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第8話

 気付くと俺たちは森の中にいた。すでに白いモヤは晴れ、明るくなっている。

 跳ね起きて確認する。草に擦れた傷はあれど軽傷だ。草たちがクッションになってくれたんだろう。良かった。

 辺りを見回すと、二人とも伏せたままだが、一ヶ所に揃っているのでホッとした。

 太陽の位置はまだ低い。7時になるかどうかくらいだろう。一時間ほどここで寝ていたことになる。


 俺はゾンビのようにフラフラになりながら立ち上がって二人に近づいた。

 予想に反して、起きていたのはアキラのほうだ。しかし転がって左手首を捻り、左足は折れてしまい動けないようだ。右側はユージが支えていたので無事だったのだろう。

 ユージはというと、悪運の強いヤツだ。ほとんどケガがない。衣服が草で緑色に汚れた程度だった。


「アキラ、大丈夫か?」

「おう。体勢がキツい。起こしてくれ」


「ちょっと待ってろ。ユージ、おいユージ」

「う……あ、あ」


「目が覚めたか?」

「俺たち、崖から滑り落ちて……」


「ああ、お前が一番大丈夫だよ。それよりアキラだ。またケガしたみたいだ。足は折れてる。俺はその辺から添え木を拾ってくるから、アキラを連れて木陰に移動してくれ」

「あ、ああ。も、戻ってきてくれるよな?」


「もちろんだとも。その辺だよ。見える場所にいる。心配するな」


 俺は、丈夫そうな太い枝を探した。ユージもアキラを連れて、木立の影に隠れた。

 俺は枝を探しながら落ちてきた斜面を見上げる。それほど高くはない。落ちるときは百メートルほどにも見えたが、十五メートルほどだ。

 それに倒れてからの時間、ライフルは俺たちを殺しにはやってこなかった、ということはライフルは今活動していないと考えるのが正解であろう。おそらく二人もそう考えているはずだ。


 俺は手頃な太い枝を拾い上げながら思った。二人のほうを見ると、ユージはアキラを気にして俺のほうを見ていない。まったく。そこをライフルに襲撃されたらどうするつもりだ。

 俺はリュックの底のチャックを開けてあるものを取り出した。そして二人の元へと戻る。


「おう。あったぞ、枝」

「おお、センキュ。それは?」


 俺は手に持っているものを見せた。包帯と太めの大きな輪ゴムだ。これと枝でアキラの足を固定させるのだ。

 俺はアキラへと骨折の応急措置をした。


「どうだ。輪ゴムはキツいか?」

「いや、ちょうどいい」


「歩けるか?」

「まあ、大丈夫」


 良かった。アキラはユージと違って根性がある。この中でただ一人の満身創痍がアキラだ。

 左足は骨折し、左手の指は三本なくなっている。右の眼球は潰れ、鼻は折れ、頭蓋骨も陥没しているのだ。普通の人なら、こんなふうに平然としていられない。しかし、アキラは持ち前の根性で乗りきっているのだ。

 正直、大男の横でカメラを持っていた時は、アイツの腰巾着なヤツだと思っていたが、頼り甲斐のある男だ。


 少しだけ水を回し飲みした後で立ち上がる。その時だった。




 プルプルプルプル。




 聞き覚えのない音。安っぽいプラスチックのプロペラが回るような。

 この山奥には不自然な音だったのだ。俺たちは辺りを見回したが、それは向こうからやって来た。


 まるで新品と言わんばかりの小型のドローンが、俺たち目掛けて飛んできたのだ。


「危ない!」


 俺は頭を被って腰を低くした。直感した。これはライフルの道具なのだと。俺はドローンがどう出るか分からず、頭を抱えて地べたに膝をついたままだったが、停滞を続ける音に顔を上げた。二人も一緒だった。


 ドローンを見上げると、それは一定の距離を取って、俺たちの方向をただ向いているだけ。ただのそれだけだった。


「カメラだ!」

「え?」


 ユージがドローンを指差す。そこには中央にレンズらしいものが輝いている。そうだ。確かにカメラだ。作りは簡素なドローンだが、レンズとセンサー、小さいライト、バッテリーを積んでいる。全て軽量で持ったら二キロあるかないかといったところだろう。

 こんなもの使うなんて、ライフルしかいない。


「クソッ!」


 ユージはキレたようになって、ドローンに飛び付いたが、ドローンは障害物を感知するセンサーがあるようで、簡単にかわしてしまう。ユージは小石を複数掴んで投げ散らしたが、それさえも避けてしまった。


「チクショウ!」


 ユージは悔しがって地面を叩く。それを嘲笑うかのようにドローンは俺たちを撮影していた。




 つまり、これも殺人動画(スナッフ・ムービー)。ライフルは俺たちを見つけられていないと思っていたが、こんな山中なのだ。

 追撃のアイテムはあったのだ。捜索のドローンが。カメラを通じて、ライフルはモニター越しに俺たちを監視しているのかもしれない。

 そして、狙いやすいポイントに来たら一人、一人と撃ち果たし、最後の一人になったら捕らえて、あの拷問部屋に──。


 それは嫌だ。考えろ。俺たちの生き残る術を。やり方を。どうすればいい?


 ともかく、逃げなくては。まだ俺たちはほぼスタート地点なのだ。ゴールまでの踏破率は1パーセント。

 くっ。今、少しだけ絶望が頭をよぎった……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ほのぼののんびりした始まりから、一転あやしい若者、一気に読んでしまいました。 続きが待ち遠しいです。 [一言] リュックのそこから取り出したのって…… そういえば、サイドブレーキも………
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