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幻葬 あやかし鬼奇譚  作者: 和菜
序章
1/61

在りし日の残響

 

その存在を

それ故に

断罪するのならば

 

 人間が、燃えていく。


 生きている者も、既に死んでいる者も。

 意志など持たぬ筈の炎は、風に煽られるままに、側に在るもの達を飲み込んでいく。


 その、地獄の業火の中に在って。


 向かい合う影が二つ。


「――……もう良い。疲れた」


 暫しの沈黙の後、先に口を開いたのは、異形な姿をした赤黒い巨体だった。

 頭に角が二つ、両の口の端には鋭い牙が二つ、両の手には鋭い十の爪。


 “鬼”――そう呼ばれる、この世で最恐の妖。


 だが、彼の鬼は、見た目の悍ましさや語り継がれる恐ろしさとは裏腹に、本当にとても疲れ切った様子で、言葉を紡ぐ。


 同じくらい疲れ切った琥珀色の瞳で、目の前の“人間”の男に。


「もう我は、人の世と関わる気はない。かと申して、妖の世で生きる気もない。故に……我を滅せよ。お前ならば、それが出来るであろう」


 この命に死を、と。

 対する“人間”の青年は、深く深く息を吐き出して、力なく首を横に振った。


「――そんな事、俺には無理だ」


 彼の鬼と同じかそれ以上に、疲れ切ったような調子で。


「だが」


 何処か、淋しそうに。


「だが……見逃す、訳にもいかない」


 何処か、苦しそうに。


「だから」


 男は、手にしていた刀の切っ先を、鬼に向けて。


「お前と、ここに転がってる人間達には悪いが……中途半端な解決策を、取らせて貰う」


 鬼が男の言葉に眉を顰めた時、男の刀の刀身に、淡い光が宿る。

 男はそれを正眼に構えて、小さく、優しく微笑んだ。


「――“焔獄鬼(えんごくき)”」


 紡がれた名は、彼の鬼の真名。

 そしてそれは――人の世に古くから言い伝えられる、最恐にして最悪と歌われる、悪鬼の名。


「お前がもし、いつか目覚めて、その時まだ俺が生きていたら――」


 生きて、いたら。


 生きて、いるだろうか。


 “人間”であって“人間ではない”彼は。


 ああ、でも。

 いつ目覚めるかなんて分からないし、そもそも、目覚めたくなんかない。

 それでももし、いつか目覚めてしまったら。


 そしてその時、本当に、彼が生きていたなら。


 その、時は。


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