元神職者
数分前、魔族との交戦が始まった直後に一人のハイエルフの男が上級魔将と一対一で相対していた。
男の見た目は身長百七十メートル後半、標準的な体型をしていて銀髪、年齢はおよそ六百歳だがハイエルフは長寿で平均千三百歳なのでまだまだ若い方だ。
「そこのハイエルフの男よ、まさか一人でオレと戦うつもりか?」
「ああ、貴様なんぞ私一人で十分だ」
「な!……どうやら死にたいらしいな」
魔族はイラついていた、自身を前にしてたった一人で十分だと言われて。
ハイエルフはエルフよりも魔法の扱いに長けている者が非常に多く、魔力もこの世界の種族の中でもトップクラスだ。しかし魔族とそれも上級魔将クラスと比べればまだまだだ。
しかし男の目は自身に満ち溢れていた。まるで自分は負けるはずがない、必ず勝てると確信しているように。
「さっさとかかってこい、憎き魔族!」
「あ!?てめぇは骨も残さず木っ端微塵にしてやるよ!……″獄炎″」
「ならこちらも″獄炎″」
両手共、同じ魔法を繰り出す。業火が放たれぶつかり合う。
「ばかめ!同じ魔法なら確実にオレの方が……な!そんなバカな!」
「なかなかの威力だが私の方が上のようだな」
魔族の魔法は徐々に押され始め、男の魔法が打ち勝ちそのまま魔族に直撃した。
「がぁぁぁぁぁぁぁあ!」
「これで終わるようなたまではあるまい」
魔族は魔法の直撃により右腕と腹が吹き飛んでいたが十秒もすれば元に戻っていた。
「くそ!オレは上級魔将の中でも上位に位置する強さなんだぞ!」
どうやらこの魔族、上級魔将の中では強い部類らしく今日襲撃にきた四体の中では最も強いらしい。
「ああ、知ってるだから貴様と戦うと決めたんだ」
「な!知っててオレを狙っていたのか!」
この男、最初から一番強い上級魔将と戦う事が狙いだったのだ。
「お前は……お前は一体何者だ!」
「私の名はビヨンド・サルマキア」
「な!ビヨンド・サルマキアだと!ハイエルフでその名といえば!」
「元火炎神にして、現火炎神クレア・ファーレンローズの師だ」
瞬時、魔族からは大量の汗が出ていた、このハイエルフの男の正体はとんでもなかったからだ。
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時は昨日の予選が終わった数時間後に遡る。私クレアはとある場所に来ていた。
「お久しぶりですビヨンド師匠」
「久しいなクレアよそれで呼び出して何の用だ?」
「実は明日魔族がコロシアムに襲撃に来るのです、それで師匠にもご協力いただきたく」
私は師匠に助けを求める。師匠は私の前任の火炎神であり実力は神職者としての力を失っている現在でも相当なものとなっている。
「なに?だがクレアよお前の力があれば十分ではないのか?それにトーナメント出場者の中にも魔族に対抗できるだけの戦力はいるのではないのか?」
「確かにトーナメント出場者の中にも強者は何人かいます、それに創造神のリュウガもいます」
「創造神?」
「およそ四十日前に異世界から召喚された者です、まだ公には発表されていませんが既にかなり知られています」
師匠は私の強さを知っている。私がいれば問題ないと思わせる程に、しかし私は敵の魔剣神の相手でおそらく他に手が回せなくなる、だから師匠に是非とも協力して欲しいのだ。
「しかし私は魔剣神の相手で手一杯になります、なので師匠のお力をお貸しいただきたいのです」
「そうなのか、だが創造神がいるのであれば問題あるまい」
「いえ、リュウガの力はまだまだ神職者としては未熟、僅かな期間でとてつもない成長を見せていますが実力は魔族皇を少し上回る程度」
