第七話
父から剣術指南役を雇うという話をされてから5年が経過していた。
俺は10歳になり随分と身長が伸び、筋肉も多少ついてきた。最近では髪を伸ばし後ろで束ねるようにしている。そんな俺が今何をしているかといえばー
「フッ!」
下段から切り上げるように手に持った木剣を振り上げた。だが、振り上げる勢いを利用され木剣を巻き上げるように弾き飛ばされてしまった。直後に目の前に木剣が突きつけられた。
「今のは少し力を入れすぎでしたね、マスター。」
俺の目の前に立つメイドーーレヴィアナがそう言ってきた。
今は剣術の稽古中である。そう俺はレヴィアナから魔法だけでなく剣術も教わっているのだ。日中のそれも人目につく屋敷の庭で。
5年前に俺が父にした提案はうまくいった。元々レヴィアナは魔法、剣術ともに一流の腕前を持っており、人々の記憶も魔法により操作することができるため俺の言ったことを現実とするのに問題はなかったのだ。そうして、晴れて公爵家嫡男の剣術役となったレヴィアナから5年間、俺は指導を受けている。
「わかった。次は気をつけよう。」
「はい。ですが、本日はここまでです。旦那さまがお呼びですよ。」
レヴィアナが示す方を見ると父の側付きである執事が立っていた。こちらが気がつくと近づいてきた。
「レイス様、旦那様がお呼びです。書斎に来るようにと。」
「わかった。すぐにいく。」
剣術の稽古でかいた汗を流し、服を着替えレヴィアナを連れて父の書斎に向かった。
扉をノックするとすぐに返事が返ってきた。
「入れ。」
「失礼します。レイスです。私をお呼びということでしたがなんでしょうか?」
「近々第一王女殿下の誕生パーティーが開かれる。それにお前にも参加してもらう。」
「誕生パーティーですか。社交界デビューの前の顔合わせと他家との関わり作りが目的ということでよろしいでしょうか?」
「そうだ。」
この国では社交界デビューは13歳からとされている。
この世界では魔法の存在により寿命に関しては前世よりも長いが、魔獣や国の間で戦争が起こるため平均寿命は前世よりも短い。なので社交界デビューも比較的早いのだ。
「出発は一週間後だ。それまでに準備を終わらせておけ。」
「わかりました。」
出発が一週間後なのはここが王都から離れているからだろう。
ヒーヴィル公爵家は公爵家の中では珍しく自分の領地を中心に活動しているのだ。そのため王都での仕事があるときはそこそこの時間をかけて移動しなければならない。
そしてその時間は鍛錬を行うことはできない。今回の話は俺にとって不利益しかない。
書斎を出て自分の部屋に戻った俺はすぐにベットに倒れ込んだ。
「行きたくない。」
ついつい心の声が漏れてしまう。
王都にいって何か得られるものがあるのならいいが、得られるものなど何も無いのだ。ただただ時間だけが無駄に過ぎて俺の望みを叶えるための時間が減る。
「レヴィアナ、王都に行かなくて済むいい理由はないか?」
ベットのそばに立つレヴィアナに尋ねる。
「残念ですが今回ばかりは逃げない方がよろしいかと。」
「なぜだ。」
「今回の件には王家が関わっています。マスターは公爵家の人間なので王家の印象は強いですから今回のパーティーに出なかったとなると今後王家から目をつけられて行動がしにくくなりますよ。」
「‥‥‥チッ。」
王家が関わっておりこれからの行動も左右されるとなれば俺も無視することはできない。クソがっ。
「ですがマスター。悪いことばかりではないかと。」
「?どう言うことだ?」
「今回のパーティーは王家が主催なので、王女殿下と同い年の子息令嬢のいる貴族しか来ないとはいえ貴族が行う普通のパーティーとは比べ物にならない人数が集まります。」
「それが?」
「マスターの望みの一つを叶える助けになるかと。」
俺の望みの助けになる?パーティーが?
‥‥‥‥‥。
なるほど。
「俺のハーレムに加えるにふさわしい女が見つけられると言うことか。」
「その通りです。」
デメリットにばかり考えが傾いて気が付かなかったが確かにその通りだ。同い年の女しかいないとはいえそれだけでもかなりの数がいるだろうし、1人くらいは俺の求める女がいるはずだ。
「さすがなレヴィアナ。」
「お褒めに預かり光栄です。」
だが、一つだけ確かめておかなければならないことがある。
「レヴィアナ。」
「なんでしょう。」
「お前は俺がハーレムを増やすと言って何も感じないのか?」
「マスターの望みならば。」
「本当か?」
「‥‥‥‥‥‥‥はい。」
「本当に?」
「‥‥‥‥‥‥。」
「‥‥‥‥‥‥。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ほんの少しだけ、嫌だな、と‥‥。」
レヴィアナの目を見続けていると、レヴィアナはついに折れて小さな声ながらもはっきりと自分の気持ちを言った。
レヴィアナは顔を俯けているが耳が赤くなっているので恥ずかしがっているのが丸わかりだ。
5年前はそれまでに愛の言葉を言われたことがなかったからこその反応だったが、今のは俺に惚れているからこその反応だ。レヴィアナは俺のハーレムに加わったのと同じだ。
俺はレヴィアナに近づくと、俯いたことで髪で隠れてしまった耳を髪を耳にかけるようにして出すと口を近づけてこう言った。
「安心しろ。俺の一番はずっとお前のものだ。」
「はぅっ‥‥。」
言葉にほんの少しだけ魔力を混ぜたのだが思ったよりも効果が大きくレヴィアナは腰を抜かしてそのばにへたり込んでしまった。
レヴィアナは頬を赤く染め、涙で潤んだ瞳で俺を見上げながら言った。
「ずるいです‥‥‥ますたぁ‥‥‥。」
‥‥‥‥‥。
俺は自分の中の衝動を抑えきれず思わずレヴィアナを抱きしめてしまった。
「はぅっ‥‥。」
こんな可愛い女が一番意外になるわけないだろ‥‥‥‥。
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やっと本編を進めることができました‥‥‥。
シャルロット編は思いつきで書いたので、あんなに長くなる予定じゃなかったんですよ。
これからはプロットに忠実に書いていこうと思います。