第四話 sideシャルロット
「ハァ‥‥‥ハァ‥‥‥ハァ‥‥‥。」
私は必死で森の中を走っていた。どちらに行った方がいいとか、どの方向に行けば屋敷に戻れるとかそんなことを考えている余裕はなかった。ただひたすらに自分の命を脅かすソレから逃げていた。
「お嬢様〜、そんなに走られては転んでしまいますよ〜。」
ソレは私が全力で走っているにもかかわらず悠々と歩いて追いかけてくる。いや、歩いているだけではないだろう。声が遠くなって離れたと思ったらー
「お嬢様♪」
「ひっ‥‥?!」
真横に現れるのだから。
だから私は走る。ただひたすらに、道が続く方へ。
そうして走っていくと森の中のひらけた場所に出た。そこはどうやら廃村らしくいくつかの崩れたり、壊れたりした家が点々とあった。私は迷うことなくその中の一つに入った。家の中の隅に縮こまって隠れていると地面を踏む音と巨大な戦斧を引きずる音が聞こえてきた。
「お嬢様〜。どこですか〜?出て来て下さ〜い。」
「‥‥‥‥‥っ!」
「出てこないのなら、一つずつ家を壊していきますね〜。」
そんな言葉が聞こえると同時に何かが思い切り壊された音と共に激しい衝撃が伝わってきた。
「あ〜。力加減を間違えてしまいましたね〜。これじゃあお嬢様が中にいたら木っ端微塵ですね〜。」
ソレの言葉が嘘ではないことは先ほどの音と衝撃でわかる。悪寒を感じると同時に全身から冷や汗が吹き出し、体が激しく震え始めた。動悸が激しくなり、自然と呼吸音も大きくなる。
「ハァ‥‥‥ハァ‥‥‥ハァ‥‥‥ハァ‥‥‥」
また、轟音と共に激しい衝撃が伝わってきた。
「ここも、ハズレですね〜。」
その後も轟音が響き、激しい衝撃が伝わってくると、見つからなかったことへの安心感と次に見つかるかもしれないという恐怖が襲ってきた。そうして何度かソレが繰り返されるとピタと音と衝撃が止んだ。最初は何をしているのかと恐怖していたが、それが十数分も続くとこの場を去ったのではないかと考えるようになった。だから、それを確かめようと立ち上がったのと同時に私のいる場所の真横の壁が崩れた。
「残念♪私はまだいますよ。」
そう言ってソレは戦斧を大きく振るいその柄で私の体を大きく弾き飛ばした。その威力はとても強く私は家の壁を突き破り、外にまで放り出された。地面を何度かバウンドして私の体は止まった。
全身が痛い。体から血が抜けていく感覚がはっきりとわかる。視界も血で赤く染まっている。そんな視界の中でこちらに歩み寄ってくる足が見える。
「あ〜‥‥思ったよりも脆かったですね〜。もう死ぬ寸前じゃないですか。それに血も流れすぎですね〜。これじゃあそんなに量は確保できませんね〜。」
こんな状態でもソレの言っていることは聞こえる。だからこそ何を言っているのかわからなかった。これではまるで最初から私の血が目的だったように聞こえる。私は貴族令嬢ではあるが周りの人間と変わらないし、魔力の量も多くない。そんな私の血がなぜそんなにも欲しいのだろう。そんな考えが死にかけの表情に出ていたのかソレは心底驚いた表情で言った。
「あれ?もしかしてお嬢様、ご自分のこと何も知らないのですか?それは意外ですね〜。じゃあじゃあ、せっかく上質な血をいただくのですから私がお嬢様を狙った理由、教えてあげますね〜。」
ソレは実に上機嫌に話し出した。
「まず、この世界の生き物、人間や動物、植物も皆例外なく魔力を持っています〜。魔力を持たないなんてことはまずあり得ないのですよ〜。ですが、お嬢様は魔力を一切持っていません〜。それは周りからしたらかなり異端なんですよ〜。」
あぁ。今の説明で私に対する屋敷の人間の態度が冷たかった理由と私に侍女がついていない理由がわかった。
私が周りと違うから使用人は関わらず、親は私がどうなっても構わないから侍女をつけなかったのか。
私がそんなことを考えているとソレは声を大きくして話し続ける。
「ですが!そんな魔力のないお嬢様は魔力の代わりに邪力と聖力を持っているのです!これは人間には感じることのできない力で、感じ取れるのは私のような魔族か精霊なんかの特別な存在だけなんですよ〜。そして、その二つの力を持つ人間の血を飲むと私たちはさらなる力と寿命を手に入れる事ができるんですよ〜。誰だって力が欲しいし長く生きたいでしょう?私もそうなんですよ〜。これが私がお嬢様を狙った理由です〜。わかりましたか〜?」
ソレが何か話しているが私の耳にはもう入っていなかった。生き物の生きたいという欲はとても強い。自分が生きるためならば手段を選ばず、親しい人間であろうと平気で犠牲にするなんてことはザラにある。それほど強い欲を満たすことができるのが私の血であり、その血をもつ私は何の力も持たないただの幼女。こんな状況で見逃してもらえると考えるほど私の頭はお花畑ではない。つまりは、私は自分が殺されることが確定していることがわかり絶望しているのだ。だから、ソレの言葉なんて入ってこない。
「聞いてますか〜?聞いていませんね〜。じゃあ、もう話すこともないですし、抵抗する力もなさそうなのでサクッと殺させてもらいますね〜。」
そう言ってソレは戦斧を高く掲げた。
戦斧が私の頭に向かって落ちてくるのが酷くゆっくりと見えた。なんで人間はこういう瞬間だけ無駄に性能が良くなるのだろう。死ぬのなら一瞬で死にたい。わざわざ死の恐怖を引き延ばさなくってもいいだろう。そんなことを考えていると私の目の前に戦斧が来ていた。そして戦斧が私の頭に達し私の意識が消えるー
「俺の妹に手を出すとは。やってくれるじゃないか。」
ーことはなかった。
戦斧が私の頭に触れる寸前で吹き飛ばされたのだ。それをやったのは私じゃないし戦斧を振り下ろしていたソレでもない。それをやったのはこちらに悠々と歩み寄ってくるー
「モブが悪役の身内に手を出したら地獄を見ることになる。常識だろう?」
レイスお兄様だった。
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次回は戦闘シーンを書いていこうと思います。
あと、次回でシャルロット視点終わる予定です。