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幻葬 あやかし鬼奇譚  作者: 和菜
四章
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仄暗い心

 

 静かなる問い掛けに、即答で反論出来る者はない。


 ――死人に口なし。


 本当に銀次達を殺したのは神楽なのか否かを証言してくれる者はなく、当の神楽達も見付からない今、権蔵達が村人達の不安を煽り、煽動するのはあまりに容易かった。


 村を再生に導いてくれたのは紛れもなく神楽で、だが、銀次達を殺したのも神楽で。


 人と見分けが付かない妖怪は、それ故に人間を油断させて喰い殺すのが得意だという。


 動揺と不信感は、瞬く間に村人達に広がり、皆不安げな目で互いを見つめ合う。


「っ、皆、落ち着いて!」


 そんな中、琴と菖蒲だけは必死に、懸命に皆を宥めようとしていた。


「今のこの状況じゃ、銀次さん達に何があったのか、正確には分からないわ! とにかく今は、やるべきことをやりましょう!」


「そうよ! たとえ本当に神楽様が銀次さんを殺したんだとしても、彼女達が私達を助けてくれたのも事実でしょう!?」


 琴と菖蒲の叫びに、村人達は余計に戸惑う。


 今目の前に広がる事実、これまで見て来た事実。


 その全てが、村人達をただただ困惑させていた。


「……俺達の言う事が信用出来ないってのか?」


 権蔵が酷く冷たい声音で琴に言う。

 脅しにも似ていたが、琴は怯まなかった。


「……そうは言っていません。でも、神楽様達がいなかったら、私達はとっくに滅びていた。それも事実です。ですから私は、私自身の目で本当の事を確かめたいんです」


「どうやって確かめる」


「神楽様と名無しさんを探します」


「それは、捜索する奴等に殺されに行けと命じる、ってことか?」


 鼻で笑う権蔵に、村の男達が一瞬びくりと肩を震わせた。


「……権さん。私は別に貴方の言葉を信用してない訳ではないけど、貴方と神楽様が並んで全く違う台詞を言ったとしたら、私は神楽様を信じます」


「……あぁ?」


「貴方が神楽様を信用出来ない気持ちも分かるし、神楽様自身、貴方方の無礼なんて気にも留めてなかった。でも……長老の娘として言わせて貰えば、貴方方の言動は村の恥を晒す恩知らずの如き所業です」


 琴の言葉に、村人達は違う意味で絶句した。


 普段は控えめな性格の琴が、ここへ来て感情を露わにしつつも毅然とした態度を取り、子供の頃からそれなりに世話になった相手に対して、恥晒しとまで言い放った。


 それくらい、神楽に対する彼等の態度が腹に据えかねていたのだろう。


 言っても神楽も名無しの男も妖怪。いち人間の心情として、どうしても信用出来ない気持ちは理解する。


 それでも、あまりに無礼が過ぎる、と。


 長老の娘として、今、この場を取り纏める者として、彼女は揺るがなかった。


「銀次さん達と何があったのか。それは、神楽様達を探し出して、直接訊きます」


「……小娘が。お前こそ長老の娘として無責任だぞ。見つけ出して、その瞬間全員殺されたらどう責任を取る?」


「だったら今すぐ逃げればいいでしょ。貴方達も、他の、神楽様達を信じられなくなった人達も。いいですよ。止める権利なんてそれこそ私にはないですから。寧ろ私一人が死ぬならそれで責任を取れますよね」


 話は終わりだとばかりにくるりと権蔵達に背を向ける琴に、権蔵達も村人達も唖然とした。


 この娘は、いつの間にこんなに強く逞しくなったのだろう。


 優しく気立ての良い長老の娘は、今や村を守り、いざという時に全ての責を負う覚悟さえ決めて、村の為、恩義の為に、自分に出来る事をやるのだという強い意志で立てる、そんな立派な人間に成長していた。


 彼女の子供の頃を知る村人達は、彼女のその姿を見た瞬間、感じていた恐怖がどうでも良くなった。


 女達は当初の指示通りに病人の元に向かい、男達は捜索の為の準備を始める。


 ――たとえば、神楽達を見付けて、その場で彼女達に殺されるようなことがあったとしても。


 きっと、後悔しない。


 彼女達を信じて良かった、と思える瞬間がいくつもあった。


 確かに自分達は彼女達に救われた。


 そんな清々しい気持ちが、誰もの心の中で沸々と込み上げていた。


 村人達のそんな様子を、権蔵達は苛立った目で見つめる。


 ――だが。


「――かかれぇ!!」


 その、苛立った目は、突如響いた号令と共に、不敵な笑みに変わった。



 □□□



 地下牢の最奥。


 じめじめと湿っぽいそこには、厳しい拷問の末に命を落としたのであろう囚人達の怨念が、そこかしこにこびり付いていた。


 神楽は、妖力封じが施された鎖で両手両足を縛られ、鉄扇も取り上げられた。


 鎖だけでなくこの牢全体に封じ込めの術が施されていた。


 地下牢だけでなく、外の様子を何とか探れないかと妖気を集中させたが、靄がかかったように何も分からず、挙句少々気分が悪くなった。


 ここへ連れて来られてどれ程の時間が経ったのかは分からないが、体感として、決して短くはないだろう。


 その間に来訪者は二人。

 見るからに下っ端の見張りだった。


 先の鬼神村襲撃の際、出兵した者だろう。

 あの時はよくもやってくれたな、とか、兵長の敵だとか喚きながら、神楽に暴行を加え、最後には下卑た笑みを浮かべて凌辱しようとして来た。


 不死身なら、どんだけ相手しても疲れないし、孕んだりもしないんだろう? などと言って。


 片方の男が、外の見張りも連れて来い、ともう片方に興奮した声で言いながら、神楽の胸元に手を這わせた、瞬間。


 見張りの男は、断末魔の悲鳴を上げた。


 伸ばされた男の手に、神楽が思い切り噛み付いたのだ。


 それだけならばまだ男にも振り払ったり抵抗したりする術があったかもしれなかったが、噛み付かれた男だけでなく、もう一人の見張りも絶句して身動きが取れなくなった。


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