第九話
庭園に出ると思った通り人がおらず気を休めることができそうだった。
「時間までここで過ごすか。」
庭園で過ごすことを決め、暇を潰すために庭園の植物でも見ようと思ったが今夜は新月なので月の光がなく何も見えない。見えるのはせいぜいパーティー会場から漏れる光で見えるわずかな数の植物だけだ。
「魔法を使って明るくすればいいのだが、ここでは些かまずいか。」
せっかく不快な視線から逃れたと言うのに魔法を使って注目を浴びては本末転倒なのでパーティー会場からもっと離れた場所に行くことにする。幸い王城の庭園はかなりの広さがあるので離れた場所で魔法を使えば気づかれることはないだろう。
指先に自分の足元を照らせる程度の光を魔法で出し、それを頼りにパーティー会場から離れていくと庭園の中に真っ白な石で作られたガゼボを見つけた。
「ちょうどいいな。ここで魔法を使うか。創作・拡散。」
魔法を使うと、あたり一面に親指の先ほどの大きさの光の玉が出現し庭園を明るく照らし出した。
魔法の出来に満足しつつガゼボの腰掛けに腰を下ろす。
庭園の植物は日中では見ることのできない幻想的な美しさを出しておりそれを見ているだけで時間の経過を忘れることができそうだった。
だからこそ、気がついたら思ったことを声に出していた。
「貴族というのは実に面倒だ。権力がなければ、見栄を張らなければこんな景色を見ることすら叶わないというのだから。」
「‥‥本当にその通り。貴族はめんどくさい。」
真横から返答が来るとは思わずに。
「っ!?」
隣の存在を認識した瞬間、俺は声のした方向とは真反対に跳んだ。
即座に臨戦体制を整え、魔力を魔法発動直前の状態まで練り上げいつでも攻撃できるようにした。
一体いつから俺の隣にいた?俺は魔力を使って常に気配探知を行なっていたはずだ。それを潜り抜けたのか? それに、目の前の存在をはっきりと認識できない。年齢はおろか性別、どのような姿形かもわからない。そこにいることはわかるのにどんな姿なのかわからない。どういうことだ?幻惑系の魔法か?
色々な考えを巡らせつつ目の前の存在を警戒しているとその存在が目の前から消えた。
「っ!!」
すぐに気配探知に回す魔力の量を上げるが何一つとして反応に引っかからない。
「くっ‥‥。」
このままではまずい。相手を認識できないのではカウンターすら狙えない。ここは一度周囲をまとめて吹き飛ばすしかない。
「創作・スプレーー」
「‥‥‥それはダメ。【霧散】」
後ろから声が聞こえ、背中に触れられる感触があると同時に俺が練り上げていた魔力と周囲に広げていた魔力が崩れて、空気に溶けていくように消えた。
魔法を消されたか‥‥‥っ。だが、体内の魔力を練り上げればーー
「なっ‥‥‥。」
魔力がない‥‥‥。一切魔力がない。体が重い。動くのが億劫だ。周りの景色が急にわからなくなってきた。なんだこれは。まずい。早く立たなければ。早く反撃を‥‥‥‥。
「‥‥‥少し、休んだ方がいいね。君は。おやすみ。」
薄れゆく意識の中、最後に見えたのは二つの紅い瞳だった。
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目が覚める。まだ意識がはっきりとしないが自分が植物の上に横になっていることは感触で分かった。
「‥‥‥あ。起きた?」
気だるい身体を起こし、声のした方向を見るとはっきりと認識はできないがさっきと同じ存在がいることはわかった。
「お前は、何だ?」
「‥‥‥‥‥‥‥。」
「おい。」
「‥‥‥びっくり。」
目の前の存在への問いかけを無視されたと思いもう一度声をかけると驚いたような声が返ってきた。
「何がだ?」
「‥‥‥さっきはあんなに警戒して殺意も凄かったのに、今はそれが微塵もない。その年齢で何でそこまで状況を正しく理解できる‥‥?」
「ある程度の力を持っていれば誰でもわかるだろう。全力でお前の気配を探ったのに見つけられないどころか背後に回られて魔力を全て消されたんだぞ。何をしても勝ち目はない。」
目の前の存在は俺よりも遥かに強い。
今の俺はこの国でもトップレベルの実力を持っている。さらにレヴィアナから教えてもらった悪魔の魔法理論によって普通の人間が知り得ない知識も多く持っている。それなのに完膚なきまでに負けたのだ。抵抗しようという気すら起きない。
「それで、さっきの質問に答えろ。お前は何だ?」
「‥‥‥何者、ではなく?」
「ハッ。あの技術は並の人間が使えるものではない。その時点でお前が人間では無い可能性があるだろう?」
「‥‥‥‥‥‥‥。」
「それともなんだ。お前は自分が人間だとでもいうのか?」
何も答えない目の前の存在に対して挑発するような言葉を投げかけると目の前の存在はこちらにゆっくりと近づいてきた。地面に座り込む俺の前で膝を折ると言った。
「‥‥‥それは、乙女に対して失礼。でも、面白いね。君。【霧散】」
目の前の存在が俺の魔力を消した時と同じ言葉を口にすると魔力が散り始めた。だんだんと目の前の存在を認識できるようになってくる。
長く、背中まで伸びた銀髪。俺とそう変わらない身長。幼いながらもどこか妖艶さの漂う容姿。極め付けは両の瞳に輝く紅。俺が相対していたのは同じくらいの年齢の少女だった。
「‥‥‥君は、恐いね。」
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