約束
「で、何で勝手に抜け出したの?」
現在、オレと瑠璃は秋達とギルドで向かい合って座っていた。瑠璃は特に嫌そうな顔をしていなかったがオレは明らかに面倒くさそうな顔をしていた。
(おい!瑠璃のせいで面倒な事になったじゃねぇか!)
(仕方ないでしょ!先生達が来てた何て知らなかったんだから!)
オレと瑠璃は秋達に聞こえないようにテレパシーを使ってそれぞれ会話していた。
確かにこうなったのは瑠璃が原因だが瑠璃のせいでない事は確かだ。
「何とか言いなさい!」
「うるせぇな、せっかく来た異世界で制限された生活をしたくなかっただけだ」
中々答えなかったオレに対し秋は声を上げた。オレと瑠璃は秋にとって大事な生徒の一人それ程までに心配していたのだろう。
しかしオレは秋に対して「うるさい」と返した。この世界にくるまでのオレならば担任の教師に対しては必ず敬語を使っていた。それには秋も他の生徒達も驚いていた。
「とにかく俺達はあんたらに用はない、じゃあな」
そう言って席を立とうとした瞬間、秋がオレの腕を強く掴んで離そうとしなかった。
「何だよ、離してくれ」
「離さないわ、私はあなたに聞きたい事がたくさんあるの」
オレならばこの程度容易くふり解けるがそんな事をすれば秋に怪我をさせる事になるかもしれないのでそれはしなかった。
「分かったよ但しできるだけ手身近に頼む」
「ええ、じゃあまずその姿はどうしたの?」
最初の質問は変わり果てた見た目だった。髪の色は黒から銀髪に、目の色は黒から青に、そして身長も五センチメートル程伸びていた事に全員が驚いていた。
「髪は染めて目はカラーコンタクト、それから身長はまぁ……あれだ……成長期ってやつだ」
オレは本当の事を言わず何とか誤魔化そうと思いつきで答えた。確かに髪色と目の色はそれで言い訳がつくが身長に関しては誤魔化しきれない。いくら成長期だからといってもたかが数十日ではせいぜい伸びても一センチだ。それを五センチも伸びたとなると無理がある。
「成長期って、それはさすがに嘘よね?」
髪色と目の色に関しては納得してもらえたようだが身長に関しては流石に無理があった。そこでオレはもう一つの答えを思いついた。
「ああ、本当は魔法で伸ばしたんだよ」
「魔法で?そんな事出来るの?」
「出来る、だが相当複雑な魔法だからそこらの奴には出来ないがな」
魔法で伸ばしたという答えに秋は納得してくれたようだった。
何故本当の事を言わないのか、それは創造神との約束に反するからだ。オレの今の姿は創造神の加護による影響、つまり秋達だけでなく瑠璃達にも言えない事なのだ。
「他には何かあるか?」
「次は……何故そんな態度を取るようになったの?」
その質問を聞いた瞬間、オレは「やはりか」という表情を浮かべた。
そしてオレは答えた。この世界に来てから合う者は殆どが自分よりも格下の存在、そんな者達に敬語を使うという行為事態ばがばかしくなった事。敬語で接する相手は自分よりも強い者だけだ、という事を話した。
「なるほど、七宮君は神職者だったわね」
「何故それを知っている?」
「受付の人に聞いたのよ」
話しによると初めてこのギルドに来た際に受付嬢のエルナからオレ達の事は少し聞いていたようだ。
「じゃあ俺が魔族を討伐した事も聞いたのか?」
「魔族を……討伐?」
「何だ、それは聞いてなかったのか」
どうやら魔族を倒したという事はまだ聞いていなかったようだ。しかしそれを聞いた瞬間、全員が驚愕の表情を浮かべていた。
「魔族ってあれでしょ、一番下の下級魔族でさえSランク冒険者クラスじゃないと勝てないと言われている」
「そうだな、俺が倒したのは中級魔族だが」
その言葉を聞いてまたまた全員驚愕の表情になっていた。オレから言わせれば神職者ならばこのくらいの事は当たり前という認識なのだが王城では神職者については詳しく教えて貰えなかったのだろう。
