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幻葬 あやかし鬼奇譚  作者: 和菜
四章
50/61

破滅の足音


 □□□



「――おい、いたか!?」


「何処にも見当たらないよ……! 一体何処に……っ」


 鬼神村は混乱の渦中にあった。


 診療所となっている長老宅、その一番奥の部屋で寝たきりとなっていた筈の銀次の父が忽然と消え、息子の銀次の姿も消え、更には神楽や名無しの男の姿までない。


 四人が一度に居なくなり、それも誰一人として戻らぬというこの事態に、村人達は狼狽を禁じ得ない。


 更に悪い事に、容体が急変した患者も出て来てしまって、対処の出来ない村人達は苦しむ彼等を前にただ狼狽えるしかなく、村は半ば一瞬で騒然となった。


「琴、今朝は確かに皆居たんだよな?」


「ええ……神楽様も名無しさんも、間違いなく。銀次さんもいつもと同じ時刻にうちを訪ねて来られました」


「どうなってんだよ……銀次まで誰にも何も言わずにいなくなっちまうなんて……」


 頼りにしていた人物全てが一斉に消えたことで、村には動揺と不安が瞬く間に広がっていく。


 こんな時、纏め役にと皆が望むのは、長老の実子である琴である。


 案の定村人達は琴の元に自然と集まり、不安げな顔で頻りに「どうしよう」と繰り返していた。


 琴も琴で、仮にも長老の娘である。

 内心、皆と同じかそれ以上に動揺はしていたが、とにかく冷静にならねばと自身を必死に奮い立たせていた。


「……とにかく今は一旦落ち着きましょう。ここで混乱して下手な行動をしては、今度こそ鬼神様や他の妖達のお怒りを買う事態を引き起こし兼ねません」


 微かに声を震わせつつも、琴が懸命に、冷静に言えば、村人達も少しは落ち着いた。


「日が暮れるギリギリまで森を探してみましょう。動物達や妖達に危害を加えるようなことがなければ、鬼神様は許して下さいます。病人は私と菖蒲ちゃんで診ます」


「……分かった」


「菖蒲ちゃん。万草、まだ残ってる?」


「うん。そんなに多くはないけど……」


「容態を確かめて、切迫した状態にある人にだけ使いましょう。他の女衆の皆さんは、今ある草で出来る限りの薬草を作って貰えますか?」


『はい』


 琴の懸命さに打たれて、村人達は各々頷き合い、琴の指示通りに散る。


 昔の彼等ならばただただ絶望し、簡単に諦めていただろう。


 正直、気休めだということは分かっていた。


 琴は神楽から少々医術を教えて貰ったが、重症な患者を治療するまでの腕はない。

 万草を飲ませたところで、ほんの少し生きる時間を延ばすだけ。


 それでも、琴は、村人達は、無駄だとは一言も言おうとしなかった。


 各自、琴の指示通りに行動に移し、互いに励まし合い、意見をし合い、治療と捜索に向かう。


 ――だが、そんな彼等の決意と闘志は、呆気なく打ち破られようとしていた。


「おーい!!」


 不意に、遠くから三人の男達の声が響いた。

 振り向けば、権蔵、林助、善吉の三人が、酷く慌てた様子で駆け寄って来るのが見える。


 林助と権蔵は、肩に何かを担いでいた。

 琴を始め、村人達が迎えるように三人に駆け寄る。


「どうしたんだ、そんな血相を変えて。ていうかそいつらは……?」


 林助と権蔵が担いでいたのは、二人の人間だった。


 権蔵達は怒りと絶望が入り混じったような顔で、そっとその二人を地面に下ろし――瞬間、村人達は絶句した。


 それは、銀次とその父親の、無残な亡骸だった。


「銀次さん……! そんな、どうして……っ!」


 女達は口元を手で覆い、悲痛な声を上げる。


「おい、嘘だろ……銀次……銀次!!」


「どういう事だよ! 一体何があったんだ!!」


 男達は友の無残な姿に激しく動揺し、怒りのままに権蔵達に詰め寄る。


 そうして権蔵達の口から聞かされた言葉は。


「――神楽と、名無しの男にやられたんだ」


 そんな……到底、信じ難いものだった。

 村人達は権蔵達が何を言っているのか、咄嗟に理解が出来ず、言葉を返せない。


「何を、言ってるんですか、権さん……いい加減にして下さいよ」


 只でさえ緊急事態に陥っているのに、ここへ来てとんでもない事を言い出す権蔵達に、琴はもはや怒りさえ込み上げる。


「嘘や冗談でこんな事言うか! こいつらの最期を看取ったのは俺達なんだぞ!」


 だが、琴の怒りを更に怒りでぶつけて、権蔵は声を荒げる。


「銀次の奴が、息を引き取る寸前に言ったんだ。神楽と名無しにやられた、って」


「嘘……」


「現に今、神楽も名無しも行方が分からねえんだろう?」


 言ったのは林助だった。


「きっと、病を治せる薬草が見付かったとか、気分転換に外に行こうとか上手い事言って銀次達を連れ出して、人気(ひとけ)のない所でいきなり襲ったんだ。とんだ卑怯者共だ」


「待ってよ。どうしてそんな回りくどい事する必要があるの? あの人達なら、そんな面倒な事しなくても私達を皆殺しにする事なんて、簡単じゃない」


 くだらない言い掛かりだ、と言わんばかりに林助の言葉に食って掛かったのは菖蒲だった。


「それが妖怪のやり方なんだよ」


 すると、今度は善吉が吐き捨てる。


「知ってるか? 人間と見分けが付かない妖怪ってのは、そうやって人間を油断させて襲うのが常套手段なんだってよ。きっと奴等も、俺等を油断させておいて、頃合いを見て襲うつもりだったんだ」


「多分、俺等三人が奴等の事を疑い出したから、逆にここいらが好機と思ったのかもな」


 権蔵もまた、憎悪と怒りの声で吐き捨てて、集まった村人達を見回す。


「お前等、こんな事されてまだあいつらの事信用するのか?」


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