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第2話

 俺は大急ぎで住宅の脇にある茂みへと飛び込む。男たちは陽気に十の数字をカウントダウンしていた。

 俺は追われる側、対す向こうは三人の追う側。その差は数メートルだけだ。

 ましてや、足元には落ち葉や石ころがあり、俺が動く度にガサガサ、ジャリジャリと音がする。このままではすぐに見つかってしまう!

 俺は一度だけ固く目を閉じて息を飲んだ。そして廃屋の裏手へと駆けた、その時だった。


「じゅ~う。探しにいくぞー」

「じゃ、俺はこっちから裏に回るわ」

「チッ。クモの巣、うぜぇ」


 三人の声。だが動きはゆっくりだ。今しかない。

 俺が回った廃屋は簡素な木造建築で、裏手側は雨に濡れ、腐ってボロボロだった。急いでそこを蹴破る。ボロボロと小さな虫が混じって見えたが気にしていられない。


「おーい、いたぞ。家ン中入ろうとしてる」


 見つかった! アロハのヤツだ。だがヤツは拳銃は持っていない。恐らく大男が持っているのだろう。それにカメラが付き従っているに違いない。

 アロハは、服を汚したくないようで、棒きれでクモの巣や雑草を叩いている。

 俺は急いで廃屋の中に転がり込んだ。ワッとホコリが舞い、呼吸を止めようと襲ってくるが、指で鼻を摘まみ、手でホコリを振り払いながら真っ暗な廃屋を手探りで進む。

 外からは三人が『出てこい』だの言ってるが聞いてられるか。


 なんとか目が慣れ、隙間から漏れる明かりで急勾配な階段があることが分かった。

 近くにブリキのバケツが転がっているのが見えたので、それを別な座敷の方向へと放り投げる。


 ガランガランという激しい音に反応して、外の男たちは『あっちだっ』と言って足音がそちらに向かうのが分かる。連中が単純そうでよかった。

 俺は一気に階段をかけ上り、小さな窓から外を伺うと、三人は固まってブリキのバケツが転がった壁側にいて銃を構えていた。


 ドバンっ! という音と共に壁が崩れ、家が揺れた。男たちは笑って拍手喝采だ。あの改造銃の威力はハンパない。

 三人は破れた壁を広げて廃屋に押し入ってくるようだったが、俺は二階の窓から身をのりだし、瓦を踏む音が最小限になるよう力足を入れず、そろそろと屋根をつたう。


 今度の三人の動きは早い。バタバタと床を踏む音が聞こえる。障害物の少ない板間なので機動力が増えたのだ。おそらくスマホのライトなどで暗さも関係ないのだろう。こうしてはいられない。

 俺は屋根の上から下を見た。ここから地面までだいぶ高いが下には背丈のある雑草が生い茂っている。

 ヤツらの声が聞こえる。床のホコリについた俺の足跡を見つけたようだ。それをたどって階段を上がってくる。


 スッと深呼吸をして、地面へとダイブした。着地と同時に草の上を転がり受け身を取る。案の定、雑草が衝撃を吸収してくれた。足に痛みはない。


「あっ! アイツ、下に飛び降りやがった!」


 二階から三人が顔を覗かせている。それにかまっていられない。急いで車に戻らなくては!


 いや、ダメだ! 車のカギは、大男に取られてしまったんだ。あのカギはアロハが拾っていた。


 くっ! くっ! くっ! ちくしょう! どうやって逃げればいいんだ?


 誰もいない廃村だ。二階のヤツらの声がこちらまでやすやすと聞こえる。


「面倒だ。撃っちゃえよ」

「そうだな」


 ヤバい。大男のヤツの安易な受け答え。その刹那、ドバンっ! と音が響き、俺のそばの木立が倒れた。それに応じて三人の下品な笑い声が山中に響く。


 ここにいてはダメだ! 俺は進むにはまだましであろう、廃道から身を翻して大樹が立ち並ぶ山のほうへと入った。

 三人の悔しがる声が聞こえたが、その意味は俺が生還できると言うことなのだ。


 そして、ピンと来た。大男は俺がアロハとカメラと出会った丘の上から来た。

 きっとヤツらの車はそちらの方向にあるのではないか? つまり、上だ。上のほう。


 俺は山の土を踏みしめながら上へ、上へと上り出した。




 俺の服装は、地味な黒い色で助かった。山中では見つかり難い、保護色なのだ。

 逆に、アロハは赤、カメラは黄色、大男は白シャツを着ていた。なので、遠目にヤツらがどこにいるか把握出来る。

 三人は、少しだけ離れて俺を探しているようだが、仲が良いのか本当はビビりなのか、数メートルしか離れていない。

 分散して追われたらたまったもんじゃない。一応、見つからないように距離をとりながら、連中の車を探した。


 山道の数十分は数時間ほど疲労がたまる。だが呑気に休憩などしていたら殺されてしまう。

 なんでこんな非日常的な目に合わなくてはならないのか?

 しかし、苦労は報われた。少しだけ開けたところに、大きなワゴン車を見つけた。廃車じゃない。正真正銘の動くヤツだ。趣味の悪いステッカーが貼ってある。ヤツらの車に間違いない。


 車に近づいて、ソッと覗く。そして、ホッと力が抜けた。ドアのカギをかけ忘れている。

 運転席に回り、ドアを開けた。その時!


「いたぞ!」

「おい! 俺らの車に何してる!」


 怒号に思わず躊躇してしまった。しかも目の前の現実。ドアのカギは開いていても、エンジンをかけるためのカギがついていない。これでは運転出来ない。しかも、サイドブレーキ……!


 俺は銃を構える大男から隠れるように運転席から飛び出て前に回る。

 無人の車は、俺が離れた反動でトロトロと坂を下り出した。そこには例の三人。

 トロトロと坂を下る車は、すぐに動きが早くなり、もはや人力では止められなくなっていた。

 三人は左右に飛び退いたが、車は道を離れて坂を転がり、大樹を薙ぎ倒しながら、音を立てて池か沼に落ちた、そんな音が聞こえたのだ。


「こンのヤローぉ!」

「絶対に許さねぇ!」


 俺は尻餅をついていたが、跳ね起きて転がるように、いや実際に転がりながら廃村のほうへと戻っていった。

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