クレア•ファーレンローズ
オレはかなり焦っていた。魔族のその圧倒的な力、長年の経験による戦闘技術を前にして立ち尽くしていた。
(くそ!これはまずい!加護の効果が復活していたら一度死んで強くなる手もあったが効果が復活するまではまだかなり時間がある)
オレが考えているようにこの状況を打破できるのは創造神の加護を発動させる事しか考えられない。しかし加護は一度使用してしまうと二百時間もの間使用が不可能となってしまう。
数日前の中級魔族との戦いによってオレは一度死に創造神の加護の能力によって生き返っている。その能力が発動した後のオレは発動前よりも遥かに強くなっていた。
今回もその能力を上手く利用して強くなる手を使いたかったがその能力が使用可能になるまであと四十時間も残っている。
「はっは!どうした?あなたの力はそんなものか?」
「舐めるな!」
焦ったオレは再び魔力を込め始めた。しかしここまでの戦いでオレはかなりの魔力を消費していた。更には先程使用した最上級魔法を使った時点で約七割の魔力を失っていた。
「今度は何をやる気だ?」
込められている魔力は先程の最上級魔法をも凌ぐ程だった。おそらくこの魔法で決着をつけるつもりなのだろう。だがこれで決まらなければオレの魔力は完全に無くなり勝機は無くなる。
「面白い!なら私も全力でその魔法を迎え討とう!」
魔族もオレと同じく魔力を込め始めた。確実に今までで最強の一撃を放ってくるだろう。つまりこの魔法の撃ち合いを制した方がこの戦いの勝者となる。
数秒後、両者共に魔法発動の準備が整ったようでほぼ同時に相手に向かって魔法を放った。
「これで決める!”大星渦潮”」
「押し潰せ!”大海星竜”」
オレが放った魔法は水属性最上級魔法だ。その魔法は大量の水から渦潮を発生させた。その能力は範囲内のものを魔法だろうが何だろが全てを飲み込む。
対して魔族の放った魔法も同じく水属性最上級魔法だ。この魔法は前方に津波を発生させる。ただ範囲を極限まで絞っている為その威力はより強大になっている。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
両者の放った魔法はぶつかり合いどちらも一歩も譲らない戦いとなっていた。しかしそのほんの数秒後、互角に思われた撃ち合いは徐々に変わり始めようとしていた。
「ちっ!」
オレの方が押され始めていたのだ。本来、今放っている魔法は全てを飲み込む魔法のはずだった。だが相手の魔法の威力が強すぎて飲み込む事が出来なかった。
(やばい!このままでは逆に飲み込まれてしまう!)
このままオレが撃ち合いに負けてしまえば相手の魔法と同時に自分の魔法も帰ってきてしまう。そうなればオレは自分が放った魔法に飲み込まれてしまう事になる。
「ちくしょう!」
「焦っているようだな!」
魔族の言うようにオレは顔に汗を流し、今までで一番と言うくらいに焦っていた。
この撃ち合いに負けるという事は死ぬという事、能力である創造神の加護が復活しているのならばまだしも復活していないとなるとどうしようもないのだ。
リリスの回復能力はオレも認めている程の腕だ。現に死にかけの状態から回復を成功させた事もある。だが死んだ者を蘇らせる程にはなっていない。つまりそこには期待が出来ない事になる。
「くそ!お前ら!限界まで俺の魔力を強化してくれ!」
オレの指示を聞き四人はすぐに魔力強化の支援を全力で行ない始めた。しかしリリスはともかく他の三人は本来は攻撃職で支援は苦手だ。魔力強化の支援もリリス程は当然出来なかった。だがそれでもないよりは幾分かマシだった。
「おし!うぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!」
劣勢だった状況は徐々に戻り始め最初と同じく互角の戦いにどうにか持ち直した。
「どうだ!持ち直したぞ!」
「やるな!ならこれは耐えられるかな?」
そう言った次の瞬間、魔族は今までよりもさらに魔力を高めた。信じられない事にここに来てまだ全力を出していなかったのだ。
魔族が魔力を上げ始めると互角になっていた撃ち合いは一瞬にしてオレが劣勢の状態へと戻ってしまったのだ。
(馬鹿な!まだ全力じゃなかったのか!)
それから数十秒程撃ち合っていたが遂に後少しでオレが打ち負けるという所まできてしまった。
「ここまでか……お前ら!早く逃げろ!」
「何を言ってるの!リュウガ!」
「そうだぜ!お前を置いて逃げる事なんて出来るか!」
オレはもう駄目だと悟り、四人に逃げるように促した。だが四人とも逃げようとはしなかった。
「ふっ、お前らならそう言うと思ったさ。ならせめて俺への支援はもういい。自分達の回復に専念しろ!」
「え!」
「おそらく魔族は殆どの魔力を失っているはずだ!今ならお前らでも勝てるだろう。だから次の戦闘に備えておけ!」
「分かった」
オレがそう言い渡すと四人はどこか悲しげな表情をしていた。だがこの前みたいに涙を流す様子は無かった。きっとこの前見たいに生き返ると勝手に想像しているのだろう。
だがそんな事は実際起きない。まだ加護が復活するまで数十時間もあるからだ。
「これで最後だ!」
魔族は残り少ない魔力を振り絞った。そしてついにその時は訪れてしまいオレは諦め目を閉じた。だが次の瞬間、どこからか声が聞こえてきた。
「下がりなさい!」
オレは声の主の言う通りに数歩程後ろに下がった。そして目を開けると目の前には赤い長髪の見た目およそ二十代後半の美しい女性が立っていた。
「喰らい尽くしなさい!”魔法喰”」
女性がそう唱えると先程までぶつかり合っていた魔法が一瞬にして消え去ってしまった。オレ達は信じられない光景を目の当たりにして固まっていた。
「……な!」
「大丈夫だったかしら?間に合ってよかったわ」
「た……助かりました」
オレは今の一瞬の出来事によってこの女性が只者では無い事を察した。明らかにこの世界でトップクラスの実力者が現れた事を理解した。
「ば……馬鹿な!何故だ!何故お前がここにいる!」
「その口ぶり私の事を知っているのかしら?」
「当たり前だ!魔族でお前を知らぬ者などいない!」
魔族は酷く怯えていた。それは先程一瞬で魔法を消し去った力にでは無い、怯えていたのはこの女性に対してだった。どうやらこの女性は魔族の間でもかなり有名らしくあの怯えぶりから察するに上級魔族では手に負えない相手という事なのだろう。
「さてと、よく耐えてくれたわね」
「あなたは一体?」
「私の名はクレア•ファーレンローズ、あなたと同じ神職者よ」
何と、女性の正体はオレと同じ神職者だった。だが明らかに今のオレとは比べものにならない程強い事がさっきの一瞬で分かった。
自分よりも強い相手だからこそオレはクレアに対し敬語を使用しているのだ。
「神職者!一体何の?それに何故俺が神職者だと知っているんですか!?」
「色々話したいけど話しは後にしましょう。まずはあの魔族を倒さないと」
オレは質問したい事があったがクレアの言う通り今は魔族を倒す事の方が優先だ。魔族の魔力はオレの考えでは残り少ないはずだが念のためクレアに任せる事にした。
「くそ!後少しだったのに!……私の運命もここまでと言うことか!」
「そうなるかしら」
「だが最後の抵抗はさせて貰う!……”炎帝”」
魔族は最後の力を振り絞り火属性最上級魔法を放った。




