才職
魔族との戦争に参加を決意した以上、オレ達は戦う術を学ばなければならない。いくらこの世界の人間よりも力が格段に上だからと言っても、元々は平和な国で育った日本の高校生、戦いに関しては素人だ。いくらなんでも何の準備もなしにいきなり魔族と戦うのは不可能だ。
しかし、その辺の事情は知っていたらしくゼガルド曰く、この国の騎士団と魔術師団が生徒達の訓練を受け入れてくれるらしい。
これから生活する場所についても生徒達全員、王城で住まわせてくれるらしい。生徒のほとんどはこれ程までに豪華な場所で暮らしたことがないので、大半は浮き足立っていた。
オレ達は先程までいた部屋を出て玉座の間に案内されていた。
十メートル以上はありそうな巨大な両開きの扉の前に到着すると、その扉の両サイドに立っていた兵士がゼガルドが来たことを確認し、扉を開け放った。
ゼガルドに続きリュウガ達も扉を潜った。ほとんどの生徒達は恐る恐るといった感じで扉を潜っていった。
扉を潜った先には、部屋の端から端まで真っ直ぐ伸びたレッドカーペット、その奥の中央には一際目立った椅子――玉座があった。ゼガルドは玉座の前まで歩くとそこに腰を下ろした。
その隣には王妃と思われる女性が、その更に横には十二、三歳の銀髪の美少年、十四、五歳程の金髪の美少女が控えていた。
「みなさん初めまして、私はこの国ナーベラルの王妃レイナ•ナーベラルと申します。この度はこちらの世界のことにあなた方を巻き込むことになってしまい申し訳ありません」
王妃がオレ達に向けて自己紹介すると同時に謝罪を行った。その後に残り二人も自己紹介をした。銀髪美少年はユリウス王子、金髪美少女はリンスレット王女という。
その後、歓迎会ということで晩餐会が開かれ異世界の料理を各々堪能した。見た目は地球の洋食とさほど変わらなかった。
「これ、めっちゃ美味しくない?」
「ああ、見た目はとんかつによく似ているけど味は全然違う。だけどこれはこれで美味いな」
「これも美味しいわよ。この金色に光ってる飲み物」
「この飲み物は見た目だけならあまり飲む気にならないが飲んだら普通に美味いな」
オレはいつもの三人と仲良く話しながら晩餐会を楽しんでいた。最初はこの世界に来て落ち着きがなかった三人だがもうすっかり大丈夫なようだ。
他の生徒達も各々晩餐会を楽しんでいるようだ。周りが騒がしくなっていることを確認して、オレは先程考えていたことを三人に話し始める。
「お前ら、大事な話がある。他の奴らに聞かれたらまずいからあんまり大きな声は出さないでくれ」
「なんだよそんな大事な話なのか」
三人は大声を出さないように注意してオレの話しに聞き耳を立てる。
「俺は隙を見てこの王城から抜け出そうと思う。おそらくこれから戦うための訓練や座学が始まる。それにこの世界のために戦えと言っていたが要は兵士として戦えってことだろ?そんなんじゃ自由に動ける時間は限られてくる。俺は異世界に来てまでそんな制限された生活はごめんだ」
「なるほど、リュウガの言ってることには一理あるな。だが一人で行くなんて言うなよ。俺も一緒にいく」
「じゃあ俺もだ」
「仕方ないわね、私も行くわ」
オレが話しを終えると来綺、宏太、瑠璃の三人も一緒について行くことを静かに伝える。
「へっ、俺から頼もうと思ってたんだがな。ついて来てくれるんならありがたい、決行の日はしばらく先になると思うが決まったらすぐに伝える」
三人は頷いた。この王城にはそこら中に警備が張り巡らされている。抜け出そうにもまずはこの城の造りを知ることが必要だ。
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翌日から早速訓練と座学が始まった。
生徒達は部屋の一番奥に水晶が置かれている講堂のような部屋に集められていた。しばらくすると部屋に二人の男性が入ってきて自己紹介が始まった。
「よし、全員集まっているな。まずは俺達の自己紹介からだ。俺は騎士団長をやっているルドラだ!よろしくな!」
「俺は魔術師団団長のアルテミスだ。よろしく頼む」
まず最初に自己紹介をしたのは騎士団長のルドラと言う男だ。身長は百九十センチメートル以上あり筋肉質な大男だ。
次に自己紹介をしたのは魔術師団団長のアルテミスと言う男だ。身長は百八十五センチメートル程あり金髪の美形だ。
自己紹介を終えた二人は生徒達にこの世界の ”職業” についての説明を始めた。