私の見立てではリュウガは魔族皇一体は倒せるだろうが二体を同時に相手にすると苦戦すると見ている。進軍してくる魔族皇が二体以上いる状況ではこちらが不利になってしまう。
他の者は強い者でも上級魔族にかろうじて匹敵するぐらいだ。この戦力では勝つ事は必然的に難しくなる。
「なるほどな、なら私も協力させてもらうとしよう」
「ありがとうございます、助かります」
師匠の協力が得られた。これで戦力は一気に跳ね上がる。他にも十数人程強者を呼んでいるが師匠程の者は一人もいない。
「では師匠には明日、上級魔将を一体受け持って欲しいです」
「容易い事だ」
「その後、周りの状況を見て一番やばそうな所に加勢をお願いします」
「了解した」
師匠は数百年前まで続いていた暗黒神率いる魔族軍との戦争を経験している程の人だ。実戦経験は私などとは比べ物にはならなく、状況判断も的確に行なってくれる。
「クレアよ、久しぶりに来たのだから茶くらい飲んでいくとよい」
「では、お言葉に甘えて」
それから私と師匠はお茶を飲みながら昔の話をし始めた。
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時は二十五年前、当時の私は十三歳、髪は今の赤髪ではなく茶髪であった。
「″獄炎″」
私はモンスターを相手に魔法の練習をしていた。私の才職は火の魔術王、数年前までは火の魔術師だったが鍛錬により成長していた。
「上級魔法はもう完璧のようだなクレア」
「はい、師匠!」
この時の師匠はまだ神職者、火炎神として世の人に知られていた。私はほぼ毎日のように師匠に特訓をつけてもらっていた。
「その歳で上級魔法を無詠唱でこなすとは対したものだ」
「私など師匠に比べればまだまだです」
私は師匠の事を尊敬し、実の父のようにも慕っていた。三年前、私が親を亡くし行き場のない人生を送っていた時に師匠と出会い、拾ってもらった。だから師匠は恩人でもあるのだ。
「今日の鍛錬はここまでにする、明日からは最上級魔法の練習に入る」
「はい!」
最上級魔法の使い手は世界に数百人しか使い手がいないとされている程の魔法、習得するには相当な時間がかかると言われている。師匠も習得には半年の年月がかかった程だ。
師匠は三百年以上も前から神職者の地位についていてあの魔族との戦争で生き残った程の実力者、あの伝説の初代剣神と共に戦場を駆け巡っていたらしい。
「おそらく暗黒神の封印は後三十年程で解けてしまう、だからクレアよお前もそれまでに出来る限り強くなれ」
「もちろんです、私はもっと!もっと、強くなるんですから」
暗黒神は歴代最強と言われている初代剣神が命をかけてまで封印した程の化け物。そんな化け物が後三十年で復活しようとしている。だから私は強くなる、師匠のように。
夜が明けて次の日、さっそく最上級魔法の練習が始まった。最上級魔法からは周りへの被害が出る恐れがあるため地下の訓練施設にきていた。
「″炎帝″」
師匠の前に巨大な魔法陣が展開され赤く輝き出した。魔法陣からは巨大な炎が放たれた。その炎に触れればただでは済まない、温度は三千度以上、おそらくまともにくらえば骨すら残らないだろう。
「これが最上級魔法、″炎帝だ、最初のうちは上手く展開できず、展開できたとしても発動に時間がかかる……とりあえず見様見真似でやってみろ」
「分かりました」
私は師匠がやったと同様に魔力を集中した、込める魔力は上級魔法よりも遥に多く、すると私の前に巨大な魔法陣が展開された。
「さすがはクレア、一発で魔法陣の展開に成功したかだが難しいのはここか……!」
「″炎帝″」
魔法陣は赤く輝きそこから巨大な炎が放たれた。師匠の威力には劣るが千度以上の高熱となっていた。
一発で発動出来た私は喜んだ。しかし師匠はひどく驚いていた様子だった。




