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幻葬 あやかし鬼奇譚  作者: 和菜
二章
17/61

本当の力

 

 狼達は一斉に神楽との距離を詰めて、飛び掛かる。


 神楽の挑発が効いたのか、この間よりずっと速い。


 しかし神楽は、狼達が跳んだ瞬間、妖力で竜巻を生み出して狼達を吹き飛ばす。

 直後に更に三匹、今度は左右と後ろから時間差で襲い掛かって来る。


 右舷からの狼の狙いは鉄扇を握る腕、左舷は首元、背後からの狼は足。

 それぞれの狙いを的確に、正確に読んだ神楽は、まず、右舷からの狼に狙いを定める。


 身を低くして、下から掬い上げるように鉄扇を振るい、右舷の狼の腹を裂く。


 次いで、後方。


 狼の腹を裂いた鉄扇を、そのまま振り向きざまに横薙ぎに一閃、直接鉄扇が触れる程の距離には到達していなかったが、鉄扇に纏わせた妖力が衝撃波として放たれ、それは狼の前脚を切り裂いた。


 後方からの狼を退けた直後、左舷からの狼が飛び掛かる。


 僅かだが、彼の狼の攻撃の方が先に届く。


 半ば直感でそう悟った神楽は、ほんの微か身を捩らせつつ、鉄扇を左手に素早く持ち替えて、右腕を顔の前に突き出す。


「っ、……」


 首元に喰らい付く筈だった狼は、勢いを殺せぬまま神楽の右腕に喰らい付いた。


 瞬間、狼の赤い目が嘲笑に歪んだように見えた。


 しかし()の狼は分かっていない。


 神楽のこの行動は、防衛本能から来た咄嗟の行動などではなく。

 彼の狼の動きを封じただけ、だという事を。


「――捕らえたぞ」


「……!!」


 微かに、嘲りの声音を滲ませて、神楽が囁いた、刹那。

 彼の狼の首と胴体が真っ二つに絶たれた。


 八匹。


 このほんの僅かな間に、八匹の狼が退けられた。しかも、うち三匹はたった一閃の下に命を絶たれた。


 目の前に広がったその事実に、狼達は完全に動揺していた。


「貴様……!!」


 狼の長が更に殺意を膨れ上がらせながら呻く。


「……驕ったな、誇り高き狼達よ。以前はお前達と戦う必要がなかったから戦わなかっただけの事。今は、お前達を斃さねばこの中に入れぬというのなら、私は容赦なくお前達の命を一つ残らず刈り取るまで」


「おのれ……っ、やはり貴様、焔獄鬼の首が目的か!!」


 再び咆哮を上げて、狼の長自ら神楽に向かって突進して来る。


 今までの狼達よりも、以前の彼の狼よりもずっと速いが、動きは直線的で神楽の目でも追える程度ではあった。


 神楽は冷静に鉄扇を構え直す。

 飛び掛かって来た狼の長目掛けて鉄扇を振り、衝撃波を放つ。


 しかし狼の長は、それを難なく躱してみせた。


 跳んだ後空中で身を回し、更に手近な木の枝を伝い、神楽の周りをぐるぐると素早く回る。

 神楽の目を眩まそうとしているのだろう。


 並みの人間や妖がやっても何ら動じることはないが、足の速い狼にやられている上、移動していく程に速度も上がって行っているので、流石に目が追い付かなくなって来る。


 来る、と思ったのは直感と本能だった。


 その直感は当たり、狼の長は咆哮を上げながら頭上から大きく口を開けて迫って来る。


 当然ながら、一番の速度だった。

 攻撃が来ると分かっていたのに、神楽は咄嗟に対応が出来ず、鉄扇を体の前に構えて防御するのがやっとだった。


 獣の身でありながら、彼の狼は飛び付いた勢いだけで神楽の体を押し出し、鳥居のすぐ側まで追い込む。


 狼の長は、神楽が構えた鉄扇に噛み付いていた。

 それだけを見ると、彼の狼の攻撃だけは何とか防げたようにも見えた、けれど。


「っ、!」


 狼の長は一旦離れることも彼女と距離を取ることもしようとはせず、どころか、徐々に噛み付く力を強めていく。


 特別な拵えで造られている筈の鉄扇は、やがてみしみしと不吉な音を立て始め、よく見ると狼の長の牙も、少しずつ、僅かずつ欠け始める。


 狼の長の狙いは――神楽の鉄扇の破壊。


「武器破壊か……流石は妖狼の長。私を喰い殺すだけが目的と甘く見た」


 思わず感心の声を上げれば、舐めるな、とばかりに更に狼の長は顎の力を強める。


 恐らくは、鉄扇を砕いたと同時に彼の狼の牙も全て折れるだろう。

 それ程までの執念と覚悟を前にして、神楽は無意識に目を細めた。


「……だが、狼の長よ。私も、今回は退けない。この鉄扇も破壊される訳にはいかない」


 少しだけ、僅かだけ、申し訳なさそうな声音を滲ませつつ言いながら、神楽は鉄扇に更なる妖力を込めて――瞬間。


 狼の背後に膨れ上がった、存在感。


 狼の長が鉄扇に噛み付いたまま目を瞠ったと同時に、彼の狼の牙が数本、弾かれたように粉砕した。


 上がる悲鳴、だが、それさえも跳ね除けるかの如く、狼の背後に突如として現れた影は、彼の狼の背を引き裂いて、神楽の隣に着地する。


 その影は正に、名無しの男だった。


 神楽の鉄扇に傷はない。狼の長の牙を砕いたのは、神楽の力だった。


 口内と背中、同時に襲う激痛に、狼の長は地面の上で悶絶し、蹲り、呻き声を上げる。


 そんな長を守るように残りの狼達が次々と姿を現し、あっという間に十を超える狼達が神楽達を包囲した。


「神楽……」


 神楽を背に守るように立つ名無しの男が、心配そうな声で神楽を呼ぶ。


「余計な心配は無用だ。……さっさと行け」


「………」


 危機的状況を危惧する男に、しかし神楽は素っ気なく突っ撥ねる。

 男は僅かな間、神楽を横目で見遣って若干不貞腐れたような表情をしてみせたけれど、やがて、素早く身を翻して走り出す。


 向かう先は鳥居の向こう、鬼神が眠る洞窟の中。


「待て!!」


 どの狼かがそう怒号を上げる。

 しかし。


「な……!」


 狼達が男を追うべく駆け出した瞬間、鳥居の前に半透明の幕が地面から突き出した。

 神楽が、妖気を編み込んで作り出した障壁だった。


「あの男を追いたければ、私を殺すことだ」


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