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第11話

 俺はユージの頬を思い切り張り付けた。ユージはよろめいた後で頬を押さえて俺を見る。


「甘ったれるなよ! なに自暴自棄になってるんだ! 生き延びるためにここまで来たんだろう? アキラがいなきゃ何も出来ないのかよ!」


 ユージはただ呆然としていた。そりゃそうだ。まさか俺に気合いを入れられるとは思わなかったのだろう。だが俺はさらにまくし立てた。


「アキラは気の毒だったが、アキラがいなかったら、撃たれていたのはユージ、お前なんだぞ? 間接的にアキラはお前を守ってくれたんだ。アキラがお前を生かしてくれたんだと思え!」

「お、おう……」


「お前に、夢はないのか? もっとしっかりとした、人として、と言うか、生きるための活力というか、糧というか……」


 なんか言ってることがめちゃくちゃだが、ユージには響いたようで、少し照れながら話し始めた。


「……実は娘がいて、よ」

「は? 娘? 結婚してんのか?」


「いや違う。遊びの年下の女だったんだが、子どもが出来たとか言いやがってよ。めんどくせぇからトークアプリもブロックしたんだけど、人づてに女の子を産んだって聞いてよ……」

「はぁ? お前……」


 サイテーと言おうとしたが引っ込めた。ユージは話し続ける。


「で、最初はどうでも良かったんだけどよ、最近になって、ソイツのSNS見たら、ちっこい手とか足とか映っててよ。その時、初めて実感したんだ。俺、父親になったんだなぁって」

「……そうか」


「俺、ソイツに謝りたいんだ。今からじゃ遅すぎるかもしれねーけど、父親にならせて欲しいって。娘のために、働かせて欲しいってよ」

「なんだ、あるじゃないか」


「何がだよ」

「生きる意味だよ。そうやって、誰かのために、ってさ」


「ああ。うん、そうだな」


 俺たちは持ち直した。アキラには申し訳ないが、二人になって身軽になった。荷物も捨ててきたし。

 ガサガサと草を掻き分けて、励まし合いながら俺たちは車へと進み続けた。ユージが生きる意味を持てて良かった。で、なければコイツはただの腑抜けだったんだから。


「お。井戸だ。ユージ、あそこで小休止しよう」


 俺はコンクリートの筒が埋められた井戸を指差した。疲れているユージは、へたりこんで水が飲めると嬉しそうに呟いた。


 井戸には蓋がされていたが、重いものじゃない。薄っぺらい波形のトタン板だ。それに木の板と、大きめの石で重しがされていた。

 俺は近づいて蓋を剥がすと中を覗き込んだ。


「水が縁まであるぞ。口をつければ飲めそうだ。ユージ、こいよ」


 ユージは嬉しそうだったが、体力は限界のようで四つん這いになりながらやってきて、井戸を覗いた。俺もユージの隣に膝をついて、そのサポートをしてやった。


「あれ?」


 縁に手を掛けて、空井戸の底を見ているマヌケな声を上げたユージ。俺は尻からナタを抜き取って、ユージのアキレス腱辺り目掛けて振り下ろす。

 ユージは激痛に身を起こしたが、俺はそのままユージの足を抱えて立ち上がり、井戸へと落とした。


 ドサリ。


 ユージは落ちる間に身をよじったらしく、俺のほうを見上げていた。そんなユージに話しかける。


「おい、ユージ。大丈夫か?」

「う……。何が起こったんだ? 井戸に落ちちまった。全身が痛ェ」


 どうやら体を打ち付けたことで、足の痛みは良く分かってないようだ。


「ちょっと待ってろ!」


 俺は急いで斜面を掛け上る。そこはすぐ廃道になっており、廃村まで僅かに15分の距離だった。実はこの周辺をグルグル回り、集落の近くにはいたのだ。

 俺は集落に戻ると一夜を明かした家に入り込み、屋根裏に隠した機材を取り出した。

 それらを隣家の倉庫にしまっておいた一輪車に詰め込む。さらにそこに置いておいた肥料袋二袋も一緒に積んだ。


 そこから鼻歌まじりに一輪車を押しながら、井戸に戻る。そして上からユージを見下ろした。


「おいユージ。生きてるかぁ?」

「キラか。無事だ。助けてくれ」


「おう、ちょっと待ってろ」


 俺は急いで井戸の回りに骨組みを立て、ライトとカメラをユージの真上に構える。ライトを照らすとユージは眩しそうにしていた。


「ユージ。いいぞぉ。よーく見える」

「キラ……? いったい何を……」


「キラ……か。名前を聞いておかしいと思わなかったか? 尻在(しりあり)綺羅(きら)、しりありきら、しりあるきら、連続殺人犯(シリアルキラー)、みたいにたどり着かなかったのかよ」

「ま、まさか、お前──」




「ライフルはこの俺だ」




 微笑む俺の顔をユージは、戦慄した顔をしていた。しかし、まだ半信半疑といったような感じか。


「なっ……。どうして? 今まで俺たちと一緒にここまで来たんじゃないか」

「まーな。最初は慌てたよ。なんの準備もなかったしな。これは俺もここで終わりか? 何ても思ったがな。お前たちはあまりにもお粗末なヤツだったよ。だから車を落としてやった。小屋に隠したライフルで撃ち抜いてやった。さらには自作の改造銃も置き去りにするんだから甘いよ、俺がこっそり拾ったことも知らずにな。もっとも弾だけはアキラに返してやったがな」


