第十話
「‥‥‥君は、恐いね。」
俺の目の前にいる少女はそう言った。俺が恐いと。
「何故そう思う?」
「‥‥‥自分でわからないの?」
「わからないから聞いているんだ。」
「‥‥‥ふーん。なら、教えてあげる。君は歪すぎるんだよ。」
「歪‥‥‥?」
「‥‥‥そう。君は歪。君の魔力の量、さっき君の魔力を消した時に大体の量がわかったんだけどあれは一つの魂が保有できる量を超えている。普通は体が崩壊する。」
魂が保有できる量?魔力は人間の体ではなく魂に存在するのか?
「どういうことだ。」
「‥‥‥君は知っているだろうけど魔力は自分の努力次第でその量を増やすことができる。でも、限界がある。それが魂が保有できる魔力の量ってこと。君はその限界を明らかに超えている。何十年も生きた人間なら魂の変質が起こってそういったこともあり得るけど、君は若すぎる。」
なるほど。やはり魔力という質量を持たないものでも人間が持てる量には限りがあるのか。そして俺はその限界を超えていると‥‥‥。
‥‥‥原因として考えられるのは転生か。転生した時に元々この体に宿っていた魂と俺の魂が合わさったからか、元々宿っていた魂の影響で俺の魂が変質したからか。考えても答えは出てこないな。
「それで?まだあるのだろう?」
「‥‥‥うん。君のその目。子供とは思えないくらい強い欲望で濁っている。でも、精神がその欲望に飲まれていない。君の中身がとても子供とは思えない。」
「‥‥‥‥‥。」
鋭いな。まさか目や精神で疑われるとは思っても見なかった。これからはさらに用心しなければな。
「‥‥‥君は私に『お前は何だ?』って聞いてきたけど、私も君に聞きたい。君は何なの?」
少女の紅い瞳が妖しく輝き、俺の中を深くまで覗き込んでくるような感覚を覚える。
『何だ』、か‥‥‥。今の俺は何でもない。ただのモブAいや、それ以下の存在だ。だからあえていうならー
「ーーいずれ、この世界の頂点に君臨する"悪役"だ。」
少女は紅い瞳を一瞬大きく見開くと妖しく、けれど見ているこちらもつられてしまうような笑みでこう言った。
「‥‥‥んふっ。じゃあ私と同じだね。」
「同じ‥‥‥?」
「‥‥‥私も"正義"じゃなくて"悪"になりたい。誰にも消すことのできない"悪"に。」
心臓が跳ねる。
この世界に来て初めてだ。ここまで胸が高鳴るのは。
「‥‥‥ねぇ。"正義"が"悪"に蹂躙されるのってどんなのだと思う?"正義"が"悪"に圧倒的な暴力で負けるのってどんな気持ちなのかな?"正義"が絶対に勝てない"悪"に、なりたくはない?」
「ーーなりたい。"正義"を全てを蹂躙する、"悪役"に。」
心臓が痛いくらいに跳ね回っている。顔に力が入る。
「‥‥‥なら、二人でやろう。これは、契約。契約を違えたらその瞬間から蹂躙の対象だよ。」
「ーーああ。レイス・ヒーヴィルの名にかけて。」
「‥‥‥エルリア・メイス。」
"悪"の契約はここに成立した。
========
私の誕生パーティーが終わった城内は使用人がパーティーの片付けのために動き回る音が忙しなく響いている。だが、私の私室のある階まで来ると騒がしさはなくなり静寂が空間を支配する。
私室に入り、ベッドに寝転んだ私は今日のパーティーでの貴族の挨拶を思い出す。
『まず、最初はヒーヴィル公爵家当主ゴルド・ヒーヴィル並びに次期当主レイス・ヒーヴィル。』
国王である父上の近衛騎士が挨拶をする貴族の名前を読み上げる。それに従い二人の貴族が前に出てきた。
『本日は10歳の誕生日おめでとうございます、第一王女殿下。心よりお祝い申し上げます。』
『おめでとうございます、第一王女殿下。』
『ありがとうございます。』
この先も同じような言葉を聞かされるのだ。一言で終わらせなければ気が滅入ってしまう。
すぐに次の貴族になると思ったが公爵家の当主が言葉を続けてきた。
『それにしても、王女殿下は年々美しくなりますな。ついつい見惚れてしまいます。』
『まあ、ありがとうございます。』
私はついつい悪態をつきたくなってしまうがそれをうまく内側に隠しながら無難な返事を返し続ける。
すると、公爵が何を考えたのか婚約者の話を出してきた。
『ところで、王女殿下は婚約者などはお決まりでしょうか?もし、いらっしゃらないのでしたら我が家の息子はどうでしょう?小さな頃から優秀でして殿下に釣り合うと思うのですが。』
そう言って前に一人の少年を出した。
そこで私はその少年に意識を向けた。どうせ傲慢なだけで器の小さい人間なんだろうと油断したのがいけなかった。
いつも意識的に閉じている"瞳"の一つが無理やりこじ開けられた。その瞬間、ありえない情報の量、質が頭の中に流れ込み激しい頭痛を感じた。
『っ!?!?!?!』
『殿下‥‥‥?』
『何でも‥‥ありません‥‥‥。それより、後に他の貴族の方も控えていますのでそのくらいで‥‥‥。』
『これは申し訳ありません。では私どもはこれで。』
婚約の話をうまく誤魔化し、その後の他の貴族の挨拶も行っていく中でレイス・ヒーヴィルのことが頭から離れなかった。
ベットに寝そべる私は呟く。
「今回開かれたのは『全能の瞳』だけ。もし、もう一つも開かれていたらなんて考えたくもないわね‥‥‥。」
あの少年ーーレイス・ヒーヴィルはおそらく、私の人生に大きな影響を与える。
「私はどうなるのかしら‥‥‥?」
私の口は自然と弧を描いていた。
========
ーー異分子と規格外の接触を確認。早急な対処が必要と判断。世界への干渉権の取得を開始。
この作品が面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にしてくれると嬉しいです。
作品を書く励みになります。




