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幻葬 あやかし鬼奇譚  作者: 和菜
四章
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末路

 

 卑劣にして残忍。


 だが、妖を前にそんな言葉は無意味でしかない。


「よもや、あの鬼がああもあっさり村人達を心酔させようとは、流石にこちらとしても予想外だった」


 その口振りに、あの時から小田原側は村を監視していたのだと悟る。


「仕方がないので作戦を変更した。今度こそ確実に、お前達を葬る為に準備させておいた策だ」


「それが、あの封じ込めの陣と……銀次達の殺害か」


 応、という答えの代わりに、東秀の笑みが深くなる。


「あの三人にこう問うた。“村で一番信頼の厚い者は誰か”と。そうしたら、奴等は銀次の名を出した。村の親父的存在だ、と」


 神楽は意図せず眉を顰める。

 彼のこれまでの説明で、今回の全容が見えた。


「銀次は三人に不信感を抱いていたようだったから、儂が使いを寄越した。父の病を治せる薬を提供する代わりに、神楽とかいう女妖怪か、傍らの男を誘き出せと」


 ――鼓動が、ここへ来て速く、重く刻み始める。


 怒りか、憎しみか、殺意か。

 それとも、哀れみか。


「銀次とやらは見事にこちらの手の平で踊ってくれたよ。結果、我が領内から妖怪と病を取り払う為の尊い犠牲となってくれた」


 神楽は、静かに、けれど少しずつ、妖力を、妖気を、解放し始める。


「今頃は、権蔵らの手によって、奴等の亡骸は鬼神村に運ばれた頃だろう」


「……あの三人に、銀次達を殺したのは私だ、と村に吹聴するよう命じたか」


「そうだ。死人に口なし。殺された者に自分を殺した者の名を言わせることは出来ん。不安を煽らせ、あわよくば村人達が決起し、お前や名無しの男を探し出して殺すべく立ち上がれば、たちまち鬼神村も焔獄鬼の山も戦場と化す――というのが、権蔵ら三人に告げた作戦だ」


 東秀はにやり、半ば不気味に笑んだ。


「三人を嵌めたな」


 静かに神楽が言えば、東秀はいっそ誇らしげに刀を担ぐように持ち直す。


「貴様は、私達二人と焔獄鬼は勿論、あの三人も生かしておくつもりはない……そうだな」


「最初に言ったろう。儂の目的は、妖怪共とお前達、そして、鬼神村の殲滅だ、と」


 挑発するように、東秀は刀の峰でとんとんと自身の肩を叩く。


「戦が始まれば、隙を見て村から逃げ出し、我が城へ参れ、と伝えておいたが、無論それは敵わん。何故なら、奴等は我が兵によって行く手を阻まれる」


「……国の為、と言いながら、行いは卑劣、且つ下劣の極みだな」


「何とでも言え。戦術など所詮、如何に相手を巧妙に騙し討てるかという策略だ」


 東秀は刀を下ろすと、切っ先を再び神楽に向ける。


「先程報せが参った。殲滅戦が開始された、と」


「………」


「皆殺しだ。鬼も妖も、人間達も。我が武力を総動員して、小田原より災いの根を絶つ」


 向けられた切っ先が、神楽の着物の合わせ部分に差し込まれる。


「村の奴等は今頃絶望していることだろう。何せ、信じていた救世主の如き貴様は我が手中に、もう一人の男は死んだのだからな」


 目を閉じて――否、そんなことをしなくても、絶望と恐怖に呑み込まれながら凶刃に斃れていく、琴達の姿が脳裏に浮かんだ。


「さぞや村の奴等は貴様を恨むだろうな。村に救いの手を差し伸べてくれた女神は、いざという時に助けに来てくれないばかりか――“敵の手中にある”のだからな」


 ……恐らくはそれも作戦の内、だろう。


 神楽か名無しの男の名を必死に呼びながら、助けてと泣き叫びながら逃げる村人達に、兵士達にこう言えと命じてあるのだ。


『神楽は今、我等が御館様の元だ』と。


 捕らえられた、とは言うな、とも言ってあるかもしれない。


 何にせよ、どうとも取れる言葉でありながら、どう取れば良いか咄嗟に判断し辛いその一言は、混乱し、錯乱する村人達の絶望を煽るには、もってこいだ。


「……あの男は、貴様等如きには殺せない」


「ほう? 不死身の女妖怪も妄言を吐くのだな。奴は我が部下が確かに殺したぞ。小田原家に代々伝わる、妖怪退治用の大槍で貫かれて、な」


 ――そろそろ、いいだろう。


 神楽は、思う。


 思って、ゆらり、立ち上がる。

 東秀は流石に少々怪訝な顔になった、けれど。


 次の瞬間。


 ――ばりん!!


「な……っ」


 神楽を拘束していた手足の鎖が、一瞬で砕け散った。


 東秀の不敵な笑みは消え、顔が真っ青になる程狼狽える。


 神楽の体を淡く怪しい妖気の光が包み込んでいる。


 彼女は一つ息を零すと、右手を真横に水平に持ち上げて、ひゅん! と払う。


 瞬間。牢に施されていた妖力封じの術が弾き飛ばされ、更には城主の持つ刀や、控えていた兵士達の刀さえも粉砕された。


「ば、馬鹿な……!」


「――驕ったな、愚かな人間共。貴様等人間が、たかだか数十年修行して完成させた程度の術で、この私をどうこう出来ると思ったか」


 確かに僅かに封じ込められてはいたが、それでも神楽の力を抑え込むには全く不十分な力だった。


 その僅かに抑え込まれていた力も戻って、神楽は更に妖力を高めていく。


「くっ……」


 狼狽しつつもすぐに持ち直した東秀は、残った脇差を素早く抜いて、神楽に襲い掛かる。


 が、無論、この男に、神楽を傷付ける力などある訳もなく。


 神楽は、東秀が刀を振り下ろすより先に、彼との距離を素早く詰めて、その首を片手で鷲掴みにした。


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