第十二話
今回の模擬戦の目的は俺がこの一年でつけた力の確認だ。そのため基本的に魔法は使用しないことにしているが例外がある。それがバフの魔法、つまりは身体強化魔法だ。
身体強化魔法が使ってもいいことになっている理由は単純、魔法の効果が身体能力の向上だけだからだ。この魔法は使う人間が正しく自分の力を理解していなければ増幅した力に振り回され普通の動きすらままならなくなる。だからこそ、この魔法を使って戦えるということは自分の力を理解しており、技の動きも覚えているということがわかるため模擬戦の目的にも合っているので使用することが可能になっている。
「さあ、続きだ。創作・バフ。」
魔法を唱え、剣を構え直す。
魔法の効果で軽くなった体を同じく魔法の効果で上がった脚力で地面を蹴りレヴィアナに向けて飛ばす。一瞬でレヴィアナに肉薄し、近づいた速度そのままに突きを放つ。
レヴィアナはそれを体を傾けることでかわし、俺の腕を狙って剣を振り上げる。
普通の状態であれば回避することも剣で防ぐこともできないが今は身体強化がある。下に剣を振り下ろすように腕を引き戻し、レヴィアナの剣を弾くと引き戻す勢いそのままに体を回転させ左足で蹴りを入れようとするがーー
「くっ!」
「なかなか腕にきますね。」
レヴィアナはそれを片腕で受けとめた。さらに腕一本で俺の左足を押し返すと同時に回し蹴りをぶち込んできた。
体勢を崩した状態では回避することも防ぐこともできずモロにくらってしまった。
レヴィアナの回し蹴りで20メートルほど飛ばされるが受け身を取り衝撃を緩和する。
次の行動に移るために顔を上げると目の前でレヴィアナが剣を振り上げていた。
「ふっ!」
横に転がることで何とか回避する。
一瞬目まで俺がいた場所はレヴィアナの剣が打ち込まれ放射状に陥没していた。
「殺す気か?レヴィアナ。」
「殺す気でやらなければ模擬戦の目的を達成できませんから。」
レヴィアナは落ち着いた声でそう答えつつ、速度をあげ激しい攻撃を続けていた。
何とか体勢を立て直すことはできたが、絶え間ない攻撃を捌くので手一杯だ。レヴィアナは身体強化をしていない素の身体能力で俺と渡り合うどころか、優位に立っている。
このままでは鍛錬の成果を確かめるどころか、情けない姿を晒すだけになる。それは俺のプライドが許さない。
「創作・バフ。」
レヴィアナの猛攻を捌きながらもう一度身体強化魔法を唱える。
身体強化魔法は使いすぎると急な強化に肉体がついていけず筋肉や骨が壊れ動くことができなくなる。だから長時間の使用や重ねがけをやることはない。ましてや体の一部に集中してかけるなんてことはもってのほかだ。
ーーだからこそ対人戦では逆転の技としてこれ以上のものはない。
重ねがけ且つ一部に集中した身体強化魔法により腕が先ほどとは比べ物にならない力と速度を出せるようになる。
その効果を存分に利用してレヴィアナの次の攻撃に合わせて剣をふる。剣と剣が衝突し一瞬の拮抗をした後一方の剣が宙を舞った。
俺の手には剣が握られている。
レヴィアナは自分の剣が弾かれたことを瞬時に理解すると蹴りを放つ構えをとった。
この距離で蹴りを避けることは無理だ。剣で迎え撃つしかないな。俺が剣を振りかぶると同時に、それは聞こえた。
「【身体強化】」
その言葉が聞こえた瞬間、反射的に振った剣から激しい衝撃が伝わってきた。
レヴィアナが身体強化魔法を使ったのだ。
「ぐぅっ!」
腕への部分強化をまだ消していなかったため何とか押し負けていないが、この状態は長くは続かないだろう。何とか打開策を‥‥そう考えた瞬間ー
「【身体強化】」
剣が吹き飛ばされ、その勢いに引っ張られる形で体勢を崩してしまった。さらに腹を衝撃が突き抜けた。
「かはっ。」
レヴィアナの蹴りだ。
その場に膝をつき崩れ落ちる。身体強化がかかった蹴りは流石にきついな。
「お兄様!」
シャルがこちらに駆け寄ってくるのが視界の端に映る。つまりはシャルがこれ以上の戦闘の続行は危険だと判断したのだろう。
「お兄様っ。大丈夫ですか?」
「ああ。多少痛みはあるが問題ない。‥‥‥模擬戦の目的はあまり果たせなかったな。」
「いいえ。しっかり果たせていますよ、マスター。」
俺の呟きが聞こえたのかそばに立つレヴィアナが否定をした。
「どういうことだ?」
「やはり気づいておられなかったのですね。」
レヴィアナが俺に回復魔法をかけながら説明を始めた。
「マスターが腕に身体強化魔法をかける前に私が行なっていた連撃は全てこの一年の鍛錬がなければ防げないものでした。少しでも動きがずれていたり、動きと動きのつながりが途切れたりすればその瞬間から防ぐことができなくなるものでした。それを特に意識することなく全て防いだのですから、マスターはこの一年の鍛錬を完璧にものにしたということです。」
「‥‥‥ク、クハハッ。」
目的は果たせていた。それに気が付かなかったのは自然とできるレベルまで引き上げ、それが自然なことになっていたから。
理解すると自分の間抜け具合と歓喜で笑い声が出てしまった。
「それにマスターは永遠を生きる悪魔の私に近しい力をすでに持っております。」
そう言ってレヴィアナが示す方を見ると、そこには俺が弾き飛ばしたレヴィアナの剣が壊れた状態で落ちていた。
「気が付かなかったな。」
「自信を持ってください、マスター。あなたはすでに力を手に入れています。」
「だが、俺が望むのはもっと上だ。」
「承知しております。これからもお手伝いさせていただきます。」
「ああ。頼む。」
「お兄様。私もお手伝いしますよ。」
「ああ。」
何となく、ひと段落ついたような気がするな。
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