第八話
一週間後。
今は見送りに来てくれたシャルロットと話をしていた。
「お兄様、王女殿下の誕生パーティー楽しんできてくださいね。」
「楽しめるかはわからないが、まあ少しでも時間を有効に使えるように努力しよう。」
「もう!鍛練だけじゃなくて息抜きも大事なんですよ。ね、レヴィ。」
「その通りです。しっかり息抜きもしてくださいマスター。」
5年の時間がたち以前よりも背が伸び、自分の見た目を気にするようになってきたシャルはずいぶんと可愛らしくなった。
さらに、以前はどこか遠慮気味に小さな声で話していたが今ではハキハキとしゃべるようになり、俺のことを叱ってくることがあるほどだ。
そして、レヴィアナともいつの間にか仲良くなっており愛称で呼んでいる。俺もレヴィアナを愛称で呼びたいのだが、長い間レヴィアナと呼んでいたので今さら変えることが難しい。正直、シャルが羨ましい。
そんな感じで話をしていると父がこちらに歩いてきた。そろそろ時間のようだ。
「そろそろ出発する。」
「はい。お気をつけて。」
「ああ。シャルは任せたぞ。」
俺がシャルの影に声をかけるとシャルの影が不自然に揺らめいた。その正体は俺がつい最近召喚した悪魔だ。
6年前。シャルが魔族に殺されそうになったことで俺がシャルの特殊な体質を知ることになったあの出来事。その時にシャルを襲った魔族の体を乗っ取った存在の正体はわかっておらず、また同じことが起きるかもしれないと言うことで俺がシャルの護衛として召喚した悪魔だ。
あの出来事のすぐ後に召喚してしばらくはシャルに秘密にしていたのだが、いつの間にか仲良くなっており「カルマ」という名前をつけ、名付けという特殊な契約も済ませていた。
シャルは悪魔使いの才能があるのかもしれない。
そんな悪魔の護衛をつけたシャルに見送られ俺は王都に向かった。
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鍛練ができないことに不満を募らせること一週間。やっと王都に到着した。
王女殿下の誕生パーティーが行われるのは二週間後なので、王都を囲む壁をくぐり抜けた後は王都にあるヒーヴィル家の別荘に向かった。
王都にある別荘とはいえ、公爵家のものであるため庭は広く鍛練を行うのに不足はない。
別荘に着いたので早速鍛練を始めようとすると父から声をかけられた。
「レイス。」
「‥‥なんでしょう。」
呼び止められたことに若干イラッとし、不満を抱いた声で応じると―
「お前はパーティー用の礼服を持っていなかったな。荷物を片付けたら作りに行く。用意をしておけ。」
俺を絶望のどん底に叩き落とす返答が返ってきた。
その後の二週間は鍛練などやる余裕がなかった。
礼服を作りに行くと採寸はすぐ終わったのだが、デザインについて担当者のこだわりが強く、丸二日間も説明を受けそれにうなずくという拷問を行われた。
残りの期間はパーティーで王族や他の貴族に優秀さをアピールするためにここ数年間の国の出来事を覚えさせられ、貴族に丸め込まれないための話術、パーティー中の立ち振舞いなどを仕込まれ鍛練を行う時間などなかった。
そうして不満とストレスを溜め込んだまま迎えた王女殿下の誕生パーティー当日。
礼服を身にまとった俺は父と共に王城に向かっていた。
「私たち公爵家は貴族の中で最も早く王族に挨拶をする。今回のパーティーには我が家を含めて二家しか公爵家は参加しない。だからこそなんとしてでも王女殿下に印象に残るようにしろ。王女殿下に覚えられればお前は王女殿下の婚約者になれるかもしれん。そうすれば我が家は高国で王族に次ぐ発言力を持つことができる。」
馬車の中では父がこんなことを言っていたが正直俺のストレスをさらに溜めるだけだった。
王族の婚約者?そんなものになったら国政だ、権力争いだ、暗殺だとまともな生活を遅れるかすら怪しくなるだろ。誰がそんなものになるか。ケッ。
そんなことを考えていると王城に到着した。王城の使用人たちに案内され大広間に入るとそこにはすでに多くの貴族が集まっておりそこかしこで料理を楽しみつつ話をしていた。
「私は派閥の貴族たちに会いに行く。お前は陛下の挨拶始まるまで好きにしていろ。」
父はそう言って俺を置いて貴族たちの方へ行ってしまった。
俺がどうしようかと考えていると視線を感じたのでそちらを見ると何人かの令嬢がこちらをチラチラと見ていた。
周りを見てみると他にも同じような令嬢が多くいた。
そういえば俺の外見はかなり整っていたな。身長も高く公爵家の嫡男とくれば妻の座を狙う令嬢は多いのか。
だがどの令嬢たちも俺に近づいて来ようとはしない。むしろこちらが近づくと距離を取るくらいだ。
俺の格好がおかしかったり体臭の問題かと思って確かめたが特に問題はなかった。
そうなると令嬢たちに距離を取られる理由がわからず、ただただ視線を向けられ続けることが不快に思えてきたので庭園を歩くことにした。庭園に行けば煩わしい視線もなくなるだろう。
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