「くっくう~~~」

「はっはっはっは。反撃される恐れがあったから、一人一人殺ってやったんだ。残ったのは一番ヘタレなお前だよ。まあ、今から撮影するから、必死で生きようともがけ。娘に会いたいだろう? さあ死ぬ気で抵抗しろよ」


 はっ。ようやくここまでたどり着けたんだから、ユージには生殺しの目にあってもらう。

 俺は持ってきた肥料袋を開けて、井戸の中に中身をぶちこむ。ユージは真っ黒い土まみれになってもがいた。


「まあまあ、それは怖くない。腐葉土と言ってホームセンターに売ってる肥料だよ。無毒なもんだ」

「ど、どうやって俺を殺す?」


 俺はもう一つの袋を開け、中身を一握り落としてやった。それにユージは悲鳴を上げた。

 そいつらはウネウネと体をくねらせ、腐葉土の中に入っていく。


「ひぃぃぃいいい!!」

「それはある外国の虫の幼虫でね、なんちゃらワームという。食欲旺盛な雑食で、なんでも食うんだ」


「ぎゃぁぁああああ!!」

「二十キロある。今撒いた腐葉土を食らい、お前の足の傷から入り込んで、やがてはお前を食らい尽くす。お前が気が狂って、骨になる一部始終を撮影させてもらうよ。はっはっはっは。はっはっはっは」





 それから数ヶ月後、俺はファーストフードで一人、食事をしていると、隣の女子高生が話しているのが気になり、聞き耳を立てた。


「ねぇ、知ってる?」

「どんな話し?」


「人が虫に食い殺される動画」

「うわぁ、気持ち悪い!」


「外国の有料チャンネルに乗せられてるみたい。バイトの歳上陰キャが教えてくれたー」

「やだ。そんなのに興味もっちゃダメだよ?」


「もちろんだよー。気持ち悪いもんね」


 まったく。呆れる。食事する店で、大きな声でまあ胸が悪くなる下品な話を。

 とは言え、ユージはよく稼いでくれた。こういう動画は女のほうがウケはいいのだが。

 ノーカットバージョンは外国の大金持ちが買ってくれた。大儲けだったよ。


 せっかくだから、ユージの娘の所在を調べて、売り上げの10パーを母親に渡してやったよ。涙流して喜んでたっけ。どこにいるか聞いてきたけど、外国で働いて、娘に金作ってると美談を言っておいたよ。

 これからもまとまった金を渡してやるつもりだ。




 さてさて、平和な日本の諸君。噂話なんて真実かどうかも分からない話に興味を持つべきじゃない。

 そのどれかは本当で、自分の日常にまで恐ろしい手が伸びてきた怖いだろう?

 それでも興味があるなら、あの廃村へおいで。取って置きの映像を見せてあげよう。もっとも演者はキミかも知れんがね。

 お読みくださりありがとうございました!

 実は殺人鬼であった主人公、というストーリーでした。彼がところどころで“ライフル”に思うところは、ユージやアキラであればこう考えるであろう、という心情だったのです。


 実は随所に彼が殺人鬼である証拠が出ております。


 第1話「慣れたとはいえ山道を歩くのは疲労がひどい」何度も廃村を行き来していたことが分かります。


 第3話「俺はあるものを手に取った。「あった……」そして落ちているナタを拾って尻のベルトに差し込む」

 “あるもの”とはライフルで、それとは別にナタも拾ってます。


 第5話「尻在綺羅」11話で自身でも語ってますが、シリアルキラーのもじりです。


 第5話「椅子に縄でくくりつけられた、女性の白骨死体があったのだ」白骨死体なら女性とは分からないハズ。それを知っているのは──。


 第6話「二人が起きる前に少しでも準備をしなくてはならない。俺は自身のリュックを音を立てないように開けた」準備とは、朝の準備もありましたが、この時点でアキラの片目を奪った罠を玄関に仕掛けたのです。実は玄関以外には罠は仕掛けておらず、こちらに誘導しております。


 第8話「俺はリュックの底のチャックを開けてあるものを取り出した。そして二人の元へと戻る」アキラのために添え木を拾うシーンです。戻って包帯を出していますが、本当はここで折り畳み式のドローンを取り出して飛ばしていたのです。


 第10話「二人が見えるくらいのところの藪に入り、ズボンの前を開けて取り出すと、木の影から狙いを付ける」これは小便と見せ掛けたトリックです。ズボンの前から取り出したのは大男から拾ってきた改造銃だったのです。



 余談ですが、作中で「葛の花はブドウの匂いがする」というところがありましたが、これは薬剤師だった従姉から聞いた話でした。今から四十年ほど前です。従姉は葛根湯の研究でもしていたのでしょう。ですが、従姉から「グレープの匂い」と聞いていたのを「グレープフルーツの匂い」と間違えて記憶しており、今回再度調べ直したという経緯がありました。あっぶねー。知ったかぶって失敗するとこだった。




 答え合わせは以上です。お疲れさまでした!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 完結、お疲れさまでした。 所々、『アレ?』と思う箇所があり……もしかしてとは思っておりましたが。 やはり、そうでしたか。 ふふふ、やはりそうでしたか。 [一言] 怖い怖い……。
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