第十三話
その日は珍しく、朝食の席で父であるゴルド・ヒーヴィルから話しかけられた。
「レイス。朝食の後で私の書斎にこい。話がある。」
「はい。」
一瞬で気分が沈んだ。
話があるのなら顔を合わせている今この場ですればいいものをわざわざ書斎にこいと言うのだ。絶対長くなる。鍛錬をする時間が削られる。
「はあ‥‥‥‥。」
ついついため息が出てしまう。もちろん父に気づかれないようにした。気づかれたらめんどくさいことになるからな。
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朝食後、言われた通りに父の書斎に向かうと扉の前で父の専属執事が待っていた。執事は俺の姿を確認すると俺に一礼した後で扉をノックした。
「旦那様、レイス様がいらっしゃいました。」
「通せ。」
「レイス様どうぞ。」
執事が開いた扉をくぐり父の書斎に入る。
「失礼します。」
父は書類にペンを走らせながら話し始めた。
「早速だが要件を話す。お前には我が領地の視察に行ってもらう。」
「視察、ですか‥‥‥。」
実に面倒で時間がかかることを押し付けてきたな、父よ。
「そうだ。本来ならば私が行くところなのだが、急遽王都の方で仕事が入ってしまってな。」
「はい‥‥‥‥‥。」
「なので私の代理としてお前に行ってもらう。そろそろお前に後継として仕事の手伝いをさせようと思っていたのだ。ちょうどよかった。」
何も良くない。何も良くないのだよ、父よ。そしてサラッと俺にとって残酷な事実を言ったな。
まあ、それはそれとして仕事はきっちりこなそう。
「父上、質問をしてもいいでしょうか?」
「なんだ?」
「私はどれほどの範囲を視察すれば良いのでしょうか?」
「お前に視察をしてもらうのはここだ。」
「ここというと、今いるヒーヴィル領の中央都市ということでよろしいでしょうか?」
「ああ。他の都市や村落は代官や村の村長が報告書を送ってくる。私はそれを確認するだけだ。今回の視察では私がいない以上お前にも報告書を作ってもらうぞ。」
「わかりました。ではもう一つ、視察ではどう言った点を確認すればいいでしょうか?」
「住民の表情、街の雰囲気、市場の品物の質と値段などだな。普段の様子が知りたいなら資料がある。それを使え。話は以上だ。」
「失礼します。」
父の書斎を出て自室に戻っているとシャルがこちらに向かってきていた。
俺の姿を確認するとシャルは実に可愛らしい仕草でこちらに駆け寄ってきた。
「お兄様。お父様のお話は何でしたか?」
可愛らしく首を傾げながら尋ねてきた。
「俺にヒーヴィル領の中央都市の視察をするようにとのことだった。」
「お兄様すごいです!視察を任されたということはお兄様がお父様に認められたということでしょう!?」
「そうなのかもしれんな。」
シャルは目を輝かせてまるで自分のことのように喜んでいる。
俺のことでシャルが喜んでくれると、貴族としても少し頑張ってみようかと思ってしまう。
‥‥‥‥‥俺はブラコンだったりするのだろうか。
「お兄様。頑張ってくださいね。」
「ああ。」
この笑顔を向けられたら誰でも頑張れるだろう。
俺はブラコンじゃないな。
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視察を行う日が来た。
視察では馬車を使わず歩いて行うので護衛の騎士が数名ついて来ようとしたが付いて来させなかった。
俺は身分なんて気にしないので街で気に入った女がいれば口説き落とそうと思っているからだ。騎士たちは全員が貴族の家の出なので身分をやたらと気にする。俺が街の女を口説こうとすれば「平民なんぞに関わってはいけません!」とか言って俺の邪魔をするだろう。鍛錬ができないのだからせめて視察の間は自由にさせてもらう。
なので今回はレヴィアナだけ連れてきている。レヴィアナは俺の召喚した悪魔だし、屋敷では腕の立つ元冒険者となっているので護衛とすることができるからだ。
「そういえば俺が王都以外で人が大勢いる場所に行くのは初めてだったな。」
ふと思ったことを口に出した。
基本屋敷で鍛錬をしている俺は街などの人が多い場所に行くことがない。そのためこうした人々の活気は新鮮だった。
ちなみに、今の俺は王女の誕生パーティーの時のように周りの人から距離を取られてしていない。理由としては距離を取られる原因がわかったからだ。その原因は俺の異常な量の魔力だった。異常な量だったが故に漏れ出した魔力が自然と周囲を威圧し、長年近くで暮らしてきた家族やある程度の実力がある者しか近寄れなかったのだ。今は魔力のコントロールが以前よりできるようになったので問題は解決している。
「そうですね。マスターは世間一般では引きこもりと呼ばれても仕方ないくらいにお屋敷から出ていませんから。」
レヴィアナから辛辣なことを言われてしまうが、あえて聞こえていないふりをする。
そこかしこから客呼びのための声が飛び交う市場は特に活気に満ち溢れていた。多くの人々が行き交い、様々な品物を取引する場では多くの金が動く。だからこそ定期的に品物の値段を確認することは大切だ。
商売人や周りの人間に正体がバレないようにするために少しずつ買い物をしながら品物の値段を確認していると、市場の喧騒に紛れて微かに悲鳴が聞こえた気がした。
その声がしたように感じた小さな路地に入って少し進むとひらけた場所にでた。そこでは俺と同い年くらいの少女が扉の前で複数の男たちに囲まれていた。少女はこちらに気がつくと助けを求めてきた。
「た、助けてくださいっ!」
「任せろ。」
即答。
理由?その少女が美少女だからに決まってるだろ。
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