それから数分程質問攻めにあったが答えられる質問が殆どだったので大した苦労ではなかった。
「質問は以上か?それなら帰らせてもらう」
質問が終わり帰ろうと席を立とうとした瞬間、秋が「待って」とオレと瑠璃の足を引き留めた。
「まだ何かあるのか?」
「皆んなの所に戻って来て」
「私からも頼む」
「お前の力は素晴らしい、是非力を貸してくれないか?」
秋はオレに戻ってくるように言い渡した。それに続きエルミスとリーナさらには梨花達も続いた。
「あんたらの言いたい事はよ〜く分かった」
「じゃあ……」
「だか戻らない」
オレは断った。おそらく皆んなの元に戻れば確実に制限された生活に戻ってしまう。神職者であれば少しはその制限も緩和される事もあるかもしれないが制限される事に変わりわない。
しかしオレは冒険者をやっている今はこれまでの人生の中でも最高に楽しいのだ。それを捨てて皆の元に戻るなど言語道断だ。
「……そうだ、一つチャンスをやろう」
「チャンス?」
「ああ、来週この街で総合トーナメントという格闘試合が行なわれる。そこでもし俺……いや来綺か宏太でもいい、勝つ事が出来れば戻ってやってもいい」
オレは秋達に来週の総合トーナメントに出て自分達の誰か一人にでも勝つ事が出来れば帰ってもいいと答えた。何故そんな提案を出したかは簡単、秋達の実力はステータスを見れば丸分かり、どう足掻いてもこちらが負ける事はあり得ないと踏んだからだ。
「その言葉、忘れないでね」
「ああ、勿論だ。誰か一人でも勝つ事が出来たのなら俺達はあんたらの元に戻る」
そう言い渡しオレと瑠璃はギルドを後にした。秋達との試合などオレにとっては単なる遊びだ。本来の目的は優勝して火炎神であるクレアと戦う事だ。
しばらく歩いているとオレと瑠璃を待っていた来綺達の姿が見えた。
「おい!遅いぞ!」
「何だ、待ってたのか?」
「ああ、よくよく考えればリュウガなら全部半額で買える事を思い出してな」
オレは魔族を倒した功績からこの街の物、食べ物や家、武器など全て半額で買えるようになった。これのおかげでお金の心配はそこまでない。
「それで何をしていたの?」
「実はだな……」
リリスに聞かれたオレは先程までの出来事を話し出した。秋達にギルドでたまたま会った事、そして連れ戻そうとしている事。総合トーナメントで秋達が来綺か宏太に勝てれば戻ると約束した事も話した。
「おい!それで俺らが負けたらどうするつもりだ!」
「ありえないっての、ステータスを見たがどう足掻いてもお前らには勝てない」
「そうか、お前が言うならそうなんだろうな」
来綺と宏太は自分達がもし負ければオレも戻る羽目になってしまうそんな事になってしまわないか不安になったのだ。だがオレの言葉から不安は一瞬で解けた。
「その、秋って人がリュウガ達の元いた世界の先生なの?」
「ああ」
「ええそうよ、皆んなから人気がある先生なの」
秋は生徒からも人気があり皆んなから慕われていた。それは瑠璃や宏太、来綺にとっても言えた事だ。しかしオレは世話にはなったが慕ってはいなかった。そもそもオレはこれまで一度も人を尊敬した事などなかった。
オレは生まれた時から他人とは能力がかけ離れていた。五歳にして小学校卒業レベルの知能、八歳の時には中学卒業レベルの知能、十二歳で高校卒業レベルだった。
他には運動能力でいえば特に何もしていないのに体力テストでは常にオール十点、そんな能力を持っていれば尊敬できる人間などいるはずもない。
「さて、さっさと晩飯と酒を買って帰るか!」
それからオレ達は店で晩飯の材料と大量の酒を帰って家に帰った。確実に明日は二日酔いで動けない者が出てくる、そんな気がしてならなかった。




