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第6話

 アキラはそこにへたりこんだ。ユージも腰が抜けたようになって、俺のジーンズにすがりついていた。

 しかし俺は、椅子の死体のほうへと近づく。


 白骨死体の前には、三脚が置かれカメラが据えられていた。そして、カメラから出ている線には大きめのバッテリーが繋がっている。すでにどちらも電気は切れてしまってはいるが。

 俺は鳥肌を立てながら二人のほうに向き直り、自身の憶測を話した。しかし、その声は震えに震えていた。


殺人動画(スナッフ・ムービー)だ……」


 それを聞いて、二人とも抱き合ってガタガタと震える。俺はそこに続ける。


「おそらく、ここはライフルの部屋なんだ。どこからか人をさらってきて、縄にくくりつけ、死に行くさまを動画に撮ったんだ。見ろ」


 俺が指差した先は、白骨死体。その骨は無惨に噛み千切られた跡がある。


「ライフルのヤツは、被害者をここに縛り、カメラを設置した後、自身は悠々とどこかに行ってしまったんだろう。身動きの取れない被害者は、生きたままネズミに喰われたんだ」


 そう言うやいなや、天井裏から、トトトトト、トトトトトと、ネズミの駆け回る音が聞こえた。コイツらは次の獲物が喰えることを楽しみにしてしているのかも知れない。


「あわわわわ、今すぐここを出よう」

「そ、そうだ。グズグズしてたらライフルがやってきて、俺たちを……」


 ユージとアキラは、這いつくばって階段へ向かったが、俺はそれを止めた。


「ダメだ!」

「どうして?」


「外にはライフルがいる。おそらく、ここに帰ってくるのかもしれない。それなら三人がかりで捕まえることが出来るのかも? だけど、外に出れば狙われるだけだ。俺たちは一人、二人と。最後車に戻れるのは何人になるのか? いや、ライフルはそれを狙っているのかもしれない。ユージに銃弾を当てなかったのはそれだ! 残った一人をここに連れてきて、生きたまま殺すさまを動画に撮る……。ともかくいいか? 出るならば明るくなってからだ。夜に出るのは無謀だ!」


 ユージはそれを聞いて、四つん這いでバタバタと俺の元にやって来て足にすがった。アキラも、唇を震わせながら白骨死体の部屋に戻ってきた。


 ともかく、だ。ライフルのヤツを見張らなくてはならない。ここに戻ってくるのか? そしたら、どうにか三人がかりで捕らえる。

 となると、一階よりも二階のほうがいいだろう。二階の他の部屋にはカーテンがなかった。しかし、この白骨死体の部屋にはカーテンがある。

 俺たちは白骨死体を椅子ごと持ち上げて別の部屋に移動させ、ここで休むことにした。


 明日の移動にはどうしても休息が必要だ。二人が休んで一人が見張る。幸いにして今日は満月で、外は煌々と光に照らされていた。

 逆に電気がない中とはこんなに明るいのだと感動すら覚えるほどに。


 移動開始は朝の5時。その頃にはうっすらと明るくなっているはずだ。

 今は20時だから九時間ある。俺たちは三時間交代で見張りをすることにした。

 最初がユージで、次がアキラ。最後が俺だ。これはユージの提案だった。おそらく、俺たちがすぐには寝付けないから、怖いのを緩和出来ると思ったのだろう。本当に臆病なヤツだ。


 しかし、ユージの考えとは裏腹に、すぐにアキラは眠りに付き、俺もうとうとと仕掛けた時だった。

 ユージが俺の肩をパンパンと叩く。目を開けると、月明かりに焦ったような顔。俺は小声で囁いた。


「ライフルか?」


 しかし、その問いにユージは首を横に振り、窓を指差すだけだ。俺は、カーテンを少しだけめくって外を見た。

 そこには、のっそのっそと四つ足で歩く巨大な生物がいたのだ。

 俺はホッとしてユージのほうを見る。


「熊だよ」

「熊だって? 熊がいるのかよ!」


「そりゃいるよ。だけど熊の狙いは俺たちじゃない。さっき逃げ回ってた時に分かったんだが、この集落は昔畑作をやっていた。その跡は回りにたくさんあった。草だらけだったけどな。それでも、トウキビやカボチャやナスなんかの生き残りがあったよ。熊の目的はそれだろう。悪いけど、俺は寝るよ」


 時計を見ると、11時少し前だった。もうすぐユージもアキラと交代だ。怖がりのコイツも寝ればなんとかなるだろう。


 俺はすぐに眠りに落ちた。そして次に起きたのはアキラに肩を叩かれたからだ。


「交代か?」

「そうだ、少し早いがな」


 時計を見ると1時45分だった。そのことにアキラは言う。


「出発前に準備もあるだろう? 荷物まとめたり、飯喰ったりな。キラも、俺たちを4時30分には起こしてくれよ」

「ん?」


「どうした?」

「名前……」


「ふ。お前も俺たちを名前で呼んでるしな。それにシリアリじゃあなんかピンとこないだろ?」

「ふふ。そーだな」


 真っ暗な俺たちしかいない、普段は無人の村。そこで俺とアキラは微笑みあった。アキラは、俺へと無事な片手を差し伸べて、立つのを補助してくれた。


「いてててて」

「大丈夫か?」


「大丈夫だ。痛いのは痛いが、弱音は吐いてられない。生きて帰らなくっちゃな」


 アキラの表情は穏やかだ。そのままアキラは言った。


「生きて帰ったらよ、俺たち友だちになろうぜ? もう悪い仕事は止めだ。泣き言を言うつもりはないが、大山に付き合わされていたんだ。大山は腕っぷしが強いしな。ユージも抜けさせるよ。そしてまともな職に就くんだ」

「そうだな。きっと出来るよ。だから、最後まで希望を捨てないで頑張るんだ。家に帰るんだと」


「おう。じゃ、俺も少し寝る」

「うん。おやすみ」


 アキラは壁に背中を預けると、少しだけ手の痛みに悶えたものの寝息をたて始めた。ユージもぐっすり眠っているようだ。


 窓の外を見る。月明かりはこの村を照らしている。広がる黒い森を。ここに、ライフルが潜んでいると考えると恐怖が襲ってくるだろう。俺は目をそらした。


 そして、二人が起きる前に少しでも準備をしなくてはならない。俺は自身のリュックを音を立てないように開けた。

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