第3話
まずい! まずい! まずい!
俺を追い掛ける三人は今度は本気だ。さっきまでは、軽い感じだったが、今度は全然違う。猛スピードで追い掛けてくる。
俺だって必死だ。ヤツらに捕まったら、改造銃で撃たれるだけじゃない。腹いせに拷問されるかもしれない。
「くそう! どこだ!」
「出てこい! クソヤロー!」
くっ! アイツら、俺を見失ったのだ。俺は木陰に隠れ、身を低くした。そして、茂みの隙間から三人を確認する。
白シャツの大男と、黄色い服のカメラは固まっている。カメラのヤツはレンズ越しに俺を探そうとしている。ズーム機能などを使っているかもしれないが、この茂みの間の俺など見つけられまい。
アロハはどこだ? 赤いアロハシャツのアイツは……。
カサ、カサ、カサ。
うっ。草を踏み締める音が近い。アロハは側にいる! その音が徐々に近づいてくる!
このままでは木の裏に隠れただけの俺など見つかってしまう。そして、俺はアロハに捕まって……。
イヤだ、そんなの。アイツらの嬲りものになりたくない。何か武器になるものは──。
落ちている木の枝?
そんなもの、すぐに折れてしまうし、ダメージだって少ない。
大きめの石?
土に埋まっているが、掘り起こしている時間などない。
そうだ、土──?
「ん?」
アロハの声だ。俺のすぐ側にいる。
「どーだ? いたかー?」
大男が、遠くから話しかけているが、それに対するアロハの回答。
「いーや。見間違いだー」
ホッ。このまま離れて行ってくれれば──。
「なんてな! 見つけたぞ!」
アロハが、俺の前に躍り出てきた! 俺はビクついたが、すぐさま手に握り締めていた土を、アロハの顔を目掛けて放る。
目潰しを食らったアロハは、大きく体勢を崩した。今だ!
俺は立ち上がる力を利用しアロハの肩を引っ掴んで、斜面に転ばすと、アロハはひっくり返って斜面を少しだけ滑った。
「あっ! いやがった!」
走り出したが、ドバンっ! と背後に改造銃の音が鳴り響く。それに身をかがめながら走る。どうやらそれは、大きく反れたようで、木を少しだけかすめただけに過ぎなかった。
そして、カメラのヤツの声がした。
「止めろ、撃つな。ユージに当たる!」
ユージとはアロハのことだろう。その言葉に甘えて、俺は高い篠の茂みへと飛び込んだ。その中をガサガサと掻き分け、振り返って連中を確認する。
カメラはアロハを助け起こし、大男は銃を前に向けて、俺の姿を探している。
俺も隠れる場所を探した。廃屋が並ぶ集落には少し遠い。
しかし、どこかに身を隠していれば、連中はどこかに行ってしまうハズだ。
俺は辺りを見回すと、日当たりの良い丘に、トタンで囲われた小屋を見つけた。
おそらくあの丘には畑でもあり、集落で住んでいた人の道具でも入れておく倉庫なのだろう。
俺は連中に見つからないように移動した。連中は、大男を先頭にして俺を探して山を下っている。
あの小屋に入りさえすれば、身も隠せるし、何か役に立つ道具があるかもしれない。
俺は見つかることなく、小屋に入り込めた。ドアなんかはない。簡素な作りではあるものの、俺はあるものを手に取った。
「あった……」
そして落ちているナタを拾って尻のベルトに差し込む。
さて、アイツらは、と。見ると、立ち止まりあちらでもない、こちらでもないとやっている。
ターン!
ターン!
ターン!
高く乾いた音──。それはヤツらの改造銃の発射音ではない。ライフル音だ。
テレビのニュースなどで猟友会が放つ、あの音。
俺は咄嗟に身をかがめる。丘の下にいる二人もそうだった。二人──。
そう、二人だった。三人のうちの一人、改造銃を持つ大男は顔を半分無くして立ち尽くしていた。
ライフルにやられたのだ!
大男は、そのうちにドタリと音を立てて地面に倒れこんだ。
「ひぃぃぃいいいーーーー!!」
二人の声。アロハとカメラは、恐怖の声を上げていた。そして、固く抱き合っている。
い、今のうちに……。いや、ダメだ。車のカギや、スマホに荷物はアイツらが持っているんだ。
ここで逃げても逃げきれない。
俺はナタを片手に丘を下り、連中の元へと向かった。出来るだけ、身を低くして、安全を確かめながら。
二人の近くに行くと、二人は半べそで腰が抜けたようになって、倒れた大男のほうを向いている。
俺はナタを片手に強く握って、大きく深呼吸し、二人のところに躍り出た。
「く、く、車のカギを返して貰おう!」
多少どもったものの言えた。二人はパニックを起こしたようになっていたが、俺の言葉に激しく頷いた。
「さ、さぁ。じゃあ早く!」
アロハは、自身のポケットに手を突っ込んで、俺の車のカギを震えながら渡してきた。俺はそれに手を伸ばしたが、アロハもカメラも、そのまま俺の手にすがって来たのだ。
「た、助けてくれ!」
「ど、どこからか、銃弾が飛んできて、大山が殺られたんだ! 頼む! 俺たちも一緒にお前の車に乗せていってくれ!」
まさか! 俺は回りを見渡した。大山とは、大男のことだろう。それが殺られたから、この二人を連れて山を下る。さっきまで俺の命を奪おうとしていた二人と……。
辺りはシーンと静まり返っていた。それに恐怖すら感じる。まるで、誰かに見られているような……。
俺はぶるりと体を揺すった。