺たちは少しだけ固まったが、ドローンのプロペラ音が迷いながらどこかにいくのを聞いた後で笑いあった。


「はっ。今のタヌキの顔」

「驚いたって顔してたもんな」


 ホッとした。なんという安全地帯。ライフルの脅威を避けられた。俺たちは、この湿った茂みの土の上で大きく休息を取った。

 朝五時に起きて、まだ昼前だというのになんという疲労感。誰言うとなく、そこで雑魚寝した。一時間ほど。だがいつまでもここにいるわけにはいかない。

 食料も水も残り少ないし。葛の根は食用になると聞いたことはあるけど、どうすればいいか分からない。花はブドウの香りがするが……。これならばもっとサバイバルを勉強しておけば良かった。

 車までまだまだある。ひょっとしたらどこかで野宿する必要もある。そのことをまだ二人は知らない。俺は一人冷や汗をかいた。


 葛の葉の隙間から太陽の位置を確認する。頭の真上にある、というとは昼ぐらいだ。日没まで六時間と行ったところか?

 行きとは道が違うが、方向はあっているはず。


「車まで、後三時間くらいか……?」


 アキラが聞いてきた。そう彼らは俺が最初に言った『車まで四時間』と言うのを覚えていたのだ。

 しかし、最初に来た廃道とは違い、整備されてない未踏の山の中なのだ。

 今のここまでの道のりだって、廃道なら二十分くらいでこれる距離だ。それを七時間もかけている。

 地図も道もない山の中にプラスして、傷だらけのアキラを抱えているんだ。車までどのくらいなのか見当もつかない。

 俺はそれを二人に説明した。二人の士気は大きく削がれ、もう一歩も動きたくないようになってしまった。


 だがダメだ。それは死を待つだけだ。立ち止まったら水も食料も尽き、確実に死がやって来る。

 俺はそう言って二人を励ました。二人とも、力無くだが同調してくれた。

 それは、一番身軽な俺がいなくなったら、完全におしまいだと言うことを知っているからだ。


「じゃ、行こう……」


 ユージは服の泥をはたき落とした。アキラへと手を伸ばすが、その手にはさっきまでの力はない。そこまで士気が落ちたのだ。

 俺もアキラの歩行のサポートをした。


「ゆっくり休み休みでいい。この中ならドローンはこない。そして、出来るだけ早く沢を見つけて、そこでキャンプをしよう。沢なら水もあるし、魚やカニなんかもいるかもしれない」

「カニ? マジかよ!」


 おいおい。カニと言ったって沢蟹と言うヤツでちっちゃいヤツだぞ? こいつら確実にズワイやタラバと勘違いしてる。

 だが歩く希望が出来たみたいだ。ユージとアキラは少年のようにはしゃぎながら歩き出した。

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