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第7話

 うっすらと空が白み始める。少しモヤが立ち込めているが、これは俺たちの進行には不利ではあるものの、ライフルにとっても不利なはずだ。

 それに、この広い山だ。ライフルは俺たちの目的地など知るまい。ライフルの管理下から逃れれば、見つかることはほぼないだろう。

 俺は二人を起こした。アキラはまぶたをゆっくりと開けていたが、ユージは驚いて軽く悲鳴を上げて飛び起きたので呆れた。


「おいおい。もう行く準備は出来てるぞ。さ、早く行こう」


 俺はさっき考えていたことを二人に話した。モヤは俺たちにも不利だが、ライフルにも同じことだということ。そして、広い山の中に入ってしまえばライフルをまけるかもしれないこと。

 二人はそれに激しく同意してくれた。


 俺はリュックから出していた、ペットボトルからコップへと水を注ぎ、二人へと手渡す。二人は息もつかずにそれを飲んだので、おかわりを与えた。そして自分も飲んで一息。


「行くぞ」

「おう」


 俺たちはカギをかけていた玄関へと進む。片手のアキラが先頭だ。俺が次。ビビりのユージは最後尾だった。

 玄関に着いた。アキラは俺たちを制止する。扉を開けて、外を確認するらしい。それに俺たちは頷いて、アキラの行動を待った。


 アキラがカギを開け、ドアノブをひねる。




 ピン。




 小さな音が俺には聞こえた。


「アキラ! 伏せろ!」

「え?」


 だがすでに遅かった。扉には罠が仕掛けられていたのだ。張り積めた糸が、ドアを開けると切れるようになっており、切れた糸に連動してレンガがアキラの顔目掛けて飛んできたのだ。

 それをまともに顔に受けたアキラは、タンッと音を立てて倒れる。俺は慌ててドアを閉めた。ユージはアキラの脇を抱えて家の中に引き摺って行ったが、アキラは目を覚まさなかった。


 よく見ると、レンガは右の片目を潰してしまったようで、なおかつ鼻や頭蓋骨を折ってしまったのだろう。顔が変形していた。

 恐ろしい。ライフルは、こういうトラップも仕掛けられるプロなんだ。なんてものを相手にしているんだ。


 とにかくアキラの応急手当てをしなくては。俺はペットボトルからタオルへと水を染み込ませ、流れる血を拭いた。そして新しいタオルで傷と顔を覆い、テープを巻いた。


 気絶していたアキラだったが、残った片目を開ける。しかし、激痛だったのだろう。また固く目を閉じた後で、うっすらと目を開けた。


「痛ぇ……。何が起こったんだ?」

「罠だ。玄関に罠が仕掛けられていたんだ。多分……ライフルだと思う」


 アキラは苦痛にこらえている。残った目から涙を流しても、必死に立ち上がろうとしていた。

 それにユージは顔を真っ赤にして怒った。


「クソっ! ライフルの野郎、許せねぇ! アキラをこんな目に合わせやがって!」


 それは臆病なユージではなかった。昔からの親友であるアキラをこんなめに合わせ続けられて怒りのほうが勝っている。


 怒っているユージ。ダメージが深刻なアキラ。この中で、冷静で第三者の目で見れるのは俺しかいない。俺が指揮をとらなくては。

 ユージはアキラに肩を貸し、立ち上がる。


「行こう! 玄関は無理だ。窓から出るんだ!」


 しかし、俺はそれに反対した。


「いや、ダメだ! 窓にも罠があるかもしれない。それに庭は草が生い茂っている。そこに罠があったら全滅するかもしれない。ここは玄関から出るべきだ!」


 それにユージもアキラも怪訝そうな顔をした。


「玄関? 玄関には罠があったじゃないか!」

「そうだ。だがアキラが解除してくれた」


 そうなのだ。玄関の罠はすでに使用されている。ライフルは、俺たちが他から逃げると考えるはずだ。そしたら、そこにも罠を張っていると考えるのが妥当だろう。


「そ、そうか。あの罠は壊れているもんな……」

「そうだ。ライフルはその辺にいるかもしれないが、すぐに前にある茂みに飛び込もう!」


 それに二人は力強く頷いた。


 俺は自分のと少ないが二人の荷物を抱え、ユージはアキラへの肩を貸した。アキラの負傷はかなり大きい。車まで急がなくては……。


 俺はゆっくりと玄関のドアを開けた。そして辺りを見回す。そこに人や獣や鳥の動きさえない。白いモヤに包まれた、朝の匂いだけだ。


 俺は二人に合図した。


 ダッシュだ! 駆ける、駆ける、駆ける──ッ!

 その距離、僅か十メートルほど。目の前には、おそらく昔は篠と椿の垣根だった場所。それが今では手入れするものがなくなり、鬱蒼と生い茂った、密度の高い茂みだ。最初に俺が飛び込む。鎧のような茂みをぶち壊すように。後から、ユージがアキラを肩に抱き寄せ、引き摺るように茂みに入り、俺の後を追う。


「あっ……!」


 それは、俺の間抜けな声──。

 茂みはすぐになくなった。目の前は広大に広がる森。それは眼下にある。なんという思い違いを……。

 茂みの向こうには森が広がっていると思い込んでいた。しかし、それは錯覚だったのだ。


 そこはガクンと落ち込む急な斜面になっていて、俺たちは足を踏み外し、滑落を始めていた。


 スローモーションで、二人を確認する。ユージの焦った顔、アキラまで確認できない。

 俺たちは草だらけの斜面を転がっていった。

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