治癒神の誕生
(ここはどこなの?)
私リリスはつい先程、魔族によって殺されたはずだが雲の上にいた。いや、厳密に言えば肉体ではなく魂がそこにあった。
自分の身体を見れば全体が透けている事が分かり、これは肉体ではない事がすぐ理解出来た。
「私は死んだはず、つまりここは死後の世界という事なの?」
「あなたの人生はまだ終わってはいません」
私がここはどこなのかと辺りを見渡していると、何やら近くから誰かの声が耳に入ってきた。振り返るとそこには金髪で長髪の女性がいた。
「あなたは誰ですか?」
「私の名は治癒神ペンドラ。この神界を治める神です」
その女性は名乗った。身長は私より少し大きく、スレンダーな体型をして綺麗だった。
そしてペンドラと名乗るその女性は治癒神だと言う。
「治癒神?それに私の人生が終わってないと言っていましたが私はまだ死んでないんですか?」
「焦らないで、順番に答えていくので」
「ではまずこの世界の神のあり方について話しましょう」
そこから私は多くの事を教えてもらった。この世界には二十柱の善の神、十ニ柱の悪の神、計三十二柱の神が存在している。
この世界では神が存在しないと伝えられ続けて来た。だがそれは神自身がそう仕向けて来たからなのだ。神は基本的に地上の者達にはいっさい手を貸さない、自分達の存在が知られてはならない、そう言う決まりがあったのだ。
神はいつの時代も常に地上の様子を見ていた。そして神は自分が認めた者に力を与える事を行なってきた。それが神職の正体だ。つまりはリュウガやクレアもそれぞれ創造神、火炎神に認められて神職者になったという事になる。
「でも、そんな話しリュウガからは聞いた事……」
「それはそうでしょう、この事は神職者以外には知らせてはいけない事ですから」
神職者のみに共有されている情報、だからリュウガも私に話せなかったようだ。
「でも、なぜ私にこの事を?私は神職者ではないですよ」
私は疑問に思った。なぜ神職者でもない自分がこんな重要な事を知らされているのか、それも神みずからが情報を漏らす事が不思議だった。
「ええ、ですがあなたは認められたのです」
「認められた?」
「新たな神職者、治癒神として」
「え……なんで?」
私は神職者、治癒神としてペンドラに認められた。その事実が信じられなく私は困惑していた。
「私は少し前からあなたに目をつけていました、治癒神として相応しいかどうか」
「そうだったんですか」
「そして決めたのです、あなたをに治癒神としての力は与えようと」
ペンドラは私の治癒能力に前から惹かれていたようだ。なんでもここ数百年程治癒能力に長けた者が現れていなかったそうだ。そしてようやくペンドラが力を与えるに相応しい者が現れた。それが私だった。
「あなたが神職者となったのはあなたが死ぬ直前です」
「え?」
「本当にギリギリ出したよ」
ペンドラは話した。力を与えるにしても死んでいては与える事が不可能、生きているうちに力を与える必要があった。そしてなんとか死ぬ間際に力を与えられ治癒神の加護の発動により生き返る事が可能となったのだ。
治癒神の加護、それは一度死ぬ事によって自動的に発動し魂だけがこの神界へと呼ばれ、肉体は神の力によって蘇生される。肉体が蘇生された後に魂は肉体へと戻されるようになっている。
そして加護は発動をするたびに上限はあるが自身の強化を促す、今回はステータスが大幅上昇するようだ。
「現状、あなたは十三人目の神職者、そして善の神職者としては八人目となります」
「私が神職者……」
私はまだ実感がなかった。神職者はこの世界において最も高い地位に位置する存在、国の王よりも。リュウガやクレアと同じ神職者になったという事を。
「しかし七宮龍牙が創造神になってからまだ四十日程度しか経っていないというのにもう次の神職者が誕生するとは私も思っていませんでした」
ペンドラはいった、リュウガが創造神となったのは別の世界からこの世界へと召喚されてほんの数分後だと、今までにも類を見ない事だったと。
そしてその約四十日後、今度は私が治癒神となった。こんな短い期間で次の神職者が現れるのは初めての事のようだ。
「それで私の身体は?」
「ご心配なく後ニ分程で身体の蘇生が完了します、向こうの時間で言うなら後十秒といったところでしょう」
加護が発動された瞬間より蘇生は始まっていたようだ。私はここにきてから十分以上経つ、この神界の時間は地上の約十倍の速さで流れているそうなので蘇生にかかる時間はここで約十五分、地上の時間で一分半程と言う事だ。
「時間が限られていますので重要な事を話しておきます」
「重要な事ですか?それはこの事を神職者以外には話さないでと言うことですか?」
「それも重要な事の一つですが、もう一つあります」
ここでの出来事、そしてペンドラから聞いた事は神職者以外には他言してはいけない。仮に言ってしまえば世界に混乱を招くこととなる。
「治癒神の加護ですが、再度使用するのには時間がかかります。次は二百時間後、それまでに死んでも加護は発動できない事を忘れずに」
どうやら神の加護も万能では無く、一度使用したら再使用出来るまで時間が掛かるようだった。つまりその間は絶対死なないように注意が必要という事だ。
「はい分かりました、それと一つ聞きたいことが」
「なんですか?」
「地上は今どうなっていますか?」
「現在、敵の主力は魔剣神のみとなっています」
主力は魔剣神のみ、魔族皇や上級魔将は既に討伐完了しているとの事だった。そして残っている他の魔族もこのままいけば時期に全てが討伐されるとの事だった。
「そうですか、それは良かった」
「ですが治癒師やそれを護衛していた者達、そして戦っていた一部の者が死んでしまっていて、他にも多数の負傷者が出ています」
「え!……そんな」
おそらく治癒師達と護衛達は私を殺した魔族と同じだろう。私は大きくショクを受けた。
「ですがあなたは治癒神、神職者として覚醒した事により蘇生が使えます」
「え?蘇生を?」
ペンドラが言うには、私は蘇生魔法が使えるようになっているようだ。それを使うことによって死んでいた者を蘇らせる事さえ可能になる。しかしこれは同じ者には日に一度にしか使えず日に二度の死を遂げた者には使えないとの事だった。
「それと、神職者にはこの魔法は効果が適用されないのでご注意を」
神職者の身体は特殊な構造となっているそうでいくら治癒神といえどなりたての神職者にはその身体の蘇生は不可能だと言うことだった。つまりリュウガにはこの蘇生魔法を施しても生き返らないと言う事だ。
そうこうしている内に蘇生が完了し私の魂が肉体に帰ろうとしていた。
「これは……もしかして時間ですか?」
「ええそのようですね、くれぐれもここであった事は他言しないようにお願いしますよ」
「分かっています。それでは……色々と教えていただきありがとうございました……ペンドラ様」
次の瞬間、私の魂が神界から消えた。肉体の蘇生が完了して魂が肉体へと戻ったのだろう。そして私は目を覚ました。




