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幻葬 あやかし鬼奇譚  作者: 和菜
四章
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大義という名の陰謀


「うあぁああああぁあ!! やめろ!! やめろ……!! 離せえぇえぇえええ!!」


 地下牢全体に響き渡る悲鳴。


 ただ噛み付かれただけ、の筈の男の手は、神楽を振り払うどころか、どんどん彼女の歯が皮膚に、肉に喰い込んでいって。


 やがて、男の手の肉を、そのまま喰い千切った。


「ああぁぁあぁああああ!!」


 男は手を押さえながらその場で悶え、蹲る。


 神楽は喰い千切った男の手の肉を、ぺっ! と文字通り吐き捨てて、拘束されたまま、ゆらりと立ち上がった。


 体全体ではなく、手足のみの拘束に留まらせたのは、小田原の失態だった。


 神楽は、痛いと泣き喚く兵士にゆっくりと近付き――


「っ、ぎゃあぁぁああああああ!!」


 自身が食い破った彼の手の平を、足蹴にした。


 これには傍らの男も堪らず悲鳴を上げて、後退った。


 非情で残忍な仕返しをする神楽の目は、同じくらい非情で残忍、そして冷酷で。


 そのまま、神楽は傍らの、もう一人の男を見遣る。


「――屑共が。とっとと失せろ」


 そうして、彼女は転がる兵士を蹴り飛ばす。


 無事だった男は情けない悲鳴を上げながら、倒れた兵士を担いで逃げるように去って行った。


 更に、それから少し時間が経った。


 何か目的があって拉致したのであろうにも関わらず、先の下衆な見張り達以外、来訪者はない。


 ――どうにも、悪い予感しかしない。


 捕まる直前、死んだ銀次と銀次の父、そして、死に掛けていた名無しの男。


 まさか名無しの男が銀次達を殺す訳がないし、銀次達が名無しの男を傷付けられる筈がない。


 何かが起こっている。鬼神村に。名無しの男に。そして恐らく、焔獄鬼にも。


 事態の把握が敵わない今、神楽は意図せず焦りを禁じ得なかった。


 目的があるのならそれを聞いてからと思ったが、やはりここはそんな悠長な事を言っている場合ではないだろう。


 体の痺れはとうに消えている。

 脱出するなら早い方がいい。


 そう思った神楽が、再び自身の妖気を高めて、妖力を集中させ始めた、その時。


 誰かが近付いて来る足音が響いた。


「――ようこそ、我が城へ」


 上質な絹の着物、何処までも不敵で勝気な笑み、腰には大小の刀と、後ろに控える明らかに腕の立つ兵士二人。


 考えるまでもなく分かった。


 彼こそが、小田原家が城主その人である、と。


 彼、小田原東秀は背後の兵士に目配せして、牢の鍵を開けさせた。


 すると東秀は、自身の腰の刀を抜きながら牢内に入り……瞬間、神楽の心の臓を突き刺した。


「っ!」


 神楽が呻き声を上げると、東秀は刀を引き抜く。


 大量の血液と共に体の力が抜けて、神楽はその場に倒れ込む。


 明らかな致命傷、明らかに即死。だが、その傷は、いつも通り、みるみるうちに時を巻き戻すように塞がり、消えた。


「……部下からの報告はまことであったか。貴様が、妖の心の臓を喰って不死の妖怪と堕ちた女である、と」


「……だったら何だ」


「気に入った。どうだ、我が小田原に仕える気はないか? 望むならいくらでも贅沢をさせてやるぞ」


 いきなり斬り掛かって来た挙句、何を言い出すかと思えば。

 神楽は内心呆れ果てつつ、身を起こす。


「その役目の名は戦場での貴様の盾、か?」


「………」


 吐き捨てれば、東秀は鼻で笑う。

 こういう輩の考えそうな事である。


「……一つ、問おう。鬼神村の銀次と、その父を殺したのはお前達か?」


 短いやり取りと置かれた状況から導き出された仮説。

 だが、東秀の不敵な笑みがより濃くなったのを見て、神楽はそれこそが答えなのだと確信する。


「では……数日前、村の子供を浚おうとしたのもお前達だな。一体何が目的だ」


 重ねて問えば、東秀は刀を顔の前に持ち上げた。


「知れた事。目的は、貴様等悪しき妖怪共の殲滅。そして、妖怪共に迎合した罪深き鬼神村の殲滅だ」


「……仮にも自国の民を、病に冒され苦しんでいた者達を、女子供とて情け容赦なく殺す、と?」


「当然だ。妖に心奪われるなら人間としての大罪。城主として罰するは至極当然。病に冒され明日をも知れぬ命というなら、その病の更なる流行を防ぐ為に犠牲を強いる。それもまた、城主としての当然の決断だ」


 表情は笑んでいたが、目は笑っていなかった。


 愉しんでいる、という訳でもないが、そこに罪悪感や微かな躊躇は一切ない。


 城主として、その決断を心底誇っている、という風だった。


「村の子供を浚おうとした理由は」


「あれは予定にはなかったが、儂の優秀な家臣が思わぬ鴨を見付けてな。急遽実行に移した作戦だった」


「……権蔵と善吉、林助の三人か」


「ほう、気付いておったか。奴等は揃ってお前達への不信感を募らせていた。妖怪であるが故に、どうしても信用出来ぬ、と。なかなかどうして賢い奴等だ」


 賢いも何も、人間にとってそれは当然の感情。


 神楽自身、彼等の不信感は気付いていたし、それについてどうこう思う所は何もなかったけれど。


「三人を唆して、霞を連れ出させたのか」


「ああ。最初は渋っていたが、“鬼神村を守る為だ”と繰り返し説いたら覚悟を決めてくれたそうだ。まあ、結局は失敗に終わったが。もう少し肝の座った兵を送り込むべきだったと後悔しておるよ」


「殺すつもりだったのか」


「ああ。殺した後、臓物を撒き散らしておくよう命じた。子供の惨殺死体が見付かれば、妖達への恐怖が心の奥底にある村の人間達は、すぐにお前達や鬼達を疑い、恐れる。そうなれば、後はあの三人が村人達を焚き付ければ、退治とまではいかずとも、お前達二人を追い出すくらいのことは出来よう。結果としては裏目に出たがな」


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