この世界で働いている人々は大半が与えられた職業を行なっている。この与えられた職業のことを ”才職” という。才職というのは職業の神から与えられた職業でその人の才能を最も発揮できる職業だ。この才職は十歳前後になると与えられる。
人々の大半はこの才職を職業とするのだが、中には自分の夢が諦められずに自分のなりたい職業に就く人もいるそうだ。
「この世界の職業については今説明した通りだが、当然お前達にもこの世界に来たと同時に才職が与えられているはずだ」
「では、右手を前にしてステータス表示と唱えて見てくれ」
二人がそう説明すると生徒達は一斉に「ステータス表示」と唱え始めた。オレも「ステータス表示」と唱えた。
生徒達が各々ステータスを確認する中、オレもステータスを確認する。
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七宮龍牙 17歳 男 レベル 1
才職 創造神(神職)
攻撃力 1050
体力 1080
俊敏性 1100
魔力 1200
魔法耐性 1030
物理耐性 1020
能力:魔法創造・武具創造・能力創造・物体創造・毒無効・全属性耐性・全属性適性・気配感知・魔力感知・創造力向上・言語理解・創造神の加護
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オレはよく分からない才職に疑問を浮かべていた。
「全員ステータスは確認したな?説明を始めるぞ?まずレベルがあるだろう?今は全員レベル1だと思うが経験を積んでいけば行く程上がっていく。そのレベルに上限はないが、100を越えている者はそうそういない」
どうやらゲームのように経験値を積んでいけば行く程レベルも上がって行くらしい。
「次にステータスについてだ。ステータスは日々の鍛錬やレベルが上がるにつれて上がっていく。魔力は他に比べて必然的に一番高くなるようになっている。それからレベル1の平均ステータスは大体20くらいだな。お前らならその数倍から数十倍は高いだろうがな!羨ましい限りだな!」
この世界のレベル1の平均は20くらいらしい。リュウガのステータスは全て1000を越えていた。平均を五十倍以上上回っていた。
(まじかよ!俺のステータスどう見てもチート級じゃねぇか!まぁ俺達は数倍から数十倍はあるって言われてるからこれが普通なのかもしれないが)
「次に先程説明していた才職だ。先程は言っていなかったが才職には非戦闘職と戦闘職がある。また戦闘職には普通戦闘職と上位戦闘職がある。そして全ての才職の頂点に君臨する職業を神職と呼ぶ。神職を持っている者は現在確認されている中ではたった11名しか存在していない」
オレは驚愕の表情を浮かべていた。どうやらオレの才職、創造神は超希少な神職と呼ばれている者だったらしい。
「神職についてはまだ詳しいことは分かっていないが、例えばこの国に火炎神と言う神職を持つ者がいる。火炎神の火魔術は神の領域と言われている。このように神職を持つ者はそれぞれ人間の域を超え神の領域に到達できる力を持てるようになるらしい」
なんとオレの才職、創造神は文字通り神の領域とされているらしい。オレは密かに喜びの笑みを浮かべていた。
「では、順番に前に来てステータスを発表してくれ。訓練内容の参考にしなくてはならないからな」
どうやら、それぞれ才職によって訓練内容も変わってくるようだ。例えば剣士ならルドラが、魔術師ならアルテミスが指導を行うようだ。
「おっと言い忘れる所だった!お前達の中にもし勇者の才職を与えられた者がいたならそいつをリーダーにするからな!勇者は神職のように神の領域に到達することは出来ないが人間の限界を超えた力を発揮することが可能な存在だからな!」
勇者は代々この世界の者ではなく、異世界から来た者の中から現れると言い伝えられているそうだ。神職程ではないにしろ人間の限界を超えることが可能なようだ。さすがに神職を与えられた者はいないと判断したようだ。
創造神の職を与えられたオレはこのことがルドラやアルテミスに知られたら確実にリーダーをやらされる羽目になってしまうことを悟った。そんな事になってしまえばここから抜け出すのはほぼ不可能になってしまう。オレは今ここでこの創造神の力を使って抜け出そう、そんなことを考えていた。