第五話 sideシャルロット
「モブが悪役の身内に手を出したら地獄を見ることになる。常識だろう?」
そう言って現れたレイスお兄様は年齢に見合わない獰猛な笑みを浮かべた。出血によって目が霞み始めた私でもその笑みがハッキリと見え、身体中に得体の知れない恐怖が駆け巡った。
「ん〜。やってくれますね〜、坊っちゃま。まさか坊っちゃまに邪魔をされるとは思いませんでしたよ〜。」
「お前がその程度だということだよ。レヴィアナ、シャルロットは任せたぞ。」
何事もなかったかのように起き上がってきたソレに対して挑発するような言葉を放ったお兄様は私から離れていった。それと同時に身体中の痛みがだんだんと和らいでいき、視界がはっきりとした。もしかしてお兄様が治してくれたのだろうかとそちらを見るがお兄様にそんな素振りはない。私が混乱していると後ろから声をかけられた。
「シャルロット様。」
「ひゃああ!」
急いで後ろを見るとそこには長い黒髪を持つメイドがいた。
「えっ、あっ。」
「落ち着いてください、私は味方です。それよりもここを離れましょう。マスターは加減をしませんので。」
彼女が敵ではないとわかり安心できたが、すぐにマスターとは誰のことなのかどうやって現れたのかという疑問が頭の中を埋め尽くした。それに血を多く流した影響だろう。体が思うように動かない。するとー
「シャルロット様失礼します。」
メイドに体を抱え上がられた。
「きゃあっ。」
「すいません。本当に時間がありません。急がないと吹き飛びます。」
そう言ってメイドは私を抱えたまま高く飛び上がった。
「きゃあぁぁぁぁぁ!?」
瞬く間にお兄様やソレが小さくなるほどの高さに上がっていた。メイドは何もない空中に立つと私を下ろした。私もそのメイドに促されて同じように空中に足を下ろした。どういう原理なのかと私が混乱していると、地上でありえないほどの爆発が起きた。ここにいても熱風を感じる。
「上に逃げて正解でしたね。横に逃げていたら火だるまになっていました。」
「えっ。」
もう一度地上を見てみると広範囲が炎に包まれ地獄のようになっていた。その景色に私が何も言えないでいるとメイドが言った。
「地上の様子を見てみましょうか。」
メイドが空中で手を横になぐと少し透けたボードのようなものが出てきた。そこには地上の様子が映されていた。お兄様とソレは同じように向かい合っているが、その表情には明確な差があった。ソレは私を見ていた時の遊ぶような嘲るような表情ではなく、警戒の中に少しの恐怖が混ざったような表情なのに対してお兄様はー
『どうした?顔が硬いぞ。もっとリラックスするといい。』
相手を小馬鹿にし、下に見ているような表情を浮かべていた。するとソレが口を開いた。
『意外でしたよ〜。まさか坊っちゃまがこんな力を持っているなんて〜。』
『俺も意外だったな。まさかお前があの程度の攻撃で片腕が吹き飛ぶとはな。』
『っ!!』
そうソレには左手が肘から先がなかった。お兄様の言葉通りであれば先ほどの攻撃で失ったのだろう。そして私は自分の中で二つの恐怖が消えていくのを感じていた。
一つはソレいや、メイドに扮した魔族への恐怖だ。あれほどまでに圧倒的だった魔族がわずか5歳のお兄様に大きなダメージを与えられている。その事実はあれほど大きく見えていた魔族を小さくみせた。
もう一つはお兄様への恐怖だ。私がお兄様に恐怖を感じていたのはお兄様が持っている巨大な欲望の正体が分からなかったからだ。でも、戦う前にお兄様が発した言葉。そこからはっきりとは分からずともお兄様の欲望の片鱗を理解することができ、間接的でもお兄様が私をきっかけに戦っていることがわかった。だからこそ恐怖がなくなった。今では憧れすら抱いているかも知れない。私が恐れた相手を力で圧倒する姿に。そしてー
『すまないが、俺も暇ではない。そろそろ死んでもらおうか。』
どこまでも傲慢に、自分の強さを疑わない姿に。
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『創作』
お兄様が一言呟くとその周りに百や二百では収まらない数のの火球が発生した。
本来魔法は地域によっての差はあれどほとんどの場合決まった呪文を詠唱しなければ発動はしない。例え最下級の魔法であろうとも数秒の詠唱が必要になる。でもお兄様はたった一言、しかも呪文の中に入ってすらいない言葉で模倣を発動した。それがどれほど規格外のことなのかはー
『っ!?!?』
魔族の顔を見るだけでわかった。
『さあ、お前はどのくらいで死ぬかな?』
お兄様が手を振るうと周りに浮いていた火球が魔族に向けて飛んでいく。
『くっ!!』
魔族は戦斧を手に持ち直すと大きく横に振り、近くまで来ていた火球をいくつも切り裂いた。そしてその切り裂かれた火球は無数の風の刃を振りまいた。
『なっ!?』
魔族もこれを察することはできなかったのか戦斧を盾にするが防ぎきれなかった風の刃によって傷を負ってしまう。さらに振り撒かれた風の刃は別の火球をも切り裂きその数を増やしていた。それはとどまるところを知らず魔族を風の刃の檻に閉じ込めてしまった。
『その程度か?魔族よ。』
『っ!!!』
魔族は怒りでその顔を染め上げるがすぐに悔しさの滲んだ表情になる。その中には焦りの感情も現れ始めている。お兄様は魔族のその様子に気がつきー
『きつそうだな。もっと増やしてやろ。創作。』
火球をさらに生み出し魔族に向かって飛ばした。その火球も他の火球と同じく風の刃を発生させるのだろうと私が思っているとその火球は風のヤイバに触れた瞬間爆発した。連続する爆発。最初の爆発なんて比べ物にならないほどの規模になっている。
「なっ‥‥‥‥。」
「はあ‥‥‥‥‥‥‥。」
私が呆然としている横でメイドはひたいに手を当てため息を吐いていた。これを見て驚かないと言うことはこれを知っていたと言うことだろう。それはともかくー
「こ、これならおにいさまの勝ちよね‥‥?」
そうとしか思えなかった。だがメイドはー
「いえ。干渉を受けていますね。」
「え?」
映像をみると両腕を失い、身体中から激しく出血をしてどう見ても瀕死とわかる魔族が立ち上がっていた。
『まだ立つか。』
『‥‥‥‥‥‥。』
答える体力すら残っていないのか無言のままの魔族にお兄様はとどめを刺すために魔法を放った。
『創作。』
それは魔族の目の前まで飛んでいき直撃する、その直前で消えた。
『ほう。』
そして魔族が口を開いた。
『その力、もっと深くまで見せてもらおうか。』
その声はそれまでの魔族のものではなかった。もっと低くお腹の底に響くような声だった。そして、魔族の体から黒く粘り気のある何かが溢れ出し、なくなった腕を形造り出血を止めた。
『クハハッ。面白い。相手をしてやる。』
お兄様は傲慢に言い放った。
すいません。思っていた以上に筆がのってしまいこの話に収まり切りませんでした。
あと1、2話でシャルロット視点は終われるはずです‥‥。
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