ナハール
「さてと、しかしこの人数どう運ぶ?」
「そうだな」
オレ達は盗賊共をナハールまで運ぼうとしていたがこの大人数どう運ぶか考えていた。
「空間収納に人間は入れられないしな」
空間収納に盗賊共を入れられるなら簡単な事だったがそれは出来ない。空間収納に人間を入れた事はないがオレの予想では多分死ぬ。
「よし、ならこうしようか」
オレは空間収納からさらに二台車を取り出した。
「来綺を呼んできてくれ」
「分かった」
宏太が来綺を呼びに行き、来綺が洞窟から出てきた。
「なんだ?終わったのか?」
「ああ、盗賊共は捕まえた」
「で、この盗賊共どうするんだ?」
「今から近くの街まで運ぶ」
来綺に事情を説明し、車三台を使って運ぶ事とした。
「じゃあ宏太はSUVで運転して盗賊七人運んで、来綺がミニバンで残りの盗賊を、オレとリリスと瑠璃はスポーツカーで後を追う」
これなら盗賊全員を一度に運ぶ事ができる。リリスと瑠璃は納得したが来綺と宏太はどうも納得していなかった。
「おいおい、リュウガだけずるいだろ」
「そうだぜオレと宏太に盗賊運ぶの押し付けて」
「当然だろが、スポーツカーはそんなに乗れないしお前らスポーツカーはまだ運転出来ないだろ?」
スポーツカーを運転できるのは現時点でオレだけ練習も来綺と宏太はまだスポーツカーを運転した事がなく練習もなしにいきなり運転するのは危ない。それを聞いて二人とも納得した。
「それじゃあいくぞ」
先頭に来綺が運転するミニバン、次に宏太が運転するSUV、そして最後にオレが運転するスポーツカーの順番で車を走らせた。
車を走らせて二十分程すると街が見えてきた。街の前まで行きオレ達は車を止めた。
「着いたか」
「うん、ここがナハール」
「凄いわね、海の上に街が浮いているように見えるわ」
瑠璃の言う通り、ここナハールは海の上に作られた街、大きさはルーベルクとほぼ同じぐらいで海人族が住む街だ。
「ん?周りの人がこっちを見てるわね」
「ああ、仕方ないだろ車なんてこの世界には存在していないんだから」
周りからは多くの視線を感じたがそれはおそらく車を初めて見たからだろう。
「おい!降りろ!盗賊共」
「さっさとしろ!」
車から降りてきた来綺と宏太は盗賊共を降りさせる。見ると二人は数十分の運転だったがかなり疲れた様子だった。
しかし無理もない。経った少しの距離とはいえ本来乗れる人数より多い人数を無理矢理乗せていたのだから窮屈で仕方なかっただろう。さらに野郎ばかりで臭いも最悪だったに違いない。
「さてと来綺、宏太盗賊共をこの街の兵に引き渡しにいくぞ」
「ああ、さっさと行こうぜ」
それからオレは車を三台とも空間収納にしまい街に向かって歩いていく。
「止まれ、見ない顔だな?」
街に入る手前で兵に止められる。この兵もまた海人であった。
「盗賊共を捕まえたから引き渡したいんだが」
「盗賊を?見たとこかなりの数だな?」
「ああ、二十人だ」
「お前達が捕まえたのか?」
「そうだが」
兵は不審そうな表情を浮かべていた。しかしそれは無理もない事、オレ達は五人、それだけの人数で二十人の盗賊を捕まえられるとは思ってもいなかったようだ。
「ステータスを確認する」
「分かった」
オレ達五人は全員ステータスを兵に見せる。すると兵の表情を一気に変わり態度も改まった。
「失礼しました!神職者様だったとは、どうぞお通りください!」
「助かる、それで盗賊共はどこに連れて行けばいい?」
「はい、ご案内いたします」
兵はオレ達を案内し始める。街に入るとそこはルーベルクとはまた違った街並みだった。街の中央には大きな川がありそれが奥まで続いている。また小さな船が何台も並んでおりこの船で街中どこでも移動できるようになっていた。
「ボス、あの男と女、神職者みたいですね」
「ああ、完全に運がなかったようだ」
盗賊共は先程の会話を聞いていたようで自分達が狙う相手を間違えた事に改めて気付かされたようだ。
オレが神職者として知られているのはルーベルクの街の人達、そして王都にいるクラスメイト達、それ以外には知られてはいない。ルーベルクにきた魔族を倒した件で徐々に広まりはするだろうがルーベルクから数百キロ離れたこの街ではまだ知られていなかった。
「皆さんはどちらから?」
「ルーベルクからエルスに向かってたんだが途中でこの盗賊共がオレらの車を盗もうとしてな」
「車?それはどういった?」
「ああ、車は速く移動できる乗り物でな、百キロの距離でも車なら二時間もかからない」
その言葉に兵は驚いていた。この世界の主な移動手段は馬車、馬車ならば百キロを移動するのには一日半から二日程かかってしまうからだ。
「いずれ商品として展開するつもりだ、高いがよければ買ってくれ、少しは安くしておくぞ」
「はい、ぜひ」
オレは車をこの世界に広めたいと考えていた。しかしそれは難しい事であるのは確か。何かを商品化するには国の許可が必要となるのだ。おそらく手続きは色々と面倒なものになっているはずだ。だがそれは普通の人の場合、神職者は自由に商品化する事が可能となっていてオレは車を商品として売るのになんの手間もないのだ。
しばらく歩くいていると収容所らしき建物が見えてきた。
「着きました、ここがこの街の収容所です」
「ここで懸賞金も貰えるんだよな?」
「はい、もちろんです」
どうやらここで盗賊共を引き取って貰えるようだ。ここは街の隅、周りには誰もいなくまたここに近づく者は殆どいないようだ。
「おい!とっとと歩け!」
来綺は盗賊共を収容所内に入れさせる。
「後は私にお任せください、少しの間ここでお待ちいただいていいでしょうか?」
「ああ、分かった」
兵が盗賊共を預かり収容所内に入っていく。
「おい、リュウガ」
「なんだ?来綺」
「次の運転お前がやれよ」
「そうだぜ、オレらに盗賊押し付けたんだからな」
どうやら来綺と宏太は盗賊共を運んでいた時の車内の状況が最悪だったようで少々苛立っていた。
「分かってる、だが今日はここで一泊して行こうと思う」
「大丈夫か?そんなのんびりして」
「ああ、会議は三日後、二日も時間があれば十分だ」
「まあ車なら問題ないわね」
瑠璃の言うように車での移動なら残り約四百キロを五時間もあればエルスに到着する。一日ぐらいここで泊まっていってもなんの問題もない。
「それにこの街は雰囲気がいい、ここでリリスとデートしてみたいと思ってたんだ」
「リュウガ……私も思ってた」
この街は海の上にできていてデートをするなら最高の場所、オレが思ったようにリリスも同じ事を思っていたようだ。
「なら瑠璃、オレらも久しぶりにデートするか」
「いいわね、デートなんてこの世界に来てから始めてじゃない?宏太」
オレとリリス同様に宏太と瑠璃もデートをしようと考えていた。二人はこの世界に来てからデートをしておらずこの機会にちょうどいいと思ったようだ。
「ちょっと待てよ、オレ一人じゃねぇか!」
「仕方ねぇだろ」
「彼女いない来綺が悪い」
「くそー!」
来綺は一人寂しく、街を散策する事になりそうだ。




