第六話 sideシャルロット
魔族は作り直した腕をお兄様に向けて伸ばした。
『死なないことを祈る。』
魔族がそう言った瞬間ーいや、その時にはお兄様が立っていた場所はすでに黒一色となっていた。それは全て魔族の腕に繋がっていた。魔族は自分の腕を形作る黒い物体を自由に操っていたのだ。しかも操作性はかなり高いのだろう。今の速度がそれを物語っている。
「あ‥‥‥おにいさまは‥‥‥?」
「ご無事ですよ。」
画面の中の出来事に困惑している私の言葉にメイドが答えると同時に黒の中に赤色が混ざり、弾けた。
『今のは肝を冷やしたな。』
『力を抑えるのはやめるといい。次はお前が死ぬぞ。』
『俺が死ぬ前に貴様が死ぬだろうよ。創作・バフ。』
お兄様がさっきとは違う言葉を呟くと目の前に光でできた短剣が出現した。お兄様はそれを掴むと自分の心臓に突き立てた。
『気でも狂ったか?』
『そう思うのなら、貴様はモブにすらなれないな。』
胸に突き立った短剣が溶けるように消えるとそこには傷跡がなかった。短剣がなくなったお兄様は体を前に倒すと地面を強く蹴った。地面が爆ぜ、抉れる。
『近接戦はお前が不利になるとわからないのか?』
魔族は自分に向かってくるお兄様に向けて黒い物体を短剣の形にし、雨のように降らせた。お兄様は止まることなく進んでいく。時にステップで、時に加速して、殺意の雨の中を進んでいく。
それを見た魔族は短剣を作るのをやめ、右手に魔力を集め始めた。それはすぐに魔族の身長ほどの大きさになるが魔族はそれを圧縮し手のひらサイズにまで小さくしお兄様に向けてはなった。
「おにいさま!!」
画面越しにでも伝わってくる魔力のプレッシャーの大きさに私は心配から声を出した。だが、その魔力に対面しているお兄様は笑顔を浮かべていた。
『その程度かっ!!』
お兄様は自分に向かってくる魔力に自ら手を伸ばした。そして魔力が自分の手に触れると握りつぶした。
『っ!?』
魔族も予想外だったのか困惑し、隙ができた。お兄様はその隙を見逃さず鋭く拳を打ち込んだ。
『がっ!!』
魔族は顔を苦悶に歪める。
『これだけで終わると思うなよ。』
お兄様がそう呟くと同時に魔族の体から大量の血が吹き出し、はるか後方へ吹き飛んだ。お兄様は攻撃の手を緩めることなく魔法を使う。
『創作』
お兄様の周りに様々な属性の槍が作り出される。その一本一本から稲妻が走っており、限界まで魔力が込められていることがわかる。それは魔族が飛んでいった方向へと一直線に向かっていった。しばらくして周囲一帯に轟音と激しい揺れが起こった。それが魔法の威力を物語っていた。
お兄様は自分の魔法が起こしたことを気にすることなく新たに魔法を作り始めた。
『創作・圧縮』
だが、それは今までの魔法と違い一瞬で完成されなかった。膨大な、それこそ先ほど魔族が作ったものなんか比べ物にならないくらいの魔力が込められ、未だ止まる気配がない。お兄様が魔力を込めていると魔族が戻ってきた。あれだけの攻撃を受けて生ていることに私は驚くと同時に、次はないだろうと思った。なぜならー
『脇役ですらないお前はそろそろ退場の時間だ。』
お兄様が手の上に浮かべる魔力の塊を見た魔族の顔が恐怖一色に染まるのに対し、お兄様は魔族に対して興味をなくしていたからだ。あれだけ戦いを楽しんでいたお兄様が興味をなくすのなら魔族の行動が全てわかるようになってしまったと言うことなのだろう。お兄様は手の上に浮かべた魔力の塊を魔族に向かって放り投げた。
『ま、待てっ!私はーー』
眩い光が周囲一帯を包み込む。一拍遅れて鼓膜が破れるほどの轟音と皮膚を焼くほどの熱を持った熱風が爆発的に広がった。私はメイドに守られ傷を負うことはなかった。
光と音、熱風が収まり私が目を開けられるようになった時に荒れ果てた地上に立っていたのは無傷のお兄様1人だった。
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そのあとは驚くほどに何も無かった。森の深い部分だったとはいえ屋敷の近くなので誰かしら爆発の音を聞いていても不思議ではないのに不自然なほど誰も聞いていなかった。これは後から聞いた話なのだが、お兄様が魔法を放ったあの場所も特に変わりなく以前のように廃村があるだけだという。変わったことといえば屋敷の使用人の何人かが目にしていた深緑色の髪と瞳を持つメイドがいつの間にかいなくなっていたことだろうか。
それと、あの出来事の後の私とお兄様の関係についてだがー
「あの、おにいさま‥‥‥。」
「ん?シャルか。今日も一緒に寝たいのか?」
「‥‥はい。」
長く関わっていなかったために少し遠慮がちになってしまうがかなり距離が縮まっていた。それこそ頻繁に一緒に寝るくらいには。
今までこれほどまでに心を許して接することができた人はいなかった。私に関わってくる人が少なかったのもあるのだろうが、前世の記憶が警戒心を高めていたことも大きな原因だろう。だからこそ理由はどうであれ私の命を救ってくれたという事実は私にとってとても大きなことであり、それをしてくれたお兄様に心を許せたのだ。
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私が昔のことを思い出していると足音が近づいてきた。
「シャル。これから庭を散歩しようと思うのだが一緒にどうだ?」
「はい。ご一緒します。」
あの日からお兄様は私の憧れで目標だ